知れば知るほど、世界の見え方が変わる!怪談師ユニット『おばけ座』が誘う、“怖い”を超えた実話怪談の魅力。


怪談を取材する中で、あり得ないと思っていたことが、僕が知っていた世界の外にはいっぱいあることがわかって(ワダ)

ファンブックもそうですし、WebサイトやYouTubeのサムネイルもすごくおしゃれですが、おばけ座としての見せ方・見え方みたいなものはどう意識されていますか?

深津:こういったデザインとかアートワークの面は、アートディレクターの仕事をしているチビルくんと、デザイナーのノゾミさんの方針がわりと強めに反映されていますね。怪談をイメージすると、髑髏から彼岸花とか血の手形とかそういうものが思い浮かびがちなんですけど、それよりもうちょっと身近にある話なんだっていうのを感じてもらいたいなと。「怖いぞお」とは言わないみたいな。

ワダ:ずっと違和感があったんですけど、メディアから求められる怪談のイメージは、髑髏から彼岸花なんですよ。でも、怖くない怪談もあって、怖くなくてもすごく面白い話がいっぱいあるので、そういうのを伝えていきたいっていう気持ちがあるので。髑髏から彼岸花のビジュアルで怖くない話をしちゃうと、ジャケ詐欺みたいになるので、このアートワークは自分たちの表現としてすごくマッチしてるなと思います。

イベント用に制作したファンブックは、40ページを超えるボリューム。「ファンブックなんですけど、自分たちで勝手に作りました」

この「怨霊学級Ⅱ」と書かれたカセットテープも気になるのですが、これは?

深津:ホラー・クリエイティブ・レーベルの<Kikizte(キキズテ)>さんから発売された、おばけ座のカセットテープなんですけど。設定が「中古市場で発掘された、今はなきメーカーが出した怪談カセットテープ」なんです。

ワダ:だから、最初からもう値下がりしてるんです(笑)

画像はメンバーの学生時代の写真を加工。フォントや紙質にもこだわり、リソグラフで2色刷りの特典ポスターも制作。

中古市場から引っ張り出してきた設定だから、値下げされてるんですね!中身はどんなストーリーなんですか?

深津:放課後の教室で怪談をしているうちに、とんでもない怪奇現象に巻き込まれるっていう話になっているんですけど。90年代に流行ったようなB級ホラーをイメージしています。

ワダ:同じレーベルから出ているほかの怪談師さんたちのは、もっとストリート感があってかっこいんですけど、僕らだけめちゃくちゃダサくて。しかも、「怨霊学級Ⅱ」って書いてるけど、Ⅰはないんです(笑)

深津:みんなモノづくりが好きなので、こういうのを作るのもすごく凝ってしまうんです。

本当にありそうなクオリティなのがすごいですね(笑)!そういう部分にこだわるのも、もっと幅広く怪談を楽しんでほしいという思いからですか?

ワダ:怪談師の中でも、これだけいろいろな話をするグループはほかにないと思います。怪談って怖いだけじゃなくて、もっと笑える話とか泣ける話とか、感情を揺さぶるものなので。怪異が起きたことを怪談と捉えて、広く楽しめるものだというのをわかってもらいたいなっていうのがありますね。そうなると、活動の幅も広がるし、もっと自由に楽しんでもらえるのかなって。

深津:現象を広く捉えて、これを怪談としてみたらどうだろう?っていうぐらいの感じで、いろいろな話をして楽しむっていう感じですね。もちろん怖さを否定しているわけではなくて、楽しみのひとつとしてはあって。怖くてもいいし、怖くなくてもいい。

これからチャレンジされたいことはありますか?

深津:近々取り組みたいのが、本を出すこと。みんなすごい量の取材をしているので、話すだけでなく、文章で4人の怪談話をまとめられたらいいなというのは野望ですね。

お二人は怪談話のストックはどれぐらいお持ちなんですか?

深津:数で言うと500くらいですね。

ワダ:僕は200くらいです。

そんなに!ということは、まだ世に出していないお話もいろいろあるということですね。ちなみに、最近の怪談界隈のブームについては、どう感じておられますか?

深津:すごく盛り上がってるなって感じますね。特にコロナ禍以降は、音声やYouTubeで怪談に触れていた人が、イベントに足を運んでださるようになって。その流れで、若年層の方が増えているのは感じます。20~30代の方が多いですね。無料のイベントだったりすると、小さい子がたくさん来てくれたりするので。怪談を普段から楽しんでいる人がこんなに増えたんだっていうのはすごく感じますね。

ワダ:怪談師でオカルトコレクターの田中俊行さんの「あべこべ」っていう有名な話があるんですけど、それを女子高生が完コピしてTikTokに投稿するくらいなんですよ。昔の実話怪談界隈は40~50代が中心だったんですけど、今そこまで広がってて。田中さんの呪物展にもいろんな人が来ていて、そういう目に見えないものへの関心が高まってるのかなっていう気がします。

田中俊行さんの呪物展は、MARZELでも取材させてもらいました!でもなぜ怪談はこんなに人の心を惹きつけるのでしょうか。

深津:なんでしょうね…。一言で言いたいけど難しい。やっぱり普通とか常識の枠の外にあることが、本当に日常にあるんだとわかったときのドキドキワクワクみたいな感じでしょうか。

ワダ:怪談をやって感じたのは、今まで知っていた世界はたったこれだけだったんだなということ。怪談を取材する中で、あり得ないと思っていたことが、僕が知っていた世界の外にはいっぱいあることがわかって。こんなことが実際にあるとなると、観測しきれないことが世の中にはいっぱいあるんだっていうのを感じました。

世界の見え方が一変するような感じ、わかるような気がします。最後に、仕事や生活において、怪談が影響していたり、怪談があって良かったと思うのはどんなところですか?

ワダ:僕は建築の専門学校出身で、建築事務所に就職して、それから独立したんですけど、京大東大出身でないと建築家にはなれないとか、どこどこの研究室に入ってないと建築業界には入れないとか、そういうヒエラルキーがあって、建築家になるのは無理って言われていたんです。その中で僕は上を目指すために、技術やデザイン力を磨くだけじゃない、弱者でも戦っていける方法を探していて。建築におけるオルタナティブ性を探してたんですね。今は作るプロセスをみんなで共有して、遊びながら建築を作るみたいな活動をしてるんですけど、建築の中でよくわからないジャンルを作って、そこを突き詰めていったんです。

ヒエラルキーの上を目指すだけじゃなくて、活動の裾野を広げることができるということがわかって。それは怪談でも同じで、話芸を磨いて上を目指すこともできるし、いろいろなジャンルの怪談を自由に楽しむスタイルを広げることもできる。そこは、仕事とリンクする部分でもあるかなと思います。

正攻法ではなく、自ら新しいジャンルを生み出して、別ルートを開拓していくと。深津さんはいかがですか?

深津:私は子供の頃から内向的で、人とコミュニケーションをとるのが苦手だったんですけど、本を読むのが好きで。本ばっかり読んでたんですね。本に没入することが、子供の頃の逃げ場になっていて。大人になって人とコミュニケーションをとるようになったときに、怪談をテーマに人の話を聞いたら、誰しも心の中に物語を持っているんだなっていうところにすごく共感して。

物語を作るという心の行為が、人を救ったりするんですよね。大切な人が亡くなったときに、なにかメッセージをくれたんじゃないかって感じたときに、悲しみが浄化されたりする。そういう怪談を聞いたりすると、怪談を作り上げることによって、人はその物語に救われているんだろうなって感じます。昔は、人がすごく苦手だったんです。でも、人、他者の中にもそういうものがあるんだなと知れることに、私も喜びを感じるし、いいなあと思うところで。怪談を使っていろいろな人の話を聞くっていうところに、一番ずっと惹かれ続けてるのかなと思います。


<おばけ座さんお気に入りのスポット>

struct(大阪市西区京町堀2)
靭公園にあるショップ。セレクトアイテムやオリジナルのスニーカーとかも取り扱いつつ、いろいろなイベントをやっていて、私が怪談に触れるきっかけになったイベントを企画していたお店です。ふだんから仲良くしていて、たくさんの人と知り合えた場所でもあります。プロダクトもすごく素敵です。(深津さくらさん)

ちのり文庫(京都)
心霊本だけを取り扱う古本屋さん。このたび実店舗を作ることになって、僕が設計と施工を担当しています。店舗を運営される黒田さんと河童を呼べる店にしたいという話になって、京町家のうなぎの寝床の一番奥にあるトイレにすごくお金をかけて、そこに河童を呼ぼうと計画しています。
その物件には枯れた古井戸があって、前には鴨川が流れているので、鴨川から井戸を通ってトイレに来てもらおうと。でも不思議なことがあって、そのトイレを作ることになったとき、僕の友達がトイレに小さい河童が丸まって寝ていて、それが猫ベッドみたいなものにポンと置かれてるという夢を見たんですよ。その数年後、物件のはす向かいの本屋さんで有名な絵本作家さんの展示があって、その中に僕の友達が夢で見た河童の絵があったんです。黒田さんはすぐその絵を買ったんですけど、帰って来たら、物件の隣に越してきた人が工事をしたことで、枯れてた井戸から水が噴き出ていて。もうこれ、河童来てるんちゃいます!?ってなりました。工事は今も進行中で、いつオープンするかわからないんですけど(笑)(ワダさん)

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Profile

おばけ座

実話怪談を取材•蒐集し、語りや文章などで発表する怪談ユニット。相互に語りあうコミュニケーションを軸にしながら、「怪談=怖い話」という観念を超えた怪談の現在地を探求している。メンバーは怪談師の伊勢海若、チビル松村、深津さくら、ワダ。ディレクションはNZM110。

https://www.obakeza.com/
YouTube:@obakeza

Profile

深津さくら

兵庫県在住。2018年『OKOWA CHAMPIONSHIP』出場を機に活動を開始。実話怪談の蒐集、語り、執筆などを行う。単著として『怪談びたり』『怪談まみれ』。『BRUTUS』にて怪談の連載などを行う。

https://www.fukatsusakura.com

Profile

ワダ

京都在住。怪談大好き建築家。 2019年よりニシ氏と共催する怪談番組「ふとしのホラーナイト」をきっかけに本格的に怪談活動を始める。 蒲田温泉で開催される6時間耐久怪談イベント「怨泉大宴会」を怪談サークルオカのじと共催し「OKOWA 〜胎動〜」「茶屋町怪談若手怪談師GP〜新鎌夜〜」などに出演。

YouTube:ニシノニシコ

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