ヒロトとマーシーに導かれて、20歳で落語の道へ。レコードと古着を愛する桂九ノ一さんが夢中になる「古典落語」の魅力。
落語というものをフランクに楽しんでもらえたら。やってるこっちがこんな感じですから、何も気にしてもらわんでもいいんです。
九ノ一さんが落語家になって良かったと思うのは、どんな時ですか?
落語をやってると、会場全体がひとつになって、呼吸をしだす瞬間があるんです。演者が指揮者になって、みんながひとつになる瞬間。それを体験した時は、落語やってて良かったと思います。その瞬間があるから、芸に夢中になれるんやと思います。
その瞬間のために、やっているような。
天井が高かったり、だだっ広かったり、ほかの音が聞こえたり、なかなか一体化することが難しい会場もあるんです。でも、届け!と思って必死でやってると、ふとその瞬間が訪れることがあるんです。
会場も違えばお客さんも違うし、落語って本当に生ものなんですね。
あの人のあれ、今日はなんでウケたんかな?とかね、人の芸を見てもいろいろ考えて勉強になるし、ほんまに飽きないんです。僕ほんまに飽き性で、バンドも一瞬やったし、レコードのジャンルもあれこれ変わるんですけど、でも落語ってずーっと面白いんです。入門してから落語のことをずっと考えてて、それでもわからんことばっかり。きっと僕が60になっても、わからんことってあるんちゃうかなと思うんです。そんだけ夢中になれる芸能なんですよ落語って。
すごい、消去法で落語家になったとは思えないです。
不思議なもんですね、最初はそんな面白いとも思ってなかったのに(笑)。いまは古典落語が好きで、若い人にもその面白さを知ってほしいし、そんな世界があったんやというのを体験してほしい。落語というものに触れてほしいんです。
でも落語ってちょっと、漫才より敷居が高い感じがありますよね。なんか変なとこで笑ったら、わかってない素人やと思われそうとか…。
それけっこう言われるんです、着物やないとあかんの?とか。そんなん全然いいんです、ジャージで来てもらってけっこうですし、もう映画見るぐらいの感覚で。落語家が、あなたのために演じてると思って聞いてください。それでもし、おもろくない話やったら、いまのあんまりやったな!ってまわりの人と喋ってもらえたらそれでいいんです。
そんな気楽な感じでいいんですね。
大丈夫です!落語というものをフランクに楽しんでもらえたら。やってるこっちがこんな感じですから、何も気にしてもらわんでもいいんです。僕ら舞台の袖から客席見て、若いお客さんやったらみんなめっちゃ気合入りますから(笑)
落語って気楽にどこでもやれる芸能なんで、気軽に声かけてもらえたら。あと、この前ターンテーブル買ったので、DJイベントのお誘いもぜひ。
先日のパルコもその前の天満天神繁昌亭も、九ノ一さんの着物がすごく素敵だったんですが、衣装はどうされてるんですか?
お客さんが作ってくださることもありますけど、基本は自分でつくります。僕ら身ひとつで元手がかからんから、せめて衣装ぐらいは。僕すごい色が好きで、カラーチャートとかずっと見てられるんですよ。まち歩いてても、この色の組み合わせすごいなとか、めっちゃ気になるんです。それで印象的やった色を、この色の着物にこの色の羽織りを合わせたいんですって染屋さんに持って行って、染めてもらったりしてますね。
私服の時はまた、印象がぜんぜん違ってびっくりしました。
そうですね。僕こういう服装がもともと好きやったんもあるんですけど、師匠に、あの人なんかやってる人やろなって見られる人になりなさいって言われたんです。たまにいてますやんか、あの人何者なんやろ?絶対なんかやってる人やなっていう人。そういう人になりなさいと。昔は意識しましたけど、好きなかっこしてたら今はそれなりに、なんかしてる人って思われるようになったかなと思います。
なんかしてる人にめっちゃ見えますよ! 私服は古着がお好きなんですか?
古着ですね。軍ものとかも好きで、ヴィンテージ古着と呼ばれるものにギャラをつぎ込んでます。あとは、レコード収集ですね。50~60年代のジャズが多いんですけど。
プライベートは全く落語家っぽくないですよね。その感じで古典落語っていうのが本当に意外です。
自分の好きなものを突き詰めて、その完成形をそのまま古典落語に持っていきたいって感じです。まあ僕の趣味もいまどきでは全くないんですけど、古典落語ってぜんぜん古いもんじゃないし、いまの九ノ一の感性で、古典落語をやりたいですね。
まだまだ落語家人生はこの先長いですけど、夢はありますか?
理想的なのは、「あの人のアレを聞きたい」って言われることですかね。九ノ一の●●が聞きたい!って言ってもらえるようなネタを、2つでも3つでも持てたらええなと思います。例えば、落語会のチラシの僕の名前の横に、その演目が書いてあるだけで、見た人がワクワクするような。何回聞いた話でも、楽しみにしてもらえるような、そんなネタを持つことができたら、落語家冥利に尽きるなと思います。
九ノ一の●●は絶品!みたいになるのが理想なんですね。
あと将来的には、まち歩いてたら声かけられてごはんおごってもらって、お店出たらまた次の人に声かけられて、あんたこれ持って行きってお土産もらうみたいな。そんな愛嬌のある人間になりたいなと思います。
いろんな人に可愛がってもらえる感じの?
おもろい奴やと思ってもらって、おもろい人といっぱい友達になりたいです。世の中、おもろい人たくさんいるじゃないですか。この取材のきっかけも、堀江の盆踊りに上方落語協会のゆかたを着ていったら、いろんな人に声かけてもらってつながったご縁ですから。落語家の九ノ一っちゅうのがおるということを知ってもらって、なんなら気軽にいろんな場に呼んでもらって、いろんな人に落語の面白さを知ってもらえたらうれしいです。インスタのDM開放してますんで、お気軽に!
どんな場所でも、いったんご相談ください、ですよね。
落語ってほんまに気楽にどこでもやれる芸能なんで、興味のある方は声かけてもらえたら。あと、この前ターンテーブル買ったので、DJイベントもお誘いがあればぜひ。
バンドもされてたし、音楽もお好きなんですね。
大好きですね。僕ブルーハーツがめちゃくちゃ好きなんですけど、ヒロトとマーシーが雑誌のインタビューで、レコードと落語が最高みたいなことを言うてたんですよ。それを見て、ヒロトとマーシーが言うなら間違いない!と思ってレコード収集を始めたんです。やから、落語に対しても、ポジティブなイメージはあったと思います。
ある意味、ヒロトとマーシーに導かれたような?
そうですね、落語を始めたのもきっと間違いやないんです。ヒロトとマーシーがおもろい言うんやから。
<桂九ノ一さんのお気に入りのお店>
スパイス居酒屋 はらいそsparkle(大阪市西区江戸堀)
ここの店主のジョルさんが落語好きで、僕の会にも来てくださったり親しくさせていただいております!カツカレー茶漬けが絶品です!一風変わったスパイスカレーをお求めでしたら是非!!!
桂 九ノ一
1995年 11月7日生まれ。大阪府立箕面高校卒業後、2016年3月1日、桂九雀に入門。「上方落語若手噺家グランプリ」第6回・7回決勝進出。天満天神繁昌亭など寄席への出演のほか、自身のイベント「ラクゴ・ラモーン」を開催。