そこから、見えてくるもの。回り道して選んだアーティストの道で、Gentoさんが表現し続ける、事物の奥に広がる色んな思考の世界。
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作品と対峙した時に、見えてくるもの。色鉛筆で表現された緻密すぎるグラデーション、ポップなキャラクター、浮遊感もある抽象的な形状…、一見するとハッピーなのに、その奥から見えてくるものがある。アーティスト・Gentoさんの描く絵には、惹き込まれてから広がる色んな思考の世界があります。昨年12月に開催されたUNKNOWN ASIA2024にて、僭越ながらMARZELから審査員賞を授与させていただいたGentoさんとは、どんな人物なのか。そこを深く掘り下げるべく、インタビューを行ってきました。穏やかな人柄の奥に秘められたもの、作品と真摯に向き合いながら描き続ける熱量の奥にあるもの、アーティストとして今を生きる24歳の内側を、皆さんにも知ってもらえたらと思います。2月18日(火)からは、大阪・肥後橋の『Calo Gallery』で個展もスタートするのでお見逃しなく!観る人が新しい視点と出会える、そんな機会になるはずです。
高卒で就職したけど、同じような毎日を繰り返して生き続けることが不安になった。それで選んだのが、昔から好きだった落書きを昇華させた、絵を描く道。
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ちょっと時間は経ちましたが、UNKNOWN ASIA 2024の出展お疲れ様でした。アジア各国や日本のアーティストが集まり、開催規模も西日本最大級のアートフェアですが、実際に出展してみた感想は?
すごく楽しかったです!開催規模もそうですが、今までで一番大きな作品も展示できて、たくさんの人に観てもらうことができたので良い経験になりました。プレビューの日のことなんですが、周囲の出展者の方々のブースにレビュアー賞のシートを貼られていくのを見て、「こんな感じで賞をもらっていくんや」と勘違いしてて(笑)。僕は貼られてなかったので、ちょっとヘコんでたというか、1回出展してみないとわからんもんやなと思ってたんです。
大賞と審査員賞の発表は翌日でしたからね(笑)
そうなんです。僕がちゃんと理解してなかっただけで…。ステージで賞が続々と発表されている光景を見て、勘違いしてたことを悔いました(笑)。とてもしっかりしてるアートフェアだなと。しかもMARZELの前出さんとWALSHAREの川添さんから審査員賞をいただけたのは、すごく光栄です。
開催要項はちゃんと読んでおくようにしましょうね(笑)。僕はGentoさんの作品を見て、繊細な技術とインパクトはもちろんですが、絵そのものに潜む影や裏の一面が、作品の中で絶妙な対比を起こしてるなと感じて、惹き込まれました。なので、今日はその辺りも含めてじっくりと話を聞かせてもらえれば!Gentoさんはいつ頃から絵に興味を持ち、アーティストの道に進むことを志してたんですか?
今24歳なんですが、本格的に絵を描き始めたのは3年ほど前です。昔から落書きは好きでしたけど、それも子どもの遊びレベル。クラスにいる絵が上手い子と比較しても、自分は全然な感じでした。
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そもそも絵を本格的に始めたのもわりと最近ですし、そこに至るまでにはどんなことがあったんですか?
高校までずっと野球を続けてて、卒業後は工場に就職してました。ただ、このまま定年まで働き、同じような毎日を繰り返して生き続けるのかと考えた時に、すごく不安になってしまって。働き始めて1年半くらい経った頃だったんですが、空いてる時間にちょこちょこ絵を描き始めたんです。落書きの延長線で続けるといつかはめんどくさくなったり、飽きるかもしれないけど、それでも続けたらどうなるかなと思って。
絵は、その時の自分を踏み出させるためのものだったと。しかも、就職してたんですね。
工業高校だったので、その流れで。結局、仕事は2年で退職しました。自分の中では絵を描きながら食べて行きたいと思うようになってましたが、いきなり仕事にはできないだろうし、デザイン系の専門学校に進学してグラフィックデザイナーになろうと考えたんです。デザインをしながら、絵を描くみたいな感じで。仕事的にも近いかなと思いましたし。
将来設計を考えた上での判断だったと。確かに、絵も描けるグラフィックデザイナーの方はいますしね。
でも、デザインの勉強をするうちに、もっともっと絵が描きたくなったんです。WEBデザインの授業もありましたが、全然頭に入ってこなかったし(笑)。1年生の終わり頃から、ひたすらデッサンばかり描くようになり、本格的に絵を始めたのもそのタイミングなんです。
先を見据えて選んだ道だったけど、余計に絵が描きたくなったと。当時はどんな絵を?
デッサンでリアルな人物などを描いてました。例えばこれは、シリアルキラーや著名な人の目元だけにフォーカスしたもの。前情報として、良い人と悪い人にはすごく差があるけど、目だけではなかなか判断できない。見た目だけではわからないということをテーマに描いたものです。
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なるほど。このデッサンは最終的には作品として仕上げたんですか?
これは作品ではなく、自分のスキルを高めるために描いてた練習台です。こんな感じのデッサンばかり描いてたんですが、リアルなタッチを突き詰めて着色していくと、最終的にたどり着くゴールは既視感のあるものになるなと。それで、自分のスタイルを定めていこうと思うようになりました。
Gentoさんの今の作品スタイルは、どのようにして確立していったんですか?
今も自分の将来がくっきりと見えてるわけじゃないですが、やっぱり見えてないと不安になるじゃないですか。当時はその不安が特に大きかったですし、理想の姿までは最短距離で進みたいと思ったんです。トライ&エラーを繰り返しながらスタイルを模索していると、他の方の作品に対する見方も変わり、「この部分が良いな」「これは参考になるな」とか、自分が描いてるものとの比較がより明確になってきて。その時から、他の方の作品をもっとじっくり見るようになったんです。そこで自分の好きなテイストを改めて整理し、なぜ好きなのかを深く考え、魅力的に感じた小さな要素を組み合わせて自分のスタイルへと昇華させました。
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今の作品スタイルは他者との比較から生まれた、Gentoさんの好きなものの融合体であると。
ぐちゃぐちゃとした表現の絵よりも、技術が明確に伝わる作品の方が好きですし、暗いよりも明るくて、皮肉めいたものが好き。そんな要素を組み合わせ、計算して作り上げたのが今の自分のスタイルです。
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色鉛筆を使って描いているのも、そういった理由からですか?
そうですね。誰もが慣れ親しんだ画材ですし、繊細な表現も観る人に伝わりやすいので。実は筆を使って描いた作品はないんです。水彩画などの場合だと特にですが、水の量でテイストが微妙に変わるし、描いてる時に筆先がしなることで、意図しない表現になることもある。でも、色鉛筆は芯も硬くて、手の感覚と動きで思い通りの表現ができるから、僕はずっと色鉛筆を使ってるんです。
自分の手の感覚を信じて、描いてるってことですね。それもGentoさんらしさなのかも。余談ですが、色鉛筆をずっと握って描いてると手が痛くなりません?(笑)
めっちゃなりますよ(笑)。小学校の時、漢字ノートにめちゃくちゃ書かされた時みたいな。ただ、大きい作品を描くと、可動域も大きくなるから肩も痛くなるんです。
確かに、そうですよね。手先の疲労だけじゃないのかぁ。すみません、ちょっと話が逸れちゃいました。作品スタイルの由来は伺いましたが、Gentoさん自身が描くものに何か大きなテーマなどはありますか?
作品ごとにテーマはありますが、大きな部分で言うと、見えているものと実際の中身は違う。事物の外見にとらわれることなく、本質をとらえる。そんなテーマを持ちながら描いてます。例えば、目がドクロになっている作品なら、ドクロ=死を連想するモチーフなので目は死んでいるけど、口元は少し微笑んでいる。だから、目の情報が全てではないという意図があります。
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目に見えるものだけが全てではないと。専門学校時代のデッサンのお話もそうでしたが、思い込みに警笛を鳴らしたり、現代的に言えばルッキズムのようなテーマを掲げてるんですね。ピエロをモチーフにしてるのも、まさしくそうなのかなと感じます。
ピエロは、一般的には遊園地やパーティーなどで見かける存在で、いつも明るく陽気に振る舞っているけど、そこにはピエロを演じてる人もいるわけで。実際は、ピエロのような明るさとは違うかもしれない。でも、別にそれが悪いわけではないので、そういった人間の中にある2面性がおもしろいなと僕は思ってます。人の陰と陽、表と裏の部分を表現したいなと。
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Gento
2001年生まれ、交野市出身。高校を卒業して一度就職するも、絵の道に進むために退職して専門学校へ入学。卒業と同時にアーティストとしての活動を始める。GEISAIでのAce Hotel賞、UNKNOWN ASIA2024では審査員賞を受賞。事物の外見にとらわれることなく、その本質をとらえることを意識し、色鉛筆による緻密なグラデーションで表現した作品が注目を集めている。