国内外の映画祭で受賞し続ける『虹が落ちる前に』が、大阪で再上映決定!監督のKoji Ueharaさんが抱いてきた映画への想いと愛と、これからについて。
「嘘に近づいてる」ってセリフも、別にこの映画のために作った言葉ではない。自分の中で潜在的にあった言葉であり、自分にも言い聞かしてる言葉だった。
試写を観させていただきましたが、登場人物も多様だし、それぞれが抱えてる感情だったり葛藤がすごく生々しいというか、リアリティがあるなと思いました。
生々しさとかリアリティの部分については別に意識はしてなくて、自分のやりたいこと、見てきたことや聞いたことをなるべく忠実に表現したらそうなったのかなと。
フィクションだけどノンフィクションのような感覚もありました。忠実に表現するという部分では、Kojiさんが役者の方々に演技をレクチャーすることもあったんですか?
1回だけですね。主演の守山君のシーンでちょっとオーバー気味の演技があったので、その時だけ「ちょっと抑えよう」と伝えました。それ以外は役者の子たちに「あーして、こーして」なんて言ったことはなかったですね。クランクインの後から参加する子には先に撮影したシーンを見せながら、「この温度感でこの世界観ができてるから、これを見た上で想像して!」と話してたかな。そもそも自分は役者じゃないから演技のことを偉そうに言える立場でもないし、それよりも空気感を伝えることが大事だなと。「こんな絵が撮りたいから、こんな風に動いてほしい」とは伝えてましたが、演技についてはお任せでしたね。
ちなみにKojiさんは、役者の方々との距離感はどんな感じでしたか?あえて距離を置くという監督もいると思いますが。
実は今日も取材の前に主演の守山君からたまたま電話があって、プライベートの話を相談されてたんですよ。僕は、別に距離を詰めることが正解とも思わないし、距離を置くことが不正解とも思ってない。あくまでも人間の付き合いなんで、その部分についてはすごくナチュラルにしてますね。撮影中は僕も役者と一緒にずっと寝食を共にしてましたし。
確かに、人間同士の付き合いに立場は関係ないですもんね。
それこそ、今日取材してもらってるこの場所で寝泊まりしてましたよ。ここに布団敷いて、多い時は8〜9人いましたからね。
合宿みたいだし、楽しそう。
そんな状態だったから仲良くなったのもあるし、あえて仲良くなろうとか、距離を置こうとか、僕自身がそもそも人間の距離や関係値を意識してないんですよ。だから、自然とそうなったのかもしれませんね。みんなと飲みに行って和気あいあいとしてるのが最高とも思わないけど、単純にそれが楽しいと思えてる。別にそれでいいかなと思うんです。
Kojiさんのスタイルに、役者の方々も惹き込まれたのかもしれませんね。
あーだこーだ話しながら毎晩飲んでましたし、再上映などもあってプロジェクト自体がまだ続いてるので、役者の子らとは今でもよく飲みに行ってますよ。
いいチームですね。役者の子たちとの何かエピソードはありますか?
1つ挙げるとしたら、クランクアップしてみんなでメシに行った時の話です。僕が喋るひと言、ひと言に男性陣はアツくなって泣いていくんですよ。例えば「お前らと会えてよかったわ!」とか言ったらピーピー泣き出して、でも女性陣はみんなあっけらかん(笑)。男性陣におしぼりを渡して、「はいはい」みたいな感じでいる光景がおもしろくてね。女は強いなって思いましたね。
その対比、めちゃおもしろいです。でも、それだけKojiさんの言葉が響いたんだろうし、いろんな想いが交錯しての涙だったんでしょうね。言葉と言えば、映画の中で発せられるセリフもすごく印象的でした。個人的には守山さんの「僕は嘘に近づいてるのは分かってたんだ」というセリフは、すごく好きです。あの言い回しは、脚本を作ってる時にふと思いついたものなんですか?
ちょっと洒落た言い方になりますけど、普段から常に“何か”を考えるようにしてるんです。考えてると人間って不思議なもので、考えれば考えるほど答えに近づくヒントが出てくる。それを書き残すようにしてて、「嘘に近づいてる」ってセリフも、別にこの映画のために作った言葉ではないんです。自分の中で潜在的にあった言葉であり、自分にも言い聞かしてる言葉でした。
なるほど、Kojiさんの中にあった言葉だったんですね。
何十年も前から「いつか映画を撮りたい」と言ってたけど、やらない自分がずっといましたから。日々考える中でいつしかそのやらない理由も考えるようになり、お金の問題だけじゃなくて、やると言ってて全然やらないことにも嫌気がさしてきたんです。そんな思考を繰り返してると、あんな言葉も生まれてくるのかなと。
だからなのか、すごく重くて響く言葉でした。
画角とか動くスピードとか、僕の感覚ではすごく意識してたこと。映画祭で芸術賞をいただけたことで、その意識は間違ってなかったんだなと。
映画が完成後、さまざまな映画祭に出品されてましたよね。中でも門真国際映画祭2021では最優秀作品賞を受賞されましたし、ハンブルグ日本映画祭では特別芸術賞と映画賞のダブル受賞!他にもいろいろありますが、その率直な感想は?
すごくありがたいですし、正直にうれしいです。昔から賞なんかもらったことなかったですから。でも、別に審査員に向けて作ってたわけじゃないし、受賞を目指してたわけでもないっていう、変な反骨心もあって。「もらえたらいいな」ぐらいの感覚だったので、ここまで受賞できるとは思ってませんでした。それに、門真国際映画祭2021では、出演したメインの3人も受賞できたのもうれしかった。いろんな賞をいただけたことで「所詮、チンピラが作った映画やろ!」とは思われない見え方になったかなと(笑)
(笑)。やはり周囲からの見え方も変わったと。
それはありますね。ドイツの映画祭で芸術賞を獲ってるとなれば、それなりの見方をされるようになりますし。言い方は悪いですが、そういう意味ではハッタリとかもかませるかなと。ほんと、ありがたい話ですけど。
しかも長編初監督作品での受賞ですしね。芸術性の高さが評価された証ですが、Kojiさん自身は映像美の部分もかなり意識はしてたんですか?
おこがましい言い方になりますけど、昔からいろんな日本映画を観てて、ポピュラーな映画ほど妙に役者のアップが多いなと感じてました。役者の顔だけが映ってるから、そのシーンだけを切り抜くと絵になってないと思うことがよくあって、自分が映画を撮る時は1シーン、1シーンがパネルになることを意識してたんです。パネルにされた時、その1枚からいろんなことが想像できるような絵作りを考え、丁寧に繋ぎ合わせたものにしたいなと思ってましたね。
画角や視点、映画そのものの捉え方がKojiさんならではですよね。確かに『虹が落ちる前に』でも、普通なら守山さんがクローズアップされるであろうシーンなのに、全然そうじゃないシーンもありましたし。
そこはかなり意識してました。その人を映すよりも、その世界で今何が起こってるかを伝える方が絶対に大事だと思ってるので。
だからこそ、この映画の世界観に引き込まれるし、空気感の微妙な変化とかも感じ取れる。
それに絵がキレイとよく言われるんですが、カラコレ*じゃなくて画角とか動くスピードとか、その部分はめちゃくちゃ考えないと美しいと言われるのは難しいと思ってたんです。僕の感覚ではすごく意識してたことだから、芸術賞をいただけたことで、間違ってなかったんだなと。「これでよかった!」という安心感はありましたね。
*映像の色彩を補正する作業。カラーコレクションの略。
意識してこだわった部分だからこそ、芸術賞という評価はうれしいですよね。『虹が落ちる前に』は2022年3月19日から全国で順次公開され、大阪でも9月16日(金)から再上映されることが決定しました。地元の大阪で再上映されるということで、心待ちにしてる方々にメッセージをお願いできればと!
前回は九条の『シネ・ヌーヴォ』で上映していただき、今回はアメ村のBIG STEPにある『シネマート心斎橋』で9月16日(金)から9月22日(木)まで上映していただきます。『シネ・ヌーヴォ』も大阪が誇る由緒ある映画館でしたが、僕自身がアメ村のカルチャーと共に青春時代を過ごしてきたので、今回の再上映はすごく感慨深いというか…。自分の映画がアメ村で上映されることを、どう表現したらいいかも分からないくらいです。うれしさや興奮よりも、自分の作ったものに何か意味ができたなと。
何十年も前に「いつか映画を撮りたい」と語ってたことが実現し、しかもKojiさん自身が青春時代を過ごしてきたアメ村で上映されるんですもんね。昔からの友だちもすごく楽しみにしてるんじゃないでしょうか。
映画に興味のある人はもちろんですが、アメ村とかでスケボーして遊んでる子たちにも観てもらえるような場所ですし、昔からの知り合いも含めて、いろんな人に観てもらえたらなと。観る人を絞って作った映画じゃないし、自分の中では音楽映画とも思ってない。映画を楽しむという意味では間口を広くして作ったので、そう思って観に来てもらえたらうれしいですね!!
9月16日(金)から9月22日(木)の7日間全て、上映後に出演者やゲストを迎え、Kojiさんとのトークショーもあるので皆さんぜひ!!
Koji Uehara
映画監督、音楽家。2019年にプロトタイプで制作した短編オムニバス映画『#000(シャープスリーオー)』が関係者上映会ながら、東京、大阪、名古屋の3都市で行われ、約1,000人以上もの観客が来場して高い評価を獲得する。長編初監督作品となる『虹が落ちる前に』はさまざまな映画祭で受賞し、短編2作目の『Orange girl friend』は、先日行われた岩槻映画祭で観客賞と審査員特別賞をダブルで受賞。
その一方で、素顔を隠して活動している某ロックバンドではヴォーカリストを務め、3年連続出演のサマーソニック、ロッキンジャパンといった国内の大型フェスだけではなく、ロンドン、韓国、台湾など海外でも多数のイベントやフェスに出演。さまざまなアーティストへの楽曲提供やプロデュース、ミュージックビデオの制作なども行っている。