歌舞伎界のプリンスが、上方の愛すべきダメ男に挑戦!「三月花形歌舞伎」に出演する尾上右近さんに聞く、歌舞伎の魅力と味わい方。
歌舞伎はネタバレとか言ってられないですから。『河庄』なんて『心中天網島』ってタイトルに書いてあるから、絶対心中するんですよ(笑)
関西と関東では、好まれる演目の違いみたいなものはありますか?なんとなく、関西のほうがベタを好みそうな気がしますが……
わかってて、やっぱりこれこれ!みたいなね。でも歌舞伎ってそういうものだし、だって普通の演劇だったらネタバレなんて絶対ダメじゃないですか。でもそんなこと、歌舞伎では無理だから。『河庄』なんて『心中天網島』ってタイトルに書いてあるから、絶対心中するんですよ(笑)。心中する設定で出てくるんだから、ネタバレとか言ってられない。
そうですよね、心中することを知った上で観てますから(笑)
しかも、いつ死ぬのかなと思ったら、結局劇中では死なないし(笑)。でもわかりきってるのが楽しいし、そして役者の組み合わせによってもまた違うし、観る人の感じ方によっても作品の魅力が変わってくるのが、歌舞伎の面白さでもあると思うんですよ。
同じ演目であっても、演じる人や、受け手の状況でまた全然違うものになるんですね。
あと、関西のお客さまはその日の雰囲気を楽しんでいらっしゃるっていうのはあるかもしれないですね。江戸はやっぱり型がしっかりあって、これを言うときの目線はここ、このときはこの柱を見る、とかが全部決まっていて、でもそれを決まっていないように見せるのがこだわり。上方は逆で、例えば「あの……」という言葉をセリフの中に何回入れても、ためらっているという気持ちが伝われば良くて、決まっているようで決まってない。そこが魅力じゃないかなって思います。
そういう違いがあるんですね。上方の演目は、よりライブ感があるというか。
ありますよね。今回の『河庄』も、資料映像を観ながら台本を開いても、全然台本に沿ったセリフが出てこないんです(笑)。これがまた面白いなと思って。でもその言葉をすべて音で覚えるのは難しいので、まず書き起こして、このときはこの順番で言ってる、このときはこのセリフを先に言ってる、というパターンをすべてピックアップするんです。その組み合わせのストックを作って、今日はこの流れで言っちゃったけど、後であのセリフを言えばいいんだなっていうのをわかるようにしておく。僕の場合は言葉のイントネーションもあるし、まだ思いつきではできないので、しっかりストックをしていくのが上方の芝居をやるうえでの準備ですね。
上方のお芝居を演じる上で、そんなご苦労と努力があるんですね……!
でも、努力とか熱演とか、そういうものが通用する演目でもないんですよね。おもしろおかしくずっと喋ってて、でもドラマチックな場面や突然泣けるところもあったりして、最後はしょうがないなって終わっていく、そういうほんのりとした魅力がある作品なので。だから本当に遠い道のりですし、僕からしたら、言ってしまったっていう感じです。『河庄』やらせてくださいって言っちゃった……っていうポジティブな後悔(笑)
ポジティブな後悔(笑)!どんなお芝居になるのか、本当に楽しみです。ただ、歌舞伎はどうしても敷居が高いイメージがあるのですが、「三月花形歌舞伎」を楽しむポイントなどはありますか?
今回の公演ではまず「乍憚手引き口上(はばかりながらてびきこうじょう)」として、解説を兼ねたご挨拶をさせてもらおうと思っていて。ここで、演目の説明はもちろん、自分が思う歌舞伎についてだったり、この公演に対する気持ちだったり、そういう役者の言葉をお伝えすることで、親近感が生まれるんじゃないかなと思ってます。
説明することが野暮だっていう感覚もあると思うんですよ。でも説明も大事だと思うし、どれだけ説明しても説明しきれない部分が、魅力なわけだから。なので今回は、自分たちが大事だと思うことを伝える時間を作らせていただいて、お客さまに気持ちを届けられたらと思っています。
先に解説を聞けるのはありがたいです!歌舞伎を見たことのない方に対して、見方や楽しみ方のアドバイスもぜひ。
これね、初めて観てくださった方が皆さん「こんなにわかりやすいと思わなかった」っておっしゃるんですよ。それはもうこちらの説明不足でしたすみませんっていつも思うんですが、どんなのイメージしてたの?って思うぐらい、ギャップがあるみたいなんです。だからまず、構えずに観ていただくことかなと。
構えずに観ちゃって大丈夫なんですね。
歌舞伎というのは、役者を観る演劇だと間違いなく言えると思うんです。例えば、近松の魅力を感じてもらうだけなら、極端に言えば脚本を読むだけでもいい。でもそうではなくて、立体的な人間観というか、人間味を感じてもらうには、役者のお芝居を観てもらうことが大切なのであって。やっぱり役者の魅力が伝わるように長年“型”を作り上げてきたのが歌舞伎の様式だと思うので、ぜひ役者を観に来てください。
この記事を読んでいただいたら、僕という人間をなんとなくわかっていただけたと思うので、その人間がどういうふうに歌舞伎をやってるかっていうのを、楽しみに観に来ていただけたらと思います。観た先に感じてもらえるものは必ずあるから、そこはもう逆にお任せして。こう観てくださいって言ってしまうとそれに縛られてしまって、それは双方にとって損だと思うので。
右近さんと同世代の方には、歌舞伎をどう観てもらいたいですか?
僕自身もそうですが、経験と感覚と、未完成な部分が絶妙に組み合わさっている世代が、20代後半から30代だと思うんですね。勢いもありながらある程度の経験を積んで理解できる部分も増えてきた、すごく面白い時期を迎えている気がするので、このタイミングで今こそ歌舞伎を観てもらうべき!と思ってやっています。
二代目 尾上 右近(おのえ うこん)
1992年5月28日生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。曾祖父は六世尾上菊五郎、母方の祖父には俳優 鶴田浩二。7歳で歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で本名の岡村研佑で初舞台。12歳で新橋演舞場『人情噺文七元結』の長兵衛娘お久役ほかで、二代目尾上右近を襲名。2018年1月七代目清元栄寿太夫を襲名。