身体、肉体、存在…自分自身がアートの一部に。白子侑季さんが生み出す唯一無二の「SHIRACO WORLD」。
私はその身体の変化も、生きていく上で起こり得ることをすべて受け入れたいと思うので。

前職のお仕事は、何年くらい続けておられたんですか?
25歳から30歳まで、5年間ですね。コンセプトの違う80店舗ぐらいのブランディングに関わるグラフィックをやらせてもらって、すごく楽しかったんですけど、ずっと勤め人でいたいとは思っていなかったので。いろんな業態とのお仕事がしたいなと思って独立しました。
30歳っていうのが、ひとつの節目みたいな感じでした?
それもありますし、独立を意識し始めたのが、ちょうど東日本大震災があったタイミングで。この先なにがあるかわからないと思ったので、それもひとつのきっかけになりました。でも、独立したと言っても、私はインハウスデザイナーだったので、辞めるとクライアントが0になるんです。なので、またいろんなところに営業に行ったんですけど、今度は大阪市内の制作会社に。その時にアートとデザインと両方のポートフォリオを持って行ったんですね。そうすると、どこに行っても「アートを貫いた方がいい」って言われるんです。「白子さんに合う案件はうちにはないです。でもアートはぜひ続けて」って。だから、独立してすぐはアプリとかウェブのデザインとかをやりつつ、どこかにチャンスがないか狙ってました。

なかなか順風満帆な船出とはいかなかったんですね。
その頃に、アート活動もまた再開しました。実は会社に勤めてからも3年目の春までは、個人としては大きめな規模の個展を開いたりとアート活動をしていたんですけど、それ以降は、個展などの発表を控えてたんです。ペン画とか小さい作品は描いてたんですけど、いったん表現の場から離れて仕事に本腰入れて集中して、グラフィックで誰にも負けないくらいの技術を身に付けようと思って。その後、独立して2年目の2014年の10月に、久しぶりに『アートストリーム』っていう、今はもうないんですけど関西の若手の登竜門的なコンペにエントリーしたんですね。もう4年くらいアートの表舞台から遠ざかってて、今どんな作家がいるのかもわからない中で、私が受かるのかな?ってドキドキしてたんですけど、結果、審査員賞をいただいて。
それはすごく自信になりますね!どんな作品を出展されたんですか?
自分の身体のパーツを素材として使って、写真と手描きをデジタルでコラージュするっていう作品だったんですけど。『わたしの身体から新しい生命体が生まれました』というシリーズ作品で、審査員賞をいただいて。その翌年には、唇をたくさん使った『クチビルマミレ』という作品を出展して、それでグランプリをいただいたんです。


グランプリ!見事アートシーンに返り咲いた感じですね。
創作していなかった4年間がブランクではなくて、その間に培ったグラフィックの技術とか見せ方とか、そこを学んだことで目指すクオリティーも高くなりましたし、徹底して作品を作り込むことができるようになったり、それに伴い完成度も上がったり。ああ、この4年は本当に無駄じゃなかったなって、本当に思いました。
デジタルコラージュの作品は、その頃からですか?
インスタレーションは大きいので制作も保管も大変だったんです。普通の部屋には置けないし。それで、仕事でパソコンを使うようになって、表現のツールもデジタルに移行して。たまたま手の中にある道具が生活に合わせて変わったっていう感じです。それによって可能性はすごく広がりました。でも当時はパソコンでアート作品を作ることに対して、「誰でもできる」みたいなことを言われていた時代で。自分の身体のパーツを使うことを考えたのも、もっとオリジナリティを出したいと思ったからなんですね。
身体のパーツを使ってみようと思ったのには、何かきっかけはありますか?
母が乳がんになったんです。身体の一部を失うっていうのは、本人にしかわからないような、いろいろな気持ちがあると思うんです。でも私はその身体の変化も、生きていく上で起こり得ることをすべて受け入れたいと思うので、エールを送りたいという想いも込めてどんな形になっても自分のことを愛そうという…。

身体に起こる変化をすべて受け入れて愛する…って、すごくポジティブなメッセージだと思います。
自分自身の肉体を使うことで、自分がおばあちゃんになっていくのも面白いなと思って。その肉体の変化もそうだし、人それぞれ存在がオリジナルのアートだと思ってるので。だから、分解して素材として捉えて、それを再構築して新しいものに生みなおす、生まれ変わらせるっていうのが、私のデジタルコラージュ作品のコンセプトですね。オリジナルである自分を、作品の中で別のものに生まれ変わらせるみたいな。セルフ・オマージュって名付けてるんです。
年齢を重ねることも前向きに受け入れられそうな気がしますね。
そうなんですよ。絶対に見た目って変わるじゃないですか。でもそれも面白いやん!と思って。その変化も、作品として面白い。だから自主制作では、シワとかシミとかほくろとか、皮膚の質感もリアルに使っていきたいなと思ってます。クライアントワークの時は、見た人が自分を投影できるように、フラットにしておくことが大切なので、年齢がわからないようにしたり、生々しくならないように世界観に合わせてちょっと人間っぽくない肌の質感に加工してるんです。

同じ素材でも、ご自身の作品とクライアントワークでは使い方を分けておられるんですね。でも白子さんは、クライアントワークであってもご自身の作品の世界観と全く乖離してないのがすごいなと思います。
自分の表現したいものだけを出して主張したいというより、作品の世界に入ってきてほしいんです。ルクアのウインドーもそうですが、あのキセルを吸ってる女の子の妄想の世界を描いているんですね。あの女の子はウインドーを見ている人自身なんです。そうやってこの世界にいろんな人に入ってきてもらいたい。私、人を驚かすのがめっちゃ好きなんですよ。それで今まで大きい作品を作ってきたっていうのもあるかもしれないです。平面作品をそのまま置くと、目の前にドンと立ちふさがる感じじゃないですか。でもインスタレーションは空間そのものだから、包み込まれる感じ。その中に入って、わぁ〜!って驚いてもらうのが好きなんです。クライアントワークに取り組む時も、自由にやらせていただきつつ、インパクトがあって、みんながそのワールドに誘われるような、そういう作り方をしたいなと思ってます。


SHIRACO WORLD / 白子侑季
和歌山県出身。アートを通して「LOVE yourself!」を世界に伝える表現者。『愛・いのち・自己』をテーマに2004年より創作活動をスタート。2014年より『自分自身が唯一無二の作品である』という思想と哲学のもと自身の肉体をモチーフとした【セルフ・オマージュ シリーズ】を発表。グラフィック、インスタレーション、ファッションなどジャンルに囚われない様々な表現方法で国内外問わず活動中。キービジュアル制作、企業とのタイアップ企画、ミュージカルの衣装制作など、多岐に渡り“世界観を創る”仕事に携わる。
海外での活動時に『SHIRACO WORLD』を名乗るようになり、現在ではアーティストネームであり、白子侑季が創り出す世界の総称としている。アートディレクターやデザイナーとして活動する際は『白子侑季』名義。
大阪・関西万博公式ロゴマーク 優秀賞受賞(2020年)
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