【私的録-MY PRIVATE SIDE】 十三は大阪のブルックリン。アートの街に変貌するポテンシャルを秘めた十三を、ミューラルアーティスト・BAKIBAKIさんと歩く。
ほろ酔い気分で夜の十三・淀壁パトロールへ。

スタンド メリーサンノソバージュを出ると、あたりはすっかり夜。ネオン輝く十三の街で、夜の淀壁をめぐります。
現れたのは、リズミカルな球体が描かれた壁。広島を拠点に世界各地で巨大な壁画を残すグラフィティ・アーティスト“SUIKO”による作品で、丸い円はスピーカーがモチーフ。「円は真ん中にくさびを打って、そこにロープをつけて円周運動で描いてるんです、コンパス的な感じで。図面を描いて計測しながら描いてましたね。プロジェクターで映した円はどうしても歪むので、ちゃんとした円を描くって言って」。

SUIKOの作品と向かい合っているユキヒョウは、中国・北京から来た若きグラフィティ・アーティスト“NUT”の作品。「全部スプレーで描いてるんですけど、ちょっと陶器っぽい質感がありますよね。このハイライトの入れ方が独特で。どうやって描いてるのが聞いたら、自分の頭の中で設定した光源を当てて、それによってできる光を描いてるそうです」。

ユキヒョウの後に姿をあらわしたのは、BAKI柄の虎。こちらはもちろんBAKIBAKIさんの作品で、2023年に38年振りに優勝を果たした阪神タイガースを祝し、また大阪人に愛されるモチーフとして描いたもの。「パイプがあったりして描きにくいので、自分が担当しました。場所が良いので、これはけっこう人気です」。

虎の向かいにあるこちらは、「時間があれば紹介したかった!」というNOMCRAFT TAPROOM JUSO。10月13日(月・祝)のパーティ―では、虎をラベルにした淀壁コラボのビールも登場するそう。

まだまだ続く夜の淀壁めぐり。サンパウロ出身で大阪在住のグラフィティ・アーティスト“TITI FREAK”は、ブロック壁にトロピカルをテーマにした個性的な配色を表現。「大阪在住のブラジル人で、お酒も大好き。ここもクラフトビール屋さんの壁なんです」。

ここまでめぐってきて感じるのは、淀壁の国際色の豊かさ。「そうなんです、国際交流っていう意味では、勝手に万博しまくってるんです(笑)」。
日本は描ける壁が少なったため、なかなか大きな壁を描けるアーティストがいなかったとのこと。「でもそれは、経験する場所と機会がなかったというだけで。これから、大学にミューラル学科とか壁画学科とかができたりしたら面白いですよね」。

次に見えてきたのは、ファイナルパーティーの会場でもある老舗キャバレー<グランドサロン十三>。このキャバレーが現役で営業しているのもすごいところ。

街に溶け込むようにたたずんでいたのは、秋田県在住のペインターで海外ミュージシャンとの交流が深い“TOKIO AOYAMA”の作品。「このビルでBARを営む店主と意気投合して、この年に亡くなったジャズミュージシャンのファラオ・サンダースを描いてるんです」。しかも、描きにくい凹凸のある壁面を、すべてペイントで描き切ったという強者。緻密な表現に圧倒されます。

狭い路地の間を通った先に広がっているのは、バンコクを拠点にNYなどで活躍するグラフィティ・アーティスト“MUEBON”の作品。老舗の焼き鳥屋の壁に、オリジナルの鳥のマスコットを堂々と描いています。「鳥をモチーフにしてるアーティストなので、焼き鳥屋さんにちょうどいいかなと。バンコクのアーティストで、MUEBONと兄貴分のALEXFACE、どっちとも仲良いんですよ」。

壁は形状や材質もバラバラで、制約を受けながら描くことが大前提。BAKIBAKIさん自身はそれに慣れて、「普通のキャンバスの真っ白い四角とか、逆になにを描いたらいいのかわからないんですよ。意欲がわかないというか、エネルギーの交換ができないというか」。ミューラルアートはちょっとアスリートに近い感覚で、限られた時間内にいかに仕上げるか、フィジカルだけでなくメンタルもかなり重要とのこと。
最後は、以前MARZELでも取材させてもらったイラストレーター・kuuaさんとBAKIBAKIさんのコラボ作品。<珈琲空間>というお店の壁なので、昭和レトロなメロンソーダを持つ“おてんばメイド”がテーマになっています。

「彼女もふだんは小さい作品を描いてるけど、プロジェクターで投影することで大きいものも描けるので。これからもっと、日本人でも描ける人が増えるようになると思います」。

BAKIBAKI
1978年大阪生まれ。2001年、京都市立芸術大学在学中にライブペイントデュオ「DOPPEL」として活動をスタート。日本のサブカルチャーから着想を得て、伝統文様を現代的にアップデートした“BAKI柄”を展開し、21世紀を代表する和柄を志している。クラブやフェスなど音楽シーンでのライブペインティングをルーツに持ちながら、現在は建物の外壁やパブリックアートに注力し、国内外で活動の場を広げている。
主な作品に、大阪国際空港壁画(2018)、ポーランド貿易庁壁画(2024)、大阪・関西万博壁画(2025) などが挙げられ、 POW!WOW!TAIWAN(2015)、Varanasi Art Project/インド(2019)、DUK Festival/セルビア(2023)、 TANGI Street Art Fes/インドネシア(2025) など、海外の壁画フェスティバルにも招聘されている。2021年には大阪・十三を拠点に壁画プロジェクト「淀壁」を立ち上げ、2025年の大阪・関西万博をひとつの節目としながら、地域の活性化と国際的な文化交流に取り組んでいる。