ヴィヴィアン、ゴルチエ……コレクションが、そのままアーカイブ。生粋の蒐集家・竹内登さんが見つめるヴィンテージの未来。
南船場のレトロビル・大阪農林会館に店舗を構える『日本極東貿易』は、<ヴィヴィアン・ウエストウッド>、<ジャン=ポール・ゴルチエ>などのヴィンテージクローズを扱うショップ。代表の竹内登さんは、アーカイブの価値や意義が注目される以前から、そこを意識したセレクトを行ってきた言わば先駆者。今回は2021年3月に大阪農林会館での15年の歴史に幕を下ろし新天地へ船出すると聞きつけ、竹内さんにこれまでのこと、これからのこと、伺ってきました。
起源は、曽祖父がひらいたロシア帝国時代の百貨店。
『日本極東貿易』という店名は、竹内さんのひいおじいさんの会社の名前が由来なんですね。
曽祖父が旧ロシアのハバロフスクで、『大日本帝国極東貿易』という名で複合施設を経営してたんです。移民ですね。ハワイとかブラジルとかもトライをして、最後のロシアで当たって。でも、ロシア革命で日本に戻ることになってしまったんです。当時の建物は、今はレストランになってますね。
このレトロなビルに、年代も雰囲気もぴったりですね。
そういう思いもあって、アメ村からここに移転するときに、『日本極東貿易』という店名にしました。それが2005年ですね。当時はもうちょっと侘びた感じのビルだったんですよ。1階にスーパーがあったりして、わりと普通にボロいというか(笑)。そこが好きだったんです。でもいつの間にか、すごいハイソになって。ちょっと違うなあという気持ちがここ数年はありました。
たしかに、界隈を代表するおしゃれビルですよね。
このビルに入っていると、すごく尖ってるイメージが先行しちゃうんですよ。コアな常連さんだけが来るお店、みたいな。実際にそういう面はあるんですけど、一般のお客さんにも来てもらえるように、もうちょっと気軽な感じにはしたいなと思って。
新しいお客さんにもアプローチをしていきたいと。
ビル自体が有名なのでふらっと入ってくれる人もいたんですけど、コロナの影響でここ一年は少ない気がしますね。そういうのもあって、ポップアップの出店だったり、インスタライブをやったり、自分たちから表に出るっていうことに力を入れるようになりました。ここにいるだけでは、なかなか新しいお客さんには出会えないので。
革新的なものだけが、クラシックになり得る。
どんなきっかけで、古着のショップを始めたんですか?
もともとお店をやろうっていう気持ちはなくて、好きで集めたコレクションが結果的にお店になったというか、そんな感じなんです。ファッションは昔から好きだったんですけど、ヴィヴィアンに出会って、古着のTシャツとかをたくさん集めるようになって。大量のコレクションを人に貸したり売ったりしてるうちに、それがいつの間にか仕事になりました。
着るのではなく、集めるのが好き、なんですね。
コレクター気質なんです。カルチャーを買っているというか、なんだろう、絵画を買うような感じですかね。もちろん着てもいいんだけど、その作家の作品が好きだから買うというか。カルチャーとして所有したい。
ヴィヴィアンのどんなところに心惹かれたんですか?
ロンドンに遊びに行ったときに、面白いなと思って。メッセージ性が強いですよね、物申す服というか。80年代なら王室の問題とか、今なら環境問題とか、世の中に対して思うことをスローガンとして掲げているところの面白さ。その反逆性がすごい好きで。
おしゃれ、かっこいい、だけじゃなく表現をしている服。
ファッションっていうのはカルチャーだと思うんです。僕の中では「アヴァンギャルド」っていう言葉に落としていて。革新的っていう意味なんですが、革新的であるものが常にクラシックになり得ると思っています。
例えば、<Barbour(バブアー)>のオイルドジャケット。コットンにオイルを塗って防水性を保つって、ナイロンのない時代には革新的だったと思うんです。でも、今はもうオイルを塗る必要なんてないですよね。それでも、それがクラシックとしてちゃんと残ってる。
「アヴァンギャルド」が、竹内さんのセレクトの基準なんですね。
ギャルソンやヨウジが黒い服を発表して世界に日本のカルチャーを印象づけたように、革新的に物事をつくっていったものを残していきたい。それを見てもらう、アーカイブのショップにしたいと思っています。革新的なことが起きて、それが残っていく過程を、ここで見てもらえるような。そういう環境にしたいという想いはずっとあります。
80年代の服の情報は、ネット上にほとんどない。
竹内さんのファッション好きは、子供の頃から?
中学生ぐらいですかね。母親に「リーバイスっていうのがあって、それが欲しいねん」って頼んで買いに行って、種類がありすぎてどれを買ったらいいのかわからなかったりとか(笑)
ファッションで影響を受けたものはありますか?
なにかな……。雑誌はよく読んでました。『ハイファッション』とか好きでしたし、ストリート系の雑誌とかも。当時、雑誌で見たパンクの革ジャンがかっこよくて、自分は着ないけど欲しいなと思ったんですよね。でも実際にロンドンに行ったらぜんぜん売ってなくて。ロンドンならそこら中で売ってると思ってたのに(笑)
昔は海外の情報なんて雑誌しかなくて、それすら数カ月遅れでしたもんね。
今はリアルタイムでどんな情報も入ってきますけど、情報がないのがまた楽しかったんですよね。今はすぐに情報が手に入る時代だから、ネットで簡単に手に入らない情報を、僕らはちゃんと発信しないといけないな、とも思います。
それと、基本的に80年代の服の情報ってネット上にないんです。まだインターネットが普及してなかった時代だから、その当時のデータっていうのが蓄積されてないんです。そこがまたいいんですよね。
それこそ、アーカイブが大事になってきますよね。
80年代ファッションもそうですけど、ネットがない時代に流通していたものって、今あるものを整理して発信するしか情報がないんですよね。それ以外に、さかのぼる方法がない。
取り扱っているのも、その年代ですか?
70~80年代ぐらい、バブル期のものが多いですね。革新的、アヴァンギャルドでいうと、その頃のものがやっぱり勢いがあるように思います。世の中の景気とも連動して、ファッションも元気がありました。2000年以降のものは、そこまで心が動かない。
最近のファッションについては、どう思われます?
ファストファッションは、そっちが魅力的に見えるんでしょうね。魅力的だから売れている。だから逆に、こっちががんばって、興味を持ってもらえるようなものを用意しないといけないなと。「高いものやこだわったものは、今の子はわからない」じゃなくて、今の子にも興味を持ってもらえるものを扱ったり、それを表現していく必要があると思います。
それと、もしかしたら、ファッションの変革時期なのかもしれないとも思います。ボタンひとつで暖かくなるとか、マスクとメガネが合体しているとか、そういうものが出てくる、なにかが変わっていくタイミングなのかなっていうのは感じます。ファッションは社会と連動しているので。
ちなみにご自身は、ふだんどんなファッションを?
僕は……ワークウエアとかですかね。動きやすさ重視で。自分は表に出ることはないし、世界観はスタッフが表現してくれているので。プロデューサーとして引いたところにいます。
「GOOD BYE」、大阪農林会館での15年に幕。
いよいよ2021年3月末で移転とのことですが、新天地はどこへ?
森ノ宮を予定しています。今度は路面店で。飲食スペースとかもできたらいいなと考えています。
新たに扱いたいブランドやアイテムとかはありますか?
路面店なので多少レンジは変わるかもしれないですが、大きくは変わらないですね。ヴィンテージはヴィヴィアン、ゴルチエ、ギャルソン、ヨウジをメインに、あとはオリジナルブランドや作家もののアイテムとか。
今はバラバラに置いてある中から好きに選んでもらう感じですけど、新店舗では今月はギャルソン、来月がゴルチエとか、テーマを決めてやっていくのもいいかなと思っています。
オリジナルブランドの取り扱いもあるんですね。
<NIPPON>っていう、日の丸をイメージした丸いフォルムが特長のブランドなんですけど。スコットランドのタータン協会に登録されている生地を使ったものも、多く展開しています。
新しいお店、楽しみですね。
そうですね。おしゃれに全く興味のなかった人がうちのお店に来てファッションに目覚めたっていうケースもあるので、いろんな方に来ていただいて、ファッションに触れるきっかけになったらいいなと思います。
竹内 登
『日本極東貿易』所有者。<ヴィヴィアン・ウエストウッド>、<ジャン=ポール・ゴルチエ>、<ヨウジ・ヤマモト>、<コム・デ・ギャルソン>のヴィンテージを中心に、オリジナルブランド
日本極東貿易
大阪府大阪市中央区南船場3-2-6 大阪農林会館301(3月末まで、移転先は決定次第HP・SNSに掲載)
TEL/06-6253-2257
営業時間/12:00~19:00
定休日/月・火(祝祭日の場合、翌平日)
https://boctok.jp/