「人生は思っているほどシリアスじゃない」。映画『ニワトリ☆フェニックス』の公開に先駆けて、キャスト陣にインタビュー!


「漠然と過去を後悔する。漠然と未来を怖がる。期待する」という台詞が印象的。漠然と未来に期待して、漠然と怖がっているんだと気付いてハッとした。

今回は、いわゆる前作からの続編とは少し違う、とお話しましたけど、作品を拝見する前に監督から「今作はパラレルワールドみたいな感じ」とお聞きしていました。実際に見終わってみたらまさにそうで、これは個人的な解釈ですが、前作『ニワトリ★スター』のエンディングからの続きというか。“あの時の行き先”がこの世界だったのかなって。

成田:なるほど。そういう見方もありますね。

井浦:そんな素敵な解釈をしてくださるなんて。

草太と楽人の旅の目的のひとつに「フェニックス(不死鳥)探し」がありますが、フェニックスとは、この物語……、草太と楽人の二人にとって何の象徴だと思いますか?

紗羅:私は逆に、実際にフェニックスが居るとか居ないとかはきっかけに過ぎないのかなって感じました。それぞれの人生に分かれていた草太と楽人の二人をまた結びつける気持ちのとっかかりというか。二人がまた再会して、そこから二人で一緒に持てるひとつの目的が重要だったのかなって。それが、例えばフェニックス以外の何だったとしても。

井浦:理由は何でもいいんだよっていう。

紗羅:そう。ただ会いたくて、一緒にいたいだけなんだけど、何となくその理由をこれにしようっていう。

井浦:そうだね……、確かに。うん。何でもいいんだよね。

成田:前作で、楽人が沖縄の空に“羽ばたいて”いったじゃないですか。その草太が不死鳥となって還ってきた!って、そういう辻褄もあると思いますね(笑)

井浦:ニワトリがフェニックスになって還ってきた!っていう、監督のなかの辻褄としてはきっとそう。それで今、ふと思い出したんだけど、僕と凌と監督と話していた時に「旅って、何を目的で行く?」って話題になって、「その土地にある神話とか伝承を掘り下げていく旅の仕方っておもしろい」って言ってて。撮影したい場所をいろいろリサーチしていくなかで、そういう伝説とか神話が伝えられている場所を探してたんだよ。

結局、実際に土地に根差しているリアルな伝説を物語に組み込むのも面白いんだけど、さっき話した「ニワトリからフェニックスに」っていう辻褄が監督のなかにあったから、伝説よりも何よりも、そこに帰着させるためにいろんな場所を巡りながら物語を動かしていったっていうか。草太と楽人の物語は、これからも続いていくのかどうなるのかはまだ未知なんですけど、1作目に続いて2作目を創り出すことってかなりパワーが必要だと思うんです。今作は特に、前作をひっくり返したような物語になっているし。「フェニックスになって還ってきたんだ」という監督のなかのひとつの大きな理屈が、物語の気骨になっていたんじゃないかなって。

今作は特に、会話や言葉の中にあるメッセージを強く感じました。死生観や人生訓のようなものが。みなさんの印象に残っている台詞のパンチラインはありますか?

成田:僕は、火野正平さんの「漠然と過去を後悔する。漠然と未来を怖がる。期待する」という台詞ですね。このあいだ監督からいきなり「お前いま、ハッピーか?」ってメールが来たんですけど……。

井浦:あ!きたよ!そのメール、僕のところにも(笑)

成田:きた!?(笑)

紗羅:私のところには「すき」ってきました(笑)

成田:それはちょっと違うやつだ(笑)!

(笑)。成田さん、何てお答えになったんですか?

成田:すごい考えちゃって。「今、ハッピーか……?即答で答えられるほどハッピーなのか……?」って。それで「ハッピーとは言えないですね」って返したら、「何でだ?」って聞かれて、「未来への漠然とした不安ですかね」って答えたんです。それで今回の作品を見返したら、「漠然と未来を怖がる」という火野さんの台詞にハっとして。僕は漠然と未来に期待して、漠然と怖がっているんだと。何となくこれまで生きてきた過去に縋ってみたり、後悔してみたり……。これって究極の質問だなって思って。これ以外にも深い台詞はいろいろありますけど、監督のなかにある“過去・今・未来”というものに対する気持ちの向け方が、あのシーンの台詞のなかに詰まっているんだろうなって。どの台詞も喋っているのは役者なんだけど、どれも監督が言っていることなんだという感覚がありましたね。

井浦:ああいう深い台詞を楽人と草太が言ったところでなんにも響かないだろうから(笑)。火野さんがこれまで生きて来た軌跡とか、それを背負ったあの存在感を通して吐く言葉だから、それだけ心に入ってくるんだと思います。

成田:役の上での台詞のやり取りっていうより、リアルに「先輩方からお話を聞く!」という時間でもあったっていうか。この映画を観てくれる多くの人たちは、きっとこちら側(草太と楽人)に感情移入するんだろうなと思うんですけど、姿勢を正して“一緒に聞く”っていう同調感覚になれるのかもしれない。

紗羅:私は奥田瑛二さんの「会いたい人に会うために生まれてきた」という台詞ですね。この言葉がすごく腑に落ちる出来事があったんですけど、うちの息子が、自分の生まれてくる前のことを覚えていたらしくて、急に話してくれたんですよ。

成田:それ、もしかして3歳の時だった? 3歳の時に、一度だけそういう「生まれてくるまでの記憶」を教えてくれるって聞いたことある。急に自分から話し始めた?

紗羅:そう。「僕もママも宇宙のそれぞれの種のなかに住んでいて、くるくる廻っていたんだよ」「ママは地球を心配して先に地球に降りていって、僕はしばらく種のなかで遊んでいたんだけど、どうしてもママに会いたくなって後から降りてきたんだよ」って言っていて。

井浦:すごい……。

紗羅:それがあったから、私はこの「会いたい人に会いに来た」という台詞を「その通りだな」ってすぐに理解できたんです。

成田:すごいね。つまり……、監督の脳は3歳児と一緒っていう……。

井浦:そういうことではない(笑)

紗羅:でもね、そういう記憶って無くしてしまうものじゃないですか。私たちだってもしかしたら言ったことがあるのかも知れないし。そのことを生きていく過程で忘れていったとしても「出会うためにここに来ているんだ」ということが、この台詞で思い出せたような気がして。

不思議な繋がりを感じますね。井浦さんはどの台詞が印象強かったですか?

井浦:この作品とは少し違うんですけど、実は『ニワトリフェニックス』の大阪バージョンが出来るみたいなんです。

できる「みたい」(笑)

井浦:大阪のとある映画館でのみ公開されるバージョンなんですけど、今作をベースにリミックスしたバージョンというか、特別に再編集したものが公開予定なんです。

紗羅:おもしろそう!

井浦:そのリミックスバージョンでの話になるんですけど、楽人と草太が車で語っているシーンで草太がまた素晴らしい台詞を言うんです。

ここではまだ具体的には言えないですよね(笑)

井浦:ここではまだ言えないんです(笑)。でも、その台詞がすごい刺さるんです。草太を演じている人の人間性が、本当に良く滲み出ているっていうか……。

紗羅:それ、自分のことじゃん(笑)

成田:(笑)

そう言えば草太と楽人の台詞の掛け合いは、あれはフリースタイルですか?

井浦:ほとんどフリースタイルみたいなものです(笑)。きちんとした台詞があるにはあるんですけど、監督はいつも「台詞を壊せ」って言ってくるんです。

成田:そう。台詞をベースにしたフリースタイルだから、うっかり草太の台詞言っちゃってたりするし(笑)

井浦:「俺の台詞、言っちゃってるんだけど……」って思いつつ。でも、撮り終わったものをあとで客観的に観たら、「あ、こんな感じになってたんだ」って。こういうラフな空気感とかやりとりは、やっぱり前作『ニワトリ★スター』を経てなかったら出せなかったものなんじゃないかなと。

草太と楽人は、それぞれが抱えた人生のシリアスなある問題から“少しだけ逃げる”ために旅に出ましたが、みなさんだったら、自分たちの人生に何かシリアスな問題が起こった時にどんな方法を取ると思いますか?

紗羅:私はそれで実際に東京を出て、今新しい場所で暮らしていますね。東京にはいつかまた戻るんだろうけど、気持ちや目先を変えたいって思った時に、暮らしのベースを少し動かすことってけっこう重要というか。その場から動けずに、シリアスな気分のままだと全部が止まってしまうって思うから、生きるために一度ベースを変えることにしました。

井浦:それって素敵だよね。

成田:自分も生きる拠点を変えるかな。違うところに住んじゃうかも。

井浦:僕は、なんて言うか程よく昭和で育っちゃってるから(笑)、我慢することがあんまり苦じゃないんです。

我慢ができてしまうんですね

井浦:できちゃうんです。神経がだいぶ図太いのか、けっこう過酷な状況だったとしてもけっこうポケ~っとして気付いていないこともあったりして(笑)。そういう意味では、知らず知らずにシリアスなことからうまく免れているような気がします。いつも、とりあえず正面から「オリャ!」ってぶつかっちゃうんですけど、僕は結局、痛い思いしなきゃわからない質みたいで。それで壊れちゃって、「あ、ほんとにやばい」って気付いた時にようやく脱出するかも(笑)。いつか東京や日本を離れて緩やかな時間を持つというのは、今の自分にとっては最終的に貰えるご褒美みたいなものだと思うから、それまでは正面からぶつかり続けていくのかも。それから得るそのご褒美が、未来への楽しみのひとつでもあるかな。

これは観終わった人が、「ああ、なんか気持ちいいなあ」となるような作品。『道草アパートメント』周辺は、もはや自分たちのホームです(笑)
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