そこから、見えてくるもの。回り道して選んだアーティストの道で、Gentoさんが表現し続ける、事物の奥に広がる色んな思考の世界。
陰影のある作品を描いてきた中で気づいたのは、影よりも光に意識を向けた方が、明るくてやわらかい絵になるということ。思考の運び方で、指先の感覚も変わるんです。
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見えているものと実際の中身は違うというテーマを掲げながら、人の陰と陽、表と裏の部分を表現する上で、やはり重要になるのが光と影のつけ方でしょうか?
2面性を視覚化する上で、光と影は僕の作品の大切なポイントですね。ただ、実際に球体を机などに置いて見てみると、完全な影にはならなくて、机に反射して少し光量を感じる影になります。でも、僕の場合はリアルな陰影ではなく、デフォルメして完全な影と光で表現するようにしてるんです。
それはより陰影を表現したいから?
そうですね。陰影については頭の中でイメージしてるんですが、右45度の角度から光が照射された際の影の当たり方を緻密に考え、そこから描くようにしています。
じゃぁ、陰影をつける時は、影の方により意識が向いてる?
以前まではそうでしたが、今は光の表現に意識を向けるようになりました。
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それは何か変化があったんですか?
ずっと陰影をつけた作品を描いてきた中で気づいたんですが、影よりも光に意識を向けてグラデーションを緻密に描き上げた方が、明るくてやわらかい絵になるんです。ちょっと不思議ですよね。多分、思考の運び方で、ほんとに微妙な差で指先の感覚が変わるのかなと。
潜在的というか本能的というか、確かに光に意識を向けた方がマインド的にも変わりそうですよね。
描くことが楽しいのは変わらないんですが、思考と比例するように気持ちの運び方も変わったのかもしれません。第一印象としての作品の明るさは、やっぱり感じてもらいたいので。
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思考の変化で指先の感覚も変わると聞いて、やっぱり作品には自分自身が転移するんですね。ちなみに目の位置がセンターではないのは、どんな意図があるんですか?
正面から見て、あえて右上と左下になるように配置してます。僕自身が心配性な一面もあるんですが、あまり気にしてても意味ないなと思い、作品上では何も考えてないような目の動きにしてるんです。ちょっと相手を小バカにしてるというか、ちゃらんぽらんな感じで。でも、これも見た目と中身は違うという部分に通ずるんですが、実は右側の目が未来、左側の目が過去を見てるという意図も込めています。
そういうことかぁ。Gentoさん自身も、作品を通じて自分に言い聞かせてる部分があるんですね。
そうかもしれませねんね。過去を見ると言っても、良いことを振り返るんじゃなくて、同じ失敗を繰り返さないための戒め的な視点ですし。未来を見るというのも、自分で切り拓いていく意思表示なんです。
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この話を聞くと、また作品の見え方が変わってきますね。陰と陽、表と裏だけではなくて、未来と過去の要素もあるから、作品と自分を置き換えて思考を巡らせるとおもしろいかも。Gentoさんは、作品を描く際のアイデアをどのように生み出してるんですか?その源泉が何なのか気になってしまって。
自分の日常で感じたことと、本を読んだ時のインスピレーションですかね。本はジャンルレスに読むんですが、モンドリアンの作品解説書などの美術系からビジネス本まで、色々読みますね。
幅広いですね、それは。
ビジネス本とかって、うまくいくためにはどうするか的な話があるじゃないですか。そういった部分を再解釈して、アウトプットしてます。言葉から生み出す場合と、日常で感じたことをスケッチに残してから考えを膨らませたりと、その2パターンが多いです。共通してるのは、自分のフィルターを通してじっくりと観察すること。
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ビジネス本の新しい活用の仕方、ありですね(笑)。Gentoさんは専門学校1年性の終わり頃から本格的に絵を始め、自分の作品スタイルも確立できてきたということで、就職の道は選ばなかった?
高卒で一度就職してからの専門学校でしたし、また会社で働くのもイヤで、後悔しそうだったので。いつかフリーのアーティストで活動するなら、早いうちにやるべきだなと。もし失敗してダメでも、納得するだろうなと思ったんです。もう回り道はしたくない、そんな想いもありましたね。
そういう選択をする人も増えてきてますが、実際のところはどうでしたか?専門学校を卒業して、いきなりフリーのアーティストで活動するのは。
卒業して1ヶ月後に、カイカイキキが主催するGEISAIに出展したんです。在学中に描いてた作品を展示したんですが、京都のAce Hotelから賞をもらえました。
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それはすごい!
ただ、その時はAce Hotelのことを知らなくて…。ホテルに泊まりながら作品を制作し、展示もできるという副賞もいただいたんですけどね。ちょっと失礼な話になるんですが、普通のビジネスホテルだと思ってて…(笑)。
いやいや、怒られますよ(笑)
ですよね…。それで専門学校の先生に報告したら、「すごいホテルやで!!」って言われてようやく気づきました。やりたいと思っても簡単にできる場所じゃないし、Ace Hotelのことを調べるにつれて、震えました(笑)
でしょうね(笑)。副賞はアーティストインレジデンスのようなものだと思うんですが、どうでしたか?
計1ヶ月間ホテルに宿泊させていただき、その間に制作した作品を展示させてもらいました。部屋の照明もダウンライト系から蛍光灯に変えてもらい、バルコニーなどでも作品を制作したり、中庭を散歩したり、普段は食べないようなごはんを味わったりと、特別な時間でしたね。いつもと環境が違うので慣れない部分もありましたが、そのおかげで色んなインプットもできたと思います。
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Gentoさんの経験としてはもちろんですが、周囲からの反響もありましたか?
僕の作品をたくさんの人に観ていただける機会になったので、とても貴重な経験ができました。アーティスト活動を精力的にしていく中では、自分の経歴にAce Hotelでの展示が加わったことで、色んなギャラリーの方々にも「あそこで展示してたんだ」と言われるようにもなりましたし。素晴らしい場所で展示させていただけたことが、今の自分に確実に繋がってると思います。
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Gento
2001年生まれ、交野市出身。高校を卒業して一度就職するも、絵の道に進むために退職して専門学校へ入学。卒業と同時にアーティストとしての活動を始める。GEISAIでのAce Hotel賞、UNKNOWN ASIA2024では審査員賞を受賞。事物の外見にとらわれることなく、その本質をとらえることを意識し、色鉛筆による緻密なグラデーションで表現した作品が注目を集めている。