クリエーションの原点は“古着好き”のマインド。注目のアクセサリーブランド<リリバイセリ>のデザイナー、田中芹さんのこれまでとこれから。
今回インタビューしたのは、ポップアップを中心とした大阪発のアクセサリーブランド<リリバイセリ>のデザイナー・田中芹さん。昨年7月に実施したイーグルチャレンジにも協力してもらった彼女が手がける作品は、愛らしさのなかにほんのり毒っ気が入り混じるデザインが特徴。存在感のある大ぶりサイズながら、それぞれのファッションにすんなり馴染んでくれるんです。そんな彼女の素性に迫るべく、アクセサリー作りを始めたきっかけや制作におけるインスピレーションについて伺いました。独特の世界観を投影したインテリアにも注目してください!
2足の草鞋スタイルで活動していた古着屋&OL時代。一昨年に会社を辞めて、アクセサリー作家として本格的に始動しました。
芹さんのこれまでのことを聞かせてください。アクセサリー作家として活動される前は、どんなことをされていたんですか?
学生時代からずっと古着が好きで。服飾短期大学を卒業して手芸屋さんに勤めていたんですが、いつか自分で古着屋をやりたいという思いがあって、当時中崎町にあった古着屋『キークロージング(現在は北堀江に移転)』で働き始めました。だけど実際に店頭に立つうちに、接客があんまり得意じゃないということに気付いて、3ヶ月くらいで辞めて会社に勤めるようになったんです。その頃から空いた時間を使ってアクセサリー制作をしていました。
それが<リリバイセリ>のスタートなんですね。
そうそう、確か2015年のことだったかな。会社員と制作活動を両立しつつ生活していたんですが、南船場の古着屋『フロア』のオーナーさんが声を掛けてくれて、また古着の世界で働くことになりました。1年半くらい働いてまた会社員に戻るんですけど、少しずつブランドのポップアップの機会が増えて、制作活動との両立が厳しくなってきたんです。そこで20年に思い切って退社して、アクセサリー作家として本格始動することにしました。
古着屋と会社員とを交互に経験されてきたんですね。
ほんとはずっと古着屋になりたかったんです。だけど働いているうちに、私は結局服が好きなだけで、その良さを誰かに伝えたり共有したりするのは違うのかもと思うようになって。それで会社員になったんですが、なんだか退屈に感じて。もともと自分で何かやりたいっていう気持ちは強かったので、ちょっとした趣味のつもりでアクセサリー作りを始めました。
お話を聞いていると、最初は本業と両立しながら活動されていたと。会社に勤めながら制作するのは大変だったんじゃないですか?
結構苦労しましたね。平日は8時間ガッツリ働いてたからほとんど時間がなくて、休日にまとめて制作することが多かったです。とはいえ遊ぶ時間も欲しかったし、今思えばかなり忙しくしていました。会社員時代からポップアップもしていましたし、よく準備できていたなと思います。
安定した収入のある会社員を辞めて作家活動一本に絞るのは、かなり勇気のある決断だったのでは?
大きな決断でしたね。だけど知り合いの作家さんに声をかけてもらってグループで出展する機会も増えて、だんだん会社員との両立が難しくなっていったんです。いずれはアクセサリー作家として自分でやっていきたい気持ちもあって、思い切って辞めたのが1年半前。古着の接客は少し苦手だったけど、自分の作品を発信することは全然苦じゃなくて、むしろめちゃくちゃ楽しかった。この1年半はガムシャラに頑張ってきたつもりだけど、周りのサポートがあってこそだし、ここまでできるとは思ってなかったですね。
<リリバイセリ>はポップアップで広まったブランドだと思いますが、お声がかかるようになったきっかけってあるんですか?
やっぱりインスタグラムですかね。ただ作品を載せるんじゃなく、きちんと世界観を作り込んで撮影した写真を投稿するようにしていて。それを見た知り合いから「可愛い」「欲しい」という声を結構もらっていたんです。始めは古着屋繋がりのお客さんが多かったんですが、徐々に知らない方からもDMで仕事の連絡をいただくことが増えて。自分の世界観を表現するって大事なことなんだと思いました。
ここまで一年半やってきて手応えはどうでしょうか?
一歩一歩着実に階段を上がっている感覚はあって。仕事を辞めたことで制作に集中できるようになったし、美術館や展覧会に行く機会も増えて、自分の感性も少しずつ磨かれているような気はします。ポップアップに向き合う姿勢も変化して、これまでより責任感が強くなりましたね。以前は他で収入もあるし、多少納品数が少なくてもあんまり売れなくてもいいやと思っていたんです。
でも今はとにかく作って売らないと、ほんまに生きていかれへんから。誇張するわけじゃないけど、生きることにきちんと向き合うようになった。もともと真面目なタイプじゃないから、会社員時代は仕事中にこっそり携帯を触ったりサボったりもしてたんです。だけど今はとにかく動き続けないと、お客さんにそのニュアンスが伝わっちゃう。ポップアップの準備を一生懸命やったぶんだけ結果が付いてくるんだと気付いて、日々本気で向き合っています。
普段の制作活動が生活に直結しますもんね。作家活動をするようになって、人との関わり方は変化しましたか?
古着屋で働いていたときの人脈は、今の仕事にめちゃくちゃ繋がっている気がします。去年モデルをお願いしたイーグルくんも、最初に働いてた古着屋さんでたまたま一緒になって、今ではめちゃくちゃ仲良しやし。古着屋になる夢は挫折したけど、あの時の経験は自分にとって必要不可欠なものなんだと。
少し前に『フリークスストア』でポップアップをしたんですけど、スタッフさんがすごく協力的で色んなサポートをしてくれて。いつも買ってくれるお客さんもそうだけど、今の自分がいるのは助けてくれたり目をかけてくれたりする人たちがいたからなんだなって実感しました。周りの人たちにはほんまに感謝しています。
いろんな人が助けてくれるのは、芹さんの人柄があってこそだと思います。セレクトショップやアパレルに自分からアプローチすることはあるんですか?
最近はなかなかできないけど、お酒の席で「こんなんやってます」っていうことはあるかな。ガツガツきてくれて嬉しい人もいれば、「ウチの店のカラーには合わないな」って感じる人もいるやろうし。私も好きなものがあるからわかるけど、自分の芯とかこだわりを持ってお店をしている人が多いだろうから、無理に売り込むようなことはしたくないんです。
それは自分の芯をしっかり持って活動されてるからこそわかることですよね。最近はどれくらいの頻度でポップアップを開催しているんですか?
昨年は大体月に1、2回。多いときで3、4回ですね。
かなり頻繁に開催されていたんですね。びっくりです。
実を言うと多すぎたんです(笑)。スケジュールが丸かぶりだとさすがに断ることもあるけど、去年はもらった仕事を全部引き受けるつもりで頑張りました。すごくありがたかったけど、めっちゃ大変でしたね。去年は<リリバイセリ>の知名度が上がって、「こんなブランドあるんや」っていうので興味を持ってもらえることが多かったと思うんです。一気に広まったぶん、今年は少し落ち着くのかなと想定していて。しかもポップアップをやりすぎると準備期間が十分に取れなくて、一つひとつのイベントのクオリティが下がっちゃうんですよね。去年はそれに気付けたので、今年は一つひとつのイベントをきちんとこなして、新しいものをもっと生み出したいと思っています。
田中 芹
1991年生まれ、大阪府出身。“リリという寂しがり屋の女の子がつくるアクセサリー”をテーマにしたアクセサリーブランド<リリバイセリ>のデザイナー。ファッションとお酒が大好き。
リリバイセリ
ポップアップを中心に展開するアクセサリーブランド。デザイナーの田中芹さんがこよなく愛する古着からインスピレーションを得たデザインは、個性的ながらもファッションにすんなり馴染み、その人らしさを引き立てる。