それは“お店屋さんごっこ”から始まった。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主・竹重みゆきさんの14年。
「困ってるんです」って言いふらしてたら、運よく教えてくれる人に出会えたりして(笑)

「“お店屋さんごっこ”のノリで始めた」とおっしゃっていましたが、14年も続けてこられたモチベーションみたいなのは、どういうところだったんでしょうか?
なんでしょうね……楽しかったから、っていうのと、つぶれなかったから、ですかね(笑)。将来の目標とか壮大な理想とか、そういうのは全然なくて。展示にしても出版にしても、「この人の展示やりたいな」「この人の本、うちで売りたいな」って思ったら、半年後とか1年後に向けて動いているうちに、いつのまにか今、っていう感じで。
傍から見ると、お店も広くなって、ギャラリーや出版も始めて……すごく精力的に活動されてるなと思ってました。
やりたくなったことをやってるだけなんです。それに、ありがたいことに手伝ってくれる方が現れたおかげで、なんとかできてるっていう感じです。元店長が途中でいなくなったんですけど、私が社長っていう感じじゃないから、大丈夫かな、なんとかせなあかんなって手伝ってくれてるのかなって。


いろんな人に助けられながら、やりたいことをかたちにしてこられたんですね。ところで、『シカク』で扱う本は、竹重さんご自身がセレクトされているんですか?選ぶ基準やこだわりがあれば教えてください。
文学フリマやコミティアなどのイベントに足を運んだり、ネットで情報発信されてる方が多いので調べたり。選ぶ基準は、明確なものはないんですけど、どこの本屋にも置いてるようなものは置かない。例えば猫の写真集とか。かわいいからみんな好きですけど、大きい本屋さんでも買えるじゃないですか。そういう当たり前に誰もが好きなものは、置かないようにっていうことだけ。
内容によっては、お断りすることもあるんですか?
そうですね。昔は何でも置いてたんですけど、だんだんそれが難しくなってきたので、今はそういう基準を持つようにしてます。お断りするのは心苦しいんですけど、でもなかなか売れないと結局お返しすることになるので、そっちのほうが申し訳ないかなって。

セレクトショップだからこそ、訪れる方は竹重さんの選書に信頼を寄せているんですよね。セレクトだけでなく、本そのものを出されるようになったのは、どういったきっかけだったんですか?
作りたい本があるからっていうのが最初なんですけど、でも当時は、一人で出版をやってる人ってほとんどいなくて、どうやったら本が作れるのか全然わからなくて。だから「困ってるんです」っていろんなところで言いふらしてたら、運よく教えてくれる人に出会えたりして(笑)。イベントで知り合った出版関係の方に聞いたり、たまたまお店に来られた大福書林の方に、取次のことを教えてもらったりとか。出版社に入ればすぐにわかるようなことも、私は全部手探りだったので、遠回りしてすごい時間がかかりました。
出版社や編集プロダクションでのご経験があったわけではないんですよね。それでも本を一から編集・出版されているというのは、本当にすごいことだと思います。
そのときはとにかく、「この人の本を出したい!」って想いだけでした。見よう見まねでなんとかやってました。デザインも自分でやってるんですけど、「今ならこうするな」って思う部分もいっぱいありますね。

本のデザインもご自身で?
もともと専門学校でグラフィックをやっていたので。それもあって、紙とか考えるのが好きなので。
すごい、就職はされなかったけど、学んだことがちゃんと今に生きてるんですね。
そうですね、結果としてはかなり役に立ってるので、良かったです。

竹重 みゆき
大阪府枚方市出身。インディーズ出版&ギャラリー『シカク』店主。
専門学校卒業後、就職せずに“お店屋さんごっこ”感覚で、住居兼店舗の1Kからミニコミ誌ショップ『シカク』をスタート。中津商店街への移転を経て、2017年より千鳥橋に拠点を移し、ミニコミ、リトルプレス、CD、雑貨、衣類など、普通のお店に置いているけど普通の人は買わないようなニッチなアイテムを集めたセレクトショップとして営業中。展示やイベントも開催し、出版レーベルとしても活動。