好きが交差する、自由で楽しいアロマデザイン。調香師・西村道子さんが提案する、日常をドラマティックに彩る香りのある暮らし。


もっと自由なイメージで香りを提案したくてフリーランスのアロマブレンドデザイナーに。大好きな飲食の世界に香りが結び付くとワクワクします。

アロマブレンドデザイナーってどんな仕事なんですか?

化粧品や入浴剤、香水の香りをデザインする仕事です。私は企業から発注を受けて香水の香りを作ったり、ハンドクリームやボディソープの香りを作っています。飲食店からの依頼で空間の香りをブレンドすることも多いです。

道子さんがアロマブレンドデザイナーになったきっかけを教えてください。

もともと外資系のコスメブランドに勤めていて、ライフスタイルのバランスを見直すため、独立して飲食店を始めたんです。当時から香りに興味はあったけど、香りにまつわる仕事をするようになるとは思いませんでした。飲食の世界に入って5年ほど経った頃、やっぱりアロマや化粧品が好きだなぁと思うようになって。ちょうど年齢を重ねて好みも変わって、ハーブをはじめとした天然の香りを好むようになった時期でした。自分自身の興味もあるし、せっかくならイチからアロマの勉強をして資格を取ってみようかなと。そこでアロマの資格を取って、最初はアロマ関連の検定を受ける人に勉強を教える講師をしていました。

講師をされていたとは、かなりお堅い職種も経験されていたんですね。そこから現在の活動に行き着くまでに、どんな経緯があったんですか?

自分が教える生徒さんがすごく真面目できっちりしていて。この植物の効能はこれで、こんな成分が入っていて……みたいな、本当に化学の授業をしているような感じでした。それはそれで良かったんですが、もっとおもしろいことができないのかなって考えていて。空間からイメージする香りやその日の天候に合わせた香りを自分なりに提案するうち、「お店の香りをオリジナルで作ってほしい」とオーダーが来るようになったんです。“教える”というきっちりとした仕事を経験したからこそ、自由なイメージでつくりたい思いが強くなったというか。私は時間帯や気分で香りを変えるのも好きで、そういうライフスタイルを提案していきたいという思いも今の活動につながりました。

ワークショップはいつから始めたんですか?

コロナ明けから始めて、今年で2年ほど経ちました。知り合いのお店で実施したり子どもに向けてやらせていただいたり、子どもが香りに興味を持つきっかけになったと言ってもらえたら嬉しいです。

空間の香りを考える際、どんなものからインスピレーションを得るんですか?

店主やお客さん、内装などをとにかく観察します。飲食店の香りだと、飲み食いの邪魔にならないのも重要で、テーブルの材質や植物の有無、インテリアの色味など、たくさん観察してイメージを固めます。以前、清水寺で行われた展覧会の香り付けをさせていただいた際は、お堂に使われているのと同じケヤキを使い、展示のテーマに合わせた香りを調合しました。

道子さんは昔から香りに興味があったんですか?

特にずっと好きだったわけではないです。だけどボディソープをバスルームに何種類も並べて、日によって異なる香りを楽しむとか、そういうのは好きで自然とやっていました。今も自分のおうちでは、スペースごとに香りを変えています。ただ、仕事として依頼を受けたプロダクトの香りをがんばって作っている時、家に香りがあると疲れちゃうから自分の生活に香りは一切いらなくなります。これは調香師あるあるかもしれないですね。

丸1日調香していると、鼻が疲れてご飯が食べれなくなるくらいヘトヘトになっちゃうんです。資格を取るための勉強をしていた時は、何十種類も香りを嗅ぎ分けなくちゃいけないからすごくハードでした。1日8時間ほど嗅ぎ分ける練習をしていた時は、電車にも乗れなくなるくらいしんどかったです。

香りって思った以上に身体に影響を与えるものなんですね。私は香水を買いに行くと、いろいろ匂いすぎて結果的によくわからなくなることが多いです。

それは人間の機能として仕方ないことで。いろんな香りを嗅ぐと鼻が麻痺するから、コーヒー豆が近くにあったらそれを嗅いで、なければ自分の匂いを嗅ぐとリセットされます。大体3種類ほど異なる香りを嗅ぐとわからなくなるので、都度リセットするのがおすすめです。

もともと鼻は利く方なんですか?

アレルギー性鼻炎持ちで通院しています(笑)。毎日薬を持ち歩いて、そうならないよう予防しているので安心してください。

香りって記憶を呼び起こすって言うじゃないですか。あれは本当ですか?

脳の記憶を司どる海馬の近くに香りを判断する細胞があって。だから嗅覚って視覚や味覚より一番伝達が早いんです。そこは人間の本能を司どる部分でもあって、この香りが好きだっていうのを本能的に感知できる。だから自分がつくった香りは結構覚えています。

これまでワークショップをやってきて、印象に残っているイベントはありますか?

カレー屋さんでイベントをした時に、お店のカレーに使っているスパイスと同じものを使ってハーブミストをつくったこと。アロマセラピーって女性らしいイメージがあるから、普段のワークショップは断然女性の割合が多いけど、カレーイベントとなると男性の参加率が高くて。「ブラックペッパーや山椒のエッセンシャルオイルってあるんだね」って言いつつ、気になるものを混ぜているところを見るのが楽しかったです。「あのカクテルに使われているハーブですよ」って教えると、それを加えてくれたりとか。私自身も食べたり飲んだりするのが好きなので、飲食と結びついた香りを調合して楽しんでもらえるのは嬉しいですね。香りってもっと自由で良いと思っているので、好きな食べ物やスパイスが香水になるというおもしろさも感じてもらいたい。オリジナルの香りをつくるって楽しいですよ。

香りの表現をする時に、ベースノートやトップノートという言葉を使います。これはどういう意味なんですか?

香りを感じる順番で、それぞれ植物によって決まっています。トップノートは香り成分が軽いから先に香って、ベースノートは重いぶん少し遅れて香りを感じる。トップノートはレモンやオレンジ、ベルガモットといった爽やかな柑橘系、ベースノートは根っこや樹木を使ったものが多くて。トップノートはベースノートと組み合わせることで、香りの持続性を高めたり深みをプラスできるんです。ややこしいからそれこそ座学ですけど、簡単にいうとそんな感じ。調香を行う際は、最初どんな香りが漂って、1時間後にはどんな香りに変化して、最後にどんな香りの余韻が残っていくのかっていうのを考えながらブレンドします。本当に化学の実験みたいですよね。

食と同じようにカジュアルな感覚で香りを楽しんでほしい。今後は廃棄する植物を使ったお香づくりにチャレンジしたいです。
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Profile

西村 道子

京都府出身。地元・京都を拠点に活動する調香師/アロマブレンドデザイナー。コスメブランドでの勤務、飲食店の開業を経て調香の道へ。現在はコスメや空間の香りをデザインしながら、さまざまな場所で香りのワークショップを開催。食べたり飲んだりするのが好きで、街の酒場にもよく出没。

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