“伝説のハガキ職人”による自伝小説『笑いのカイブツ』が映画化!ツチヤタカユキさんが「笑い」にぶつけた狂おしいのほどの情熱を、滝本憲吾監督はどうスクリーンに描くのか。
僕の「面白い」より、みんなの「面白い」のほうが、面白いかもしれないじゃないですか。それが交わってひとつのでっかい芯になって、お客さんに刺さればいいわけで。(滝本監督)
ツチヤさんの原作小説はとてつもなく熱い物語ですが、その原作を滝本監督はどう映画にしようとお考えになったんですか?
滝本:主観すぎないようにはやろうと思いました。俺ってカイブツだろ?みたいな感じに描くのはやめようというか、現代社会における一人の人間が、世間というものにどう変えられる話なのか、変えられまいとする話なのか。笑いというフィルターを通してますけど、一人間の話と僕は捉えたので、そこはちゃんとやろうと思いました。
主人公の目線に立ちすぎないということですか?
滝本:そうです。だから、勧善懲悪にはしてないです。ある程度の大人やったら、通った事がある道の中で描けると思ったので。人間ドラマとして、人間のエンターテイメントとしてね。それはツチヤさんの原作だったら出来るなっていう。
たしかに、先輩の構成作家さんも嫌な奴ではありますけど、ただの悪い奴とは思わなかったです。
滝本:社会ってそういうもんですから。だからって、ツチヤさんみたいなのをカイブツって追い出すのは違うやろって思うから。その追い出す行為が、カイブツなのかもしれない。そういう風に、見え方が広がればいいなと思って作ってます。
劇中のツチヤはベコベコのペットボトルで水を飲んで、いつも自転車で移動してましたが、あれは実際ツチヤさんがそうされてたんですか?
ツチヤ:自転車はそうですね、どこに行くのも自転車で。劇場と家も、40分ぐらいかけて行ってました。
滝本:ペットボトルの水は僕が考えました。街で見かけて、ツチヤのお金の無さを表現するのはこれだ、と思って。でもお金ないから、買ってるわけじゃないんですよ。買ってないのに持ってるっていうのをどう表現する?とかをみんなで考えて。
そういうところからも、キャラクターを作り上げていくんですね。
滝本:もちろん、髪型とか見た目もそうですし、持ち物、座る位置とかの動作、部屋とか家具とか、見えるものも見えないものも全部。机の上に置いてるものひとつでも、QUOカードこれくらい見せる、鉛筆の削りかすが散らかってる、消しゴムは捨てないから上に置いとく。
衣装から美術から、各方面からツチヤタカユキというキャラクターを作っていくと。
滝本:とは言っても、例えば衣装の色味まで僕が立ち合って決めるわけにはいかないんで、こういうイメージでというのを伝えて、衣装部を自分の作りたい世界観に上手に巻き込んでいくことが必要になってくるんです。それと同時に、衣装部も自分たちの考える「面白い」を提示してくれるんで、それを混ぜ合わせる作業もあります。
監督が一から十までというより、信頼できるスタッフさんにお任せできる部分は委ねながら?
滝本:そうです。菅田将暉くんが演じているお調子者のピンクの衣装なんて、ヒートテックを2枚合わせて着てるんですよ。
たしかに細身のピチピチでしたけど、ヒートテックだったんですか?衣装部さんが考えるピンクのキャラクター像っていうのがあったんですね。
滝本:衣装合わせのときピンクに何を着せるのかなと思ってたら、菅田くんが「これヒートテック2枚重ねてるんですよ」って言うから、面白いなあと思って。そんな発想、僕には思いつかない。それだけ自分たちで「面白い」を考えてる人たちがスタッフにいるっていうのは、僕からしたらすごい頼もしい限りなんです。
もっと監督が細かく指示を出すのかと思ってましたが、そういう感じなんですね。
滝本:そういう感じです、僕の映画は。だって、僕の「面白い」より、みんなの「面白い」のほうが、面白いかもしれないじゃないですか。それが交わってひとつのでっかい芯になって、お客さんに刺さればいいわけで。
見ているほうは小さい事まで気付かないですが、細かいところまで皆さん考えておられるんですね。
滝本:キャラクターだけじゃなくて、画づくりであったり色づくりであったり、全部そうです。総合芸術ですから。役者さんもスタッフも、みんなが持ってる力を120%以上発揮してもらうための場を提供するのが、監督の仕事のひとつなので。
だから、演じる天音くんの芝居にも影響があるから、僕らはちゃんとツチヤタカユキがいる環境を作るんです。だって、CGバックで「くそ、恐竜め!」っていうのと、実際に恐竜がいた時の「くそ、恐竜め!」は違うじゃないですか。
絶対違いますね。なるほど、セットや小道具は、演じる人のためのものでもあるんですね。その人の世界観のすべてを表すというか。
滝本:だから、映画ではカイブツが見えなきゃダメなんですよ。カイブツっていうのは、ツチヤタカユキを通して見えないとダメなわけで。実写でカイブツは出てないけど、笑いのカイブツっていう風に見えなきゃ意味がない。そこは、ツチヤさんを描く上ですごく大事だと思ってました。
滝本 憲吾
1979年5月3日生まれ、大阪府出身。『ゲロッパ !』(03)で初めて劇映画の監督アシスタントとして参加。以後、上京しフリーの助監督として多くの作品に携わる。2007年ドキュメンタリー『サディスティック・ミカ・バンド』(監修: 井筒和幸)で監督デビュー。監督としてCMやPV、テレビドラマを多数制作しており、現在は2024年配信予定のアクションドラマを撮影中。
ツチヤタカユキ
1988年3月20日生まれ、大阪府出身。高校時代からテレビやラジオ番組にネタを投稿。圧倒的な採用回数を誇り、“伝説のハガキ職人”と呼ばれるようになる。芸人による招聘で上京し、ラジオの構成作家を志すも、“人間関係不得意”のため挫折。帰阪後、自伝小説『笑いのカイブツ』を出版。近年は小説の執筆や新作落語の創作、吉本新喜劇の作家としても活動。