【ぼくらのアメ村エトセトラ vol.5】 扉を開ければ、そこは…。『FARPLANE』のロビンさんが街と人と築いた、自分のコンプレックスから生まれた異世界。
いろんなカルチャーが交錯するアメ村の中でも、ひときわと言うか、圧倒的な異彩を放ち続けるバーがあるんです。それが、『FARPLANE』。日本語では遠い場所という意味を持つこのお店、一度足を踏み入れると、そこはまさに異世界。海外のゴシックやフェティッシュの香りはありつつも、そんな簡単な言葉じゃ説明できないほどのさまざまなカルチャーが重層的になって生まれた場所なのです。MARZELによるアメ村特集の第5弾は、これまで以上に濃いめでドープな『FARPLANE』にフォーカス。オーナーのロビンさんにじっくりインタビューしてきました!この異世界『FARPLANE』がどうやって生まれてきたのか、アメ村への憎しみが時を経て深い愛となる心情の変化、コンプレックスをトリガーにする歩み方、ヒモ生活などなど、ロビンさんの人間味をむき出しでお届け。これからのアメ村、カルチャーもナイトシーンも、もっともっとおもろくなってく気がするし、おもろくしようとする人がいる街って、やっぱおもろいんですよね!
自分が何者でもないことに負い目を感じてて、アメ村ならいつか認めてもらえるんちゃうかなと。お店もイベントも、そんなコンプレックスがあるが故に生まれたものなんです。
『FARPLANE』の誕生秘話から聞いていきたいと思うんですが、お店をオープンさせる際にはどんな想いをもってたんですか?
当時はずっとヒモとかをしてて、何の想いもなく始めたんです(笑)。よく遊んでた女の子と、アダルトグッズやダンサーの衣装のショップとしてオープンしたのが『FARPLANE』のスタート。今は4階ですが、オープン当初はこのビルの半地下のテナントに入ってたんです。
ヒモだったことについては後で聞かせてもらうとして(笑)、オープン時はバーじゃなかったんですね。しかも、お店の方向性としてもかなりドープ。
別にアダルトグッズを売りたい願望があったわけでもないんですよ。そもそも、ちゃんとした仕事もろくにしてなかったし。何も分からない中でいきなりお店を始めたけど、性に関することは好きで、やるなら突飛なものがいいなと思っただけで。
アメ村にもドープなお店は多いですが、2005年のオープン当時も『FARPLANE』は異質な存在では?
今よりも性に対しては閉ざした時代でしたが、徐々に理解もされるような頃だったかなと。他の人がなかなか通らん道だし、そんなことをしてる自分がちょっとかっこいいと思ってましたね。一歩先の考え方をもってるでって感じで。
他とは違うでと。それに、並列で扱われるような存在でもないですし。
でもね、素人がお店を経営したらどうなるかって言うたら、ただただお金がどんどんなくなっていくだけ。しかも、アダルトグッズは若い子には売れへんって分かったんです。元気なうちは必要ないなと、2年かけて気づきました(笑)
それでバーを始めた?でも、グッズの需要はなかったとしても、『FARPLANE』としての世界観は示せてたんじゃないですかね。
お店を始めて人の繋がりも増えてきたし、バーでもしよかなって。安易な考えでしたが、当時はショップを併設するカタチで同じビルの4階に移ってバーを始めたんです。自分らはアメ村の中でも“エロ屋さん”っていう意味分からん位置づけで見られてて、海外で言うフェティッシュやゴシックのシーンではあるものの、それをそのまま表現するつもりはなかった。好きなシーンではあるけど、スタートがアダルトグッズショップだからそこに結びついてやってきて、アメ村のいろんなジャンルの人たちと仲良くなっていくうちに今のスタイルに着地してきたのかなと。
いろんなカルチャーを受け止め、飲み込んできたから『FARPLANE』としての異世界が築かれていったんですね。
当時も今みたいな雰囲気はあったけど、とりあえずお金が全然なかったから、インテリアも拾いもんばっかり。バーカウンターも前の入居者に残してもらったやつを切って、テープで貼り付けてましたから。営業中にいきなりガシャーンって崩れたこともあった(笑)。マジでクソみたいな店でしたね。大概が行き当たりばったりで、「自分らが今できるのは何や?」って考えて動いてただけ。こうやって振り返ってると何かかっこよく聞こえますが、今となればあれこれ理由つけれるようになってるだけかもしれませんね。
そんな謙遜しなくても(笑)。『FARPLANE』の世界観を語る上ではお店はもちろんですが、イベント「FARPLANE NIGHT」も外せない要素だと思います。このイベントはいつ頃から始めるようになったんですか?
イベントを始めたのはバーをオープンした2007年からですね。ダンサー用の派手な衣装も扱ってたからそっちに振り切って、自分たちにしかできないものを作ろうと思ったのが始まり。
当初はライブハウスとかで開催してましたよね。あえてクラブではない、その理由って?
元々バンドもしてて、ライブハウス畑上がりの自分からしたら、クラブが流行ってるのがおもしろくなくてね。クラブ行って酒飲んで、音楽を聴くって、演奏じゃなくて流す音楽やったら家でええやんって思うタイプやったんです(笑)。今はクラブもええやんって、考えも変わってますけど。
なるほど。ロビンさん自身、他とは違うことをするってことが、やっぱり軸にあるんですか?
他とは違うことがしたいという想いはあるんですが、それはコンプレックスの現れでもあるんです。自分は一つのものが好きな人に対して、すごくコンプレックスがあって…。例えば、めちゃくちゃパンクが好きとか、音楽シーンの造詣がめちゃくちゃ深いとかもないし、自分が何者でもないことに負い目を感じてて。お店もイベントも、そんなコンプレックスがあるが故に生まれたものなのかなと思ってます。
でも、そのコンプレックスって、何かする上での絶対的な線引きにもなりますよね。コンプレックスを隠したり、誤魔化したりせず、向き合ってるからここまでの異世界が築けたんじゃないかなと。しかも、トガってる人が集まるアメ村という場所だから、余計に敏感にもなる。ちょっと話は戻りますが、そんな中でもアメ村に出店しようと思ったのはどうしてなんでしょう?
アダルトグッズショップを一緒に始めた女の子もパンクシーンのど真ん中にいて、自分もティッシュ配りのバイトでアメ村にはよくおったんです。それにバンド関係でもアメ村にはお世話になってたし、お店を始めることに大志は抱いてないけど、何かを発信する街という認識はあった。オープンして18年目を迎える今でこそ、この街には強い思い入れがあるけど、当時は「ここやったら何かおもろいことできるかな」ぐらいの感じでしたよ。ここなら、いつか自分を認めてもらえるんちゃうかなって。
ロビン
株式会社FARPLANE代表。2005年にアメリカ村に『FARPLANE』をオープンさせ、独自のカルチャーを発信しながら街のナイトシーンを牽引。多様な在り方と、人の強いこだわりと、相反するような心の在り方に働きかけ、「人に迷惑を掛けないならば好きに生きるべきだ!」の想いをコンセプトに、新機軸の世界観を表現する。2021年3月には心斎橋PARCOにも2号店を出店。今年11月25日(土)には、17回目を迎える「FARPLANE NIGHT」が味園ユニバースで開催されることが決定している。