『梅田羊肉串』の“働きたくない店主”尾儀洋平さんは、なぜ働きたくないのか。その本当の理由をインタビュー。
羊肉串の店にも関わらず「串打ちをやりたくない」という理由から長らく提供しておらず、挙句の果てにはお客さんに串打ちをしてもらうシステムを導入……という型破りなスタイルがSNSで話題を呼んだ『梅田羊肉串』。店主の尾儀洋平さんは全面に「働きたくない」をアピール、SNSのアカウント名にも「働きたくない店主」と明記しています。入店にはお店のSNSのフォローが必須、飲み放題1,000円/1時間&永久に出てくる料理1,000円/営業時間という料金システム、店主の興が乗ってきたら開店して労働意欲がなくなったら閉店する営業時間など、何もかもが通常の飲食店とは全く異なる『梅田羊肉串』。MARZEL編集チームのtekuがこちらの常連ということで、なぜこのスタイルに行き着いたのか、なぜそれほどまでに働きたくないのか、インタビューさせていただきました。店にいる時間はだいたいスマブラをやっているという尾義さんの「働きたくない」の真意とは。ぜひ最後までじっくり読んでください。
前の店のとき、だらだらしてたら従業員も辞めて、売上も減って。でも経費が下がるから、利益は変わらんかったんです。それで、「あれ、これいけるんちゃう?」って思ったんですよ。
尾儀さんは「働きたくない店主」を明言し、お店もご自身が極力働かなくていいシステムにされています。なぜこのような営業形態に行き着いたのでしょうか?
もともとはちゃんと働いてたんですよ。中華料理屋をやってたんです、わりと真面目に。でもある時から疲れて、だらだらしてしまうようになって。そうすると、従業員もそんな店で働きたくないから辞めていくし、売上も下がっていって。でも、従業員が辞めて売上も下がったけど、その分経費も下がって、あれ、利益あんまり変わらへんぞ?ってなったんですよ。
なるほど、人件費とか、出ていくお金も減っているから。
それで、どんどんだらだらしてしまって。行くとこまで行ったら結局は利益も減ってしまうんですけど、でも、大丈夫な時期もあったわけです。だから、これは最初からそういう仕組みを作れば、最小限の働きでなんとかなるんちゃうかなと思ったのがきっかけです。
真面目にやっても、だらだらやっても変わらなかった部分をキープするというか?
そうそう、そこを上手に固定化させたら、働かんでもええんちゃうかなって思ったんです。
発見してしまったんですね。だらだらしてしまったのは、コロナ禍とかの影響ですか?
いや、もう5年以上前やから、ぜんぜん関係ないですね。社会的な影響はなんら関係なく、僕個人がただだらだらしてしまったというだけで。
中華料理のお店は、その後どうされたんですか?
結局たたみました。さすがに一度そういう下降線をたどってしまうと、立て直すのは相当難しいので、その店はもうデータを取ることに使おうと思って。ここは削減しても大丈夫、ここを削減したら影響する、みたいな実験をやって、最終的にたたみました。
データ収集をして、その中華の店は役目を終えたと。その後が、こちらのお店ですか?
いや、店をやめてお金もなくて困ったなって思ってるときに、元従業員の人が働いてる会社に誘ってくれたんです。ぜんぜん飲食とは関係ない職種で、給料は低いけど仕事はすこぶる楽やと聞いて、つなぎとしてはいいかなと思ってその会社に入ったんです。
なんの会社だったんですか?
ビルの管理とかをやってる会社でした。働いたのは半年ほどやったんですけど、いい気付きがいっぱいあって。そこで僕は正社員として、パートのおばちゃんたちの管理をするみたいな仕事をしてたんです。で、僕はまた前の店のときみたいに、働かなくてもいいラインを探ろうと思って。パートの方々が楽をしながら、売上的には問題ないところをキープできるラインはどこやろうと。
そこの会社でもデータ取りをされるわけですね。どんなふうにされたんですか?
ビルの管理なので、基本的に何も起こらなければ、問題ないんですよ。だから、絶対に異常が起きたらあかんところはこれまで以上に徹底してチェックするけど、管理会社の人間しか入れない部分とかは汚れようもないから、1日2日やらなくても問題ないんです。だからおばちゃんたちには「ここはええよ、何か言われたら僕やっとくから」って。
おばちゃんたちの反応はどうでした?
昔の人やから皆さんやっぱり勤勉なんですよ、決められたことはきちっとやろうとしはるし、私だけサボるわけにはいかへんわって。やから、おばちゃん1人ずつと喋って、「今日はもうええですよ」って早く帰ってもらうっていうのを全員やって、まんべんなくサボらせるみたいな。
すごい、サボらせる勤怠管理!
そんなに利益率の高い仕事じゃないから、おばちゃんたちがどれほど働いても時給は上げられないんです。それなら労働時間を短くすれば、実質の時給は上がるじゃないですか。そうすると、おばちゃんたちも恩義を感じてくれて、結果的に効率が上がるんです。オーナーさんの目につくとこをしっかり手厚くできるから、「ようやってくれてるな」ってなりますし。
おばちゃんもオーナーさんも会社も、みんなWIN-WIN-WINじゃないですか。
でもね、会社の他の管理者の人らが、あいつのとこだけなんやねんってなって。ほかの社員さんはみんな一生懸命やってる感を出してはったんで。それでまあ居づらくなって、それほど長く勤めるつもりもなかったですけど、半年ほどで退社しました。
新たなデータも取ることができましたもんね。
そうですね。この感じで必要最低限の仕事をして、余ったリソースはもっと喜んでもらえることにまわして、それで店やったらええんちゃうかなと思って、ここを始めることにしました。
尾儀 洋平
中華料理店に勤務し、中華料理店を経営した後、ビル管理会社を経て2019年大阪・梅田に『梅田羊肉串』をオープン。「働きたくない店主の店」を標榜し、ドリンクはセルフ、料理は勝手に提供という独自のスタイルで営業。ひっそりフェードアウトさせていた羊肉串は「お客自身が串を打つ」ことで復活、そのことを告知したツイートが大バズりし話題を呼ぶ。現在唯一情熱を傾けているものはスマブラで、スマブラオフ会等も開催。
梅田羊肉串
料金システム:飲み放題1,000円/1時間、永久に出てくる料理1,000円/営業時間
営業時間:店主の興が乗ってきたら~労働意欲がなくなるまで (ツイートで告知)
定休日:日曜・祝日
入店にはTwitterかInstagramのフォローが必須。