【私的録-MY PRIVATE SIDE】 十三は大阪のブルックリン。アートの街に変貌するポテンシャルを秘めた十三を、ミューラルアーティスト・BAKIBAKIさんと歩く。

「大阪・淀川エリアを壁画の聖地に!」というテーマを掲げ、壁画フェス『淀壁』を手掛けるミューラル・アーティストのBAKIBAKIさん。前回取材したのは2021年12月、5つの壁画が完成したタイミングでした。あれから4年、目標に掲げていた30カ所の壁画のうち、すでに25カ所が完成。残る5カ所の制作は、10月5日(日)からスタートします。10月13日(月・祝)にはファイナルパーティーを開催、2025年の万博をひとつの目標に走り続けてきた淀壁は、その第一章に幕を下ろします。
また、取材当時「万博に向けて個人でも動き出せるムードがある」と語っていたBAKIBAKIさんは、壁画『希望の系譜』が万博会場内に展示されているだけでなく、淀川区アンバサダーとして万博のステージにも立ち、そのビジョンを現実にしてきました。今回は、気になるあの人の“別の一面”に迫る【私的録-MY PRIVATE SIDE】BAKIBAKIさん編として、この4年の歩みとこれからに加え、ライフスタイルの変化や淀壁の展望についてもインタビュー。街を彩る淀壁や区役所、夜の十三を辿りながら、BAKIBAKIさんの新たな一面をお届けします。
まずは区役所へ、万博ライブペインティング作品&区長とご対面

十三の街歩きは阪急十三駅東口からスタート。まずはBAKIBAKIさんの作品が展示されている淀川区役所へ向かいます。そう、BAKIBAKIさんは区から委嘱を受けた、淀川区公式アンバサダー。「2023年、前任の区長さんから任命していただきました。他の方はスポーツ選手やアスリートで、区を拠点に活動しているのは自分だけかもしれませんね」。

淀川区役所の1階フロアに置かれている作品は、7月28日に万博会場で淀川区の魅力をライブペインティングで表現したもの。「最初は全体を白くマスキングしていて、その上に子どもたちに自由に絵を描いてもらいました。そのマスキングをはがすと、淀川の河川敷から見た風景がバーッと現れるっていう仕掛けです」。


マスキングをはがした瞬間は会場から大きな歓声が上がったそう。BAKIBAKIさんの区役所来訪を聞いて駆けつけてくれた古川区長も「いや、あれはいい演出でしたね」と笑顔に。キャンバスは区内企業の太陽工業のテント膜を、画材は同じく区内企業のターナー色彩の塗料を使った、まさに“メイド・イン・淀川”の力が結集した作品です。



万博を機にメイドイン淀川で完成した作品を、BAKIBAKIさんも古川区長も「せっかくなので淀川区のまちづくりに生かしていきたい」と声を揃えます。かつて東京都庁で石原慎太郎都知事のもと広報を担当したこともある古川区長に、BAKIBAKIさんが公共アートの可能性について語る場面も。これから淀川区がアートによってどのように発展していくのか、期待が高まります。
作品は当分の間は区役所1階に展示される予定とのことなので、ぜひ足を運んでみてください。

淀川区役所を出て、十三の街に点在する淀壁めぐりへ。その途中でBAKIBAKIさんの目に留まったのは、とある銅像です。「パブリックアートっていうと、こういう銅像が一般的なイメージですよね。でも、もっと多様な形になれば、街の雰囲気が変わっていくんじゃないかなと思いますね」。

今年淀壁が区切りを迎えることで、次のフェーズとして「街づくりにももう少し関わっていきたいんです」というBAKIBAKIさん。10年前に東京から戻ってきたとき、十三とブルックリンは似ていると感じたと言います。
「ブルックリンはマンハッタンの対岸にあって、家賃の安さからアーティストが流入したことでアートの街になったんです。淀川の河川敷から梅田を眺めると、ほんまにマンハッタンみたいで。だから十三も、アーティストに優しくて受け入れてくれる街になったらいいなと思ってます」。
そう話しながら向かった先は、スペイン・バルセロナのアーティスト“YUBIA”が手がけた淀壁。巨大な壁面に、カラフル&ポップなペイントがひときわ印象的な作品です。

「ユビアちゃんは日本のかわいいカルチャーをめちゃディグってて。日本人よりも昔のいろんなキャラクターとかを知ってるんですよ。もともとグラフィティからスタートして、スペインのモンタナっていう有名なスプレー缶のメーカーで働いてて。ここ最近はすごい活躍してるアーティストですね。日本のかわいいを日本人がそのままやるとちょっと生っぽすぎるけど、海外目線で消化して表現するとまだ全然違うんですよ」。
ともすればかっこいいものに偏りがちなBAKIBAKIさんのキュレーションの中で「このかわいさは貴重ですね」とのこと。子どもたちからも人気を集めています。
続いては、クラブや音楽フェスなどでライブペインターとして活動するGAIMONとKIMIによるアンダーグラウンド・アイドルユニット“小保方まげ子”の作品。なんと、個人宅での壁画です。

「淀壁の壁を募集したときに、こちらのお宅の方が手を挙げてくれたんです。なんでもいいんで、好きにしてくださいと」。
本当に至るところに壁画がある十三の街。少し進んだ先には、建物の三面を使ったダイナミックな作品が待ち構えていました。


最初の壁は、ロサンゼルスを拠点に世界中の壁画フェスティバルに参加するミューラリスト“LAUREN YS”による作品。地元の人から「この辺はつばめ商店街っていう名前やから、つばめを入れてほしい」と頼まれて描き加えたところ、1万円をプレゼントされたというエピソードも、なんとなく十三らしくて素敵です。

真ん中の壁を手掛けたのは、日本人アーティスト“DRAGON76”。「同世代のアーティストで、いまはニューヨークに住んでます。ライブペイントの全米のコンテストみたいなので優勝したりとか、海外でテクニックを磨いてすごい有名になって。この作品はスプレーとペイントを併用してるんですけど、解像度が高いというか、ディテールがすごい細かいですよね」。

3枚目の壁は、東京を拠点に音楽フェスなどのライブペイントを中心に活躍するdjowと8gによる2人組ペインター“Gravityfree”が担当。「鬼のカップルが安息の地を求めてたどり着いたのが、この淀川の景色。2人が手にしているのは淀川区の花・パンジーです」。この建物に入っていたお店がレッドカーペットという名前だったことからBAKI柄の赤い絨毯を描き入れた、淀川区愛に満ちた作品となっています。
続いて現れたのは、巨大なお月さま!インパクトがありすぎるこちらの作品は、東京を拠点にグラフィティやタトゥーなどで活動する“ESSU”によるミューラル。この壁は素材が混在していて凹凸があり、なかなか制約の多いキャンバスだったそうで、「下地からみんなでしっかり塗って、描ける状態にするまでが大変でした」。

さて、淀壁めぐりはここでいったんひと休み。BAKIBAKIさんおすすめの角打ちに向かいます!

BAKIBAKI
1978年大阪生まれ。2001年、京都市立芸術大学在学中にライブペイントデュオ「DOPPEL」として活動をスタート。日本のサブカルチャーから着想を得て、伝統文様を現代的にアップデートした“BAKI柄”を展開し、21世紀を代表する和柄を志している。クラブやフェスなど音楽シーンでのライブペインティングをルーツに持ちながら、現在は建物の外壁やパブリックアートに注力し、国内外で活動の場を広げている。
主な作品に、大阪国際空港壁画(2018)、ポーランド貿易庁壁画(2024)、大阪・関西万博壁画(2025) などが挙げられ、 POW!WOW!TAIWAN(2015)、Varanasi Art Project/インド(2019)、DUK Festival/セルビア(2023)、 TANGI Street Art Fes/インドネシア(2025) など、海外の壁画フェスティバルにも招聘されている。2021年には大阪・十三を拠点に壁画プロジェクト「淀壁」を立ち上げ、2025年の大阪・関西万博をひとつの節目としながら、地域の活性化と国際的な文化交流に取り組んでいる。