幻のように現れる『橋ノ上ノ屋台』。仕掛け人の今村謙人さんは、路上を楽しむ気鋭の屋台プレイヤー。


屋台にもスポーツとストリートがあって。マルシェとかに出店するのはスポーツ、路上に出す『橋ノ上ノ屋台』は、完全にストリートですね。

ここ数年、いろいろなところで屋台のワークショップを見るようになった気がするんですが、なぜ屋台に注目が集まってるんでしょうか?

なんでしょうねえ。みんな買うだけに飽きてしまって、自分で売ったりする体験をしたいんですかね。僕は商売の面白さに目覚めたことがきっかけだから、屋台のワークショップでも実際に売るっていうところまでサポートしたり、相談にのったりできたらと思ってますけど。

そうですよね、今村さんはものづくり目線ではなくて、商売目線なんですよね。そこはちょっと意外でした。建築的な目線だったり、社会実験だったり、そういう感じかなと思っていたので。

建築的な面白さもありますよ。建築って硬くて動かないものが基本なんですよね。でも屋台はタイヤがあって動かせるじゃないですか。都市とか街も完成されたものではなくて、どんどん新陳代謝していく不完全なものだから、そこに動く屋台が来ることで、場所が魅力的に変わるんじゃないかなっていうのは考えてます。

橋の上も、屋台ひとつで明らかに風景が変わりますもんね。

いま屋台の本を作っていていろんな人にインタビューしてるんですけど、その中で社会学者の南後由和さんが、スポーツとストリートみたいなことを話しておられたんですよ。決められたルールの中でやるのがスポーツで、あいまいなルールの中で自分たちが考えて動くのがストリートって。それでいくと、マルシェの出店やワークショップはスポーツで、『橋ノ上ノ屋台』は完全にストリートなんですよ。

すごくわかりやすい例えですね。フリースタイルな公共の場の使い方。

一緒にやっている笹尾さんもストリートの人で、もともと橋の欄干にテーブル置いてお酒飲んだり、街中をもっと好きに使っていこうとしている人ですから。

日本の公共の場とか路上の使い方っていうのは、ほかの国と比べてどうなんですか?

日本はやっぱり厳しいですよね。外国は路上の商売に寛容で、生きるための手段として認められてる感じがありました。屋台の本の取材で、『街は誰のもの?』っていうブラジルのストリートを記録した映画を撮影した阿部航太さんに話を聞いたときも、ブラジルとかメキシコでは、街を使ってしかるべきだと住民が思ってるって言ってて。その辺の考え方が全然違うんですよね。

街を使うという感覚がないですよね。日本だと「公共」の場所だから、むしろ誰もさわらないというか。

だから結果的に、日本だと路上で商売するのには、やっぱり屋台っていう見た目があったほうがいいんですよ。そのほうがお店っぽく見えるし、コミュニケーションも取りやすいので。メキシコだと道端に座卓を置いても商売できるし、韓国ではシート広げて野菜を並べればお店になるんですけどね。

日本では路上で物を売るには、屋台という設えが必要なんですね。

タイヤがあるから移動もできるし。路上でやってるとクレームとかパトカーとか来ることもあるんですけど、そこで戦うんじゃなくて、続けるためには負けないようにしようって笹尾さんが言ってくれて。警察のほうも解釈がいろいろなんですけど、でも注意を受けたら、タイヤもあるしって移動するんですよ。

なるほど。戦うんじゃなくて、負けないように。

そうそう、目的は続けることだから。その点、タイヤのある屋台は柔軟に対応できるんです。

屋台そのものも、やる人も、柔軟性が大事ですね。じゃあ、『橋ノ上ノ屋台』はこれからも続けて行かれると。

そうですね、粛々と営業していく感じですね。

それは続けることでこうなったらいいなっていう、ビジョンみたいなものはあるんですか?

そこは笹尾さんがどう考えてるかちょっとまだわからないですけど。僕ら『橋ノ上ノ屋台』の打ち合わせはいつも銭湯でするんですけど、明後日その日なので、1年を振り返ってどうだったか話そうかなと思ってます。

今村さん的にはどうですか?

最初は屋台の数が増えていったら面白いのかなと思ったんですけど、今は増やすことは目的ではなくて。でも、ちょっと商売してみたい人が一緒にお店出したり、今日みたいに屋台を持って参加してくれたりするのは、いいかなと思います。増えすぎると結果的にやり続けられないから、その時々で、関わる人がいたりいなかったり。そんなゆるい感じの場所になるといいなと思います。

『橋ノ上ノ屋台』みたいな場が、ほかのところでも増えたらいいなみたいな思いはありますか?

この場所に限らず、ストリートで何かやりたいっていう人があってもいいと思うんですけど。でもなんだろう、ブームになってしまっても、僕らも活動しにくくなるのかなっていう気持ちもありますね。ただ、別に屋台でなくても、路上でちょっと立ち止まってお酒飲んだり、公園でピクニックしたりとか、公共の場を使うことへの寛容性がもうちょっと広まればいいかなとは思います。

この日は水引で作った動物を売る屋台も登場。この屋台も「占いをする方なので、占い用に」と今村さんが作ったもの。

確かに、いつもは通り過ぎる場所も、座ってみるだけでも風景が変わりますね。これから、こんな場所に屋台を出してみたいとか、やってみたいことってありますか?

ソエの実家がある韓国で屋台をやりたいなって思ってますね。知り合いも多いし、向こうのお父さんが工務店をやってるから材料とか道具もあるし、お父さんと屋台を作っても楽しそうだなって。

今後はこういうことに力を入れていきたいとか、将来的にこうなりたいみたいなことは?

日常を楽しくしたい、ぐらいかな。屋台も別にイベントとしてやってるわけじゃなくて、営業としてやってるので。日常の延長に、そういう面白いことをどんどん増やしていけたらいいなと思います。

カモメ・ラボさんのお仕事的にはこれからどんなことをされていくんですか?

屋台の本も予定してますし、屋台の学校も始めますが、今後は舞台をつくっていきたいなと思ってます。屋台も商売するための舞台だし、いろんな人が表現できる場を整えていきたいなと思って。あとは、茶畑のオーナーを募集する「ティーパーティ・ムーブメント」というプロジェクトもやっているので、屋台に限らずいろんなことをやっていきたいなと思います。

屋台から舞台って面白いし、お茶のこともやっておられるんですね。ちなみに、カモメ・ラボの名前の由来はどこから?

カモメみたいに自由に飛んでいきたいっていうのと、静岡に『DADALI(ダダリ)』って好きなカフェがあるんですけど、ダダリってヒンドゥー語でかもめって意味らしくて、そこからいただきました。


<今村さんのお気に入りスポット>

井尻珈琲焙煎所(大正区三軒家東)
大正の駅前なので、よく行きます。お店の人とも仲良くて、時々一緒に銭湯に行ったりします。

EMMA COFFEE(豊能郡豊能町)
イベントで知り合って何度かお邪魔してます。古い建物をリノベした空間がすごく居心地がいいんです。

スタンダードブックストア(天王寺区堀越町)
本を買うのはだいたいここ。オーナーの中川さんは大学の先輩なのもあって、仲良くさせてもらってます。

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Profile

今村 謙人

カモメ・ラボ代表。大阪市立大学大学院修了。新卒で入社した設計事務所を1年でクビになり、内装や工務店、飲食店などの職に就く。夫婦で世界一周の新婚旅行をした後、大阪へ。現在は大正区を拠点に、屋台づくりや出店のほか、社会実験などのプロジェクトやイベント企画など幅広く手掛ける。新たに「屋台の学校」をスタート予定。

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