翻訳業から「なりゆきで」料理家に。飲食業に興味のなかった桑原亮子さんが、予約のとれない料理教室SPICEUPを主宰するに至った理由。
ハレの料理ばっかりじゃ疲れちゃう。手をかけたものも、そうでないものも、いろんな食事があっていい。
個人的な話で恐縮なんですが、私は料理が苦手で。どうしたら楽しめるようになりますか?
なんだろう、すごいものを作ろうとしないことじゃないですかね。がんばろうとすると楽しめないから。家庭料理なんて、すごくなくていいと思うんですよ。
めちゃくちゃ適当なんですよ……
適当でもいいですよ、全然。手作りにこだわらなくても、料理のもとを買ってきてささっと炒めたりとか、そんな感じでいいと思います。それも人と比べると、自分の料理が苦しくなっちゃうと思います。SNSにおしゃれな食卓の写真がたくさん上がってますけど、みんながみんな毎日そんなにすごいもの食べてるわけじゃないですから。毎日ハレの日みたいな食事ばっかりも、疲れますよ。ケの日はもう、自分が無理なく作れてそれなりにおいしいっていうラインで十分だと思います。
桑原さんは、ご家庭ではどんなものを作られるんですか?
和食でもなんでも作りますよ。でもカレーは試作が多いから、最近みんな飽きた感じがしますね(笑)。子供たちもスパイスとかハーブを使った料理も大好きで。ガパオとかタイ料理とかも平気ですし、10歳の一番下の子が「生モッツァレラとバジルのサラダが食べたい」とか言いますね。
すごい、味覚が大人…!さすが、舌が肥えてらっしゃる。
でも私も面倒なときは、コンビニでしゅうまい買って帰ったり、冷凍の餃子の日もありますよ。
そんな日があるんですか!?
ありますよー。仕事で一日料理して疲れたなあって日とか。子供たちにも、手をかけたものも、そうでないものも食べさせたほうがいいと思ってるんです。いろんな食事があっていいんだよっていう意味で。
ああ、それはそうかもしれないですね。
よく、うちの子供たちはおいしいものしか食べないんでしょって言われるんですけど、別にそうでもなくて。でも、食べることは好きな人たちなんですよ。コンビニのカレーも楽しそうに食べてるし。食べることが楽しいのは、生きてる要素のなかで幸せなことかなって思います。
趣味がないのが嫌で。来年は金継ぎと、畑を借りてハーブを育ててみようと思って、もう手配済みなんです。
仕事や子育てて忙しい中、一日のなかで大切にされてる時間ってありますか?
それが、趣味ってないんです。アロマとかって言うとかっこいいんでしょうけど、実際は本とか漫画読んだりしてますね。最近は『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を読みました。私すごく忙しい印象があるみたいなんですけど、夜なんてダラダラ漫画読んだりゲームしたりしてます。
それはすごく意外です…!
でも趣味がないのが嫌で、来年は新しいことを始めようと思って、もう手配済みなんです(笑)。ひとつめは、たくさん器があるので、金継ぎを始めようかなと思ってます。もうひとつは、このすく近くに農園を借りたんですよ。そこで、自分でハーブやターメリックを育ててみようかと思ってます。
お仕事でチャレンジされたいことはありますか?
オンラインレッスンを始めたら、以前通ってくださってた方たちとつながって、東京にもレッスンに行くことになったんですよ。実はオンラインレッスンってあんまり乗り気じゃなかったんですけど、始めてみたらすごく喜んでいただけて。地方だとスパイスやハーブの教室も数が少ないみたいで、東京も家庭料理に特化している教室はあんまりないらしいんですよ。
オンラインから東京教室へ、レッスンが拡大してますね。
全国色々なところに生徒さんができたので、実際にその土地を訪ねたいなと思ってます。どういう方が受講してくださってるのか、お会いしてお話してみたいと思って。それと、その土地土地で器だったり素材だったり、何かいいものがあればちょっと見てみたいですね。動くときっと何か発見があると思うので。
例えば5年後、10年後、これから先の展望について、教えてください。
もうひとつ、アトリエを作りたいなっていうのはありますね。物を作ったり場所を作ったりするのが好きなんでしょうね。あとは、人を育てるとか、応援する働き方ができたらいいかなと。飲食の仕事をしたい人とかに入ってもらって、一緒に働きながら、私の知っていることを伝えていくような、そんな事業の形ができたらいいなと思ってます。
桑原 亮子
料理家・SPICEUP主宰。広島県出身。スパイスやハーブを家庭料理に生かす料理教室が好評を博し、大阪・豊中にあるアトリエのほか、オンラインや東京でもレッスンを開催。そのほか、レシピ提供、商品開発、テレビ出演など幅広く活躍中。2022年はエプロンはじめ、オリジナルプロダクトをさらに充実させる予定とのこと。