出会ってから、人生が変わった。日本におけるFat Lava普及の第一人者、『kiis』の服部敬子さんが魅せられて飛び込んだ、歴史と人の想いが交錯するFat Lavaの世界。


協会を立ち上げてNFTにも取り組み、いつかは美術品として楽しむための『Fat Lava展』を日本で開催したい。やりたいこと、まだまだいっぱいあるんです。

ここまで服部さんとFat Lavaについて伺ってきましたが、もっと遡った話も聞かせてもらえればと思います。現在は休止されてますが、金属工芸作家として活動されてたってことで、昔からものづくりが好きだったんですか?例えば、芸大とかで専門的なことを学んでたとか?

全くそんな感じではなかったんです。進学した短大は人間関係科でしたし。

それって心理学系とかですか?

一応そうなんですが、人の心は一切読めません(笑)。高校からのエスカレーター式で進学して、たまたまおもしろそうかなと思ったのが、人間関係科だっただけです。卒業してからも「人の心読めるん?」って、いろんな人に言われるんですけど、全然無理ですよ。むしろ、心が読まれやすいタイプなので(笑)

うまいオチですね(笑)。でも人間関係科で勉強する傍で、何かものづくりをしてとかは?

学生時代にアクセサリーとかを小手先で作っていたくらいですね。ずっとアパレルでバイトしてて、大学卒業後はそのまま社員になりました。その時に同業で銀細工をやってる人と出会い、ちょっと興味が沸いていたのでたまたまお客さんと話をしていたら、その方も銀細工をしていたんです。それで「一緒にやりますか?」と誘われて、作家活動にシフトしていくことになりました。

金属工芸作家として、服部さんが錫や真鍮を用いて制作した作品たち。

やっぱり興味のあることには、どんどん突き進んで行くんですね。

はい(笑)。そこから2人でユニットを組み、5〜6年くらいアクセサリーを作ってました。でも、自分の興味が衣食住の衣よりも食住へと変わっていき、今までの経験を活かしたものづくりを模索してた時に、鍛金や錫と出会ったんです。それでおちょこやぐい呑みなど、テーブルウェアを作る金属工芸作家として活動するようになりました。

で、Fat Lavaと出会って現在に至ると。

実は、今は何の役にも立っていないので大きな声では言えないんですが、食への興味もあったから、ここに至るまでに製菓衛生師の資格も取得しました。

マジですか(笑)。とことんですね。

3年間通信制の専門学校に通って勉強して、資格を取ったんです。ただ性格的に飽き性なのか、今は資格を持ってるだけの状態。だから、Fat Lavaにここまでのめり込み、今もワクワクが尽きないのは奇跡だし、それだけこの世界のおもしろさが奥深いのかなと思ってます。

服部さん自身を紐解いていくと、これまでやってきたことは全て繋がってるんじゃないですかね。衣食住で棲み分けするんじゃなく、今はFat Lavaを通じて人の暮らしを、人の心を豊かにしてるわけですし。この世界の奥を知れば知るほど、叶えたいこともどんどん出てくるんじゃないでしょうか!?

やりたいことは、いっぱいあるんですよ。MarkさんやGrahamさんを日本に呼んで、美術品として楽しむ『Fat Lava展』はいつか必ず開催したいと思ってます。そこに至るまでのステップとして、市場に出回らないFat Lavaを集めた展示も来春開催で企画中です。

希少なFat Lavaを間近で楽しめる絶好の機会ですね!

そして、2025年にはFat Lava協会を立ち上げる予定です。協会の規約などの枠組みはできてるので、今は具体的な運営方針や内容を検討している段階に入ってます。目的はFat Lavaの啓蒙と認知活動です。ビジュアル的にも目立つものだから、ついつい見た目だけのおもしろさで取り上げられがちですが、Fat Lavaの背景にある奥深い世界をきちんと伝えていく活動をしたいなと。お客さんにも、販売する側にも、このおもしろい世界をしっかりと伝えることができれば、文化としても根付いてくはずですからね。

服部さんが個人としても、お店としてもやってきたことを、よりオフィシャルなものにするってことですね。めちゃくちゃ素晴らしいこと!海外にもそういう団体はあったりするんですか?

オンラインのコミュニティレベルではありますが、協会として動いているのは多分ないかと思います。その協会設立のタイミングで、Fat LavaのNFTも始めるつもりです。

どんどん出てきますね!NFTは、どういった目的で?

真贋証明と履歴の追跡ですね。いつ・どこで・誰の手によって・どう扱われてきたかを明確にし、軌跡をたどれるようにすることで、Fat Lavaの歴史とストーリーを紡いでいけるようにするため。ものとしての価値をきちんと証明する側面もありますが、軌跡をたどることができたら、世界中で繋がりが持てますからね。SNSではPOP UPをする時に細かくアップしているんですが、コレクターさんから「僕のがある!」ってよくコメントが届くんです。みんな自分のコレクションが誰の手に渡るか気になっているし、彼らは異文化に入っていく光景もおもしろく感じてます。例えば、床の間にFat Lavaが飾られるとかね。

Fat Lavaとしての歴史やストーリーだけじゃなく、人から人へのストーリーも受け継いでいけるのは素敵ですね。Fat Lava一つひとつに、元所有者の想いも宿ってるでしょうし。

金属工芸作家としても、自分の作品が後世に残せることはすごく魅力的だと思っていたので、Fat Lavaたちも誰かの元で受け継いでいってもらえたら、とても素敵な広がりが生まれると思います。おっしゃる通り、細かいところまで見れば一つひとつ表情が違いますし、「この子はイキイキとしてるなぁ」と思えるものもあるので、そこには作り手や元所有者の想いが宿ってるのかも。

Fat Lavaを通じて、人と人との繋がりを広げるのも服部さんの役目なんですね。その役目を担う上で、服部さんが大切にしてることって何かありますか?

適正な価格で販売することですね。「もっと値段を上げれるんじゃない?」と言われたこともありますが、それだと転売してる人と同じだし、私はしたくない。法外な価格で仕入れて売るなら私を介さない方がいいし。すごくレアなものを仕入れることができた場合、価格を決めるのはすごく難しいんです。そのため今はオークションを開催しています。どなたにお譲りするかも難しいので、1位を決めて競り落としてもらう方が平等なのかなと思って。そして、私の設定した適正な価格との差額は、全て寄付するようにしてるんです。それなら、競り落としてくださった方のその金額が、世の中の何かに貢献することにも繋がりますし。

こちらは服部さんが収集しているもので、作られた年代によって持ち手の太さやサイズ感などが微妙に違うそう。特に古い年代のものはマーケットや蚤の市などにはほぼ出ない希少なもので、もし出てたら奇跡だとか。絵柄も猫や着物姿の女性といった個性的なものもあり、服部さんは1950〜1960年代のものだけを集めています。

Fat Lavaの価値をちゃんと知ってるからできることであり、愛があるからこそですよね。すごいなぁ。ちなみに寄付先はどちらに?

毎回違うんですが、1年目はウクライナとロシアの戦争が始まった時期で、ドイツのコレクターさんが難民を受け入れのボランティアをしていたので、そこに寄付しました。2年目以降は皆さんに相談したものの決まらずにいた時に、知り合いが癌になり、医療の力で克服できたことに感動して、未来のために京大のIPS細胞の研修室に。そして今年は、能登半島地震の復興のために使ったんです。日本でもFat Lavaの認知度が高まっている今、価格設定もさまざまですし、正直、いくら払ってでも欲しいという方もいます。でもね、私はFat Lavaを好きになってもらった人には、ドイツに行ってもらいたいし、最終的にはコレクターさんにも直接会ってもらいたいんですよ。そして、現地で体験したこと、感じたことをいっぱい聞きたい。その時もし、私が法外な手数料を取っていると、「けっこう上乗せしてるんや」ってコレクターさんとの信頼関係が壊れてしまう可能性がある。そんなもったいないことはできないんですよ。

Fat Lavaを託す人、受け継ぐ人みんなに気持ちよくいてほしい。服部さんにその想いが溢れてることを改めて感じました!

もちろん継続するためには売上も必要ですが、私はできる限りドイツと同じ価値観でいたいなと。それがFat Lavaを長く愛でてもらうためには大事だと思ってます。高価なものを1つ手に入れて、家の中にずっと飾っておくのもいいですが、ここにはもっともっとあなたの知らない世界が広がってますよと。何十年集め続けていても飽きないくらい、たくさんあるんですから。そこに興味を持ち、楽しみ続けてもらいたい。コレクターさんたちは季節ごとに置き換えたり、出し入れしてインテリアのアクセントとして楽しんでいます。日本も季節に合わせて、食器を変えたりするじゃないですか。お正月には、瓢箪柄のものを使ったりとか。そんな感じでこの陶器たちと接してもらいたいから、私の中でのポリシーを守ってるんです。

お店に並ぶFat Lavaたちも、きっと喜んでる気がします。服部さん自身、Fat Lavaと出会う前と出会ってからでは、内面的な変化も何かありましたか?

人への興味がグッと高まりました。人に対する興味がどんどん湧いてくることで、仲良くなる人が増えた気がします。「人との距離感がない」って、よく言われますが(笑)。でも、大袈裟ではなく、人生は変わったと思います。世界は広いけど、すごく近いものだと感じてるので。

そう言えるって、素敵です。では最後に、服部さんにとってFat Lavaとは!?

Fat Lavaは、私の人生そのもの。そして、道標です。


<服部さんのお気に入りのお店>

珈琲館 麗門(大阪市北区天神橋1)
天神橋筋商店街にある純喫茶で、1日はここでモーニングを食べて始まります。うなぎの寝床みたいな店内では、奥の席から全体をぼーっと眺めるのが好き。

enorihs(大阪市北区天神橋1)
お店の1階にある、料理もお酒も美味しいスタンド。2年前にオープンして以来、1人でもフラッと立ち寄れるから重宝させてもらってて、おかげでお酒も強くなりました(笑)

SOUTHERN PEAS(大阪市北区天神橋1)
お店の向かいのビルにあり、アメリカ・ルイジアナ州のケイジャン料理が絶品。こちらにも仕事終わりにちょくちょく通ってて、いつも楽しい時間を過ごさせてもらってます。

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Profile

服部 敬子

大阪生まれ奈良育ち。『kiis』主宰。短大卒業後、アパレルショップの勤務を経て、金属工芸作家として活動。ヨーロッパの金属工芸に憧れてドイツに行った際、たまたまお土産で買ったものが後にFat Lavaと判明する。以来、その奥深い世界に興味を持ち、「Fat Lavaを日本で一番知っている存在になる」と心に決め、探求を続ける。コレクターとして収集する一方で、オンラインショップやSNSで情報を発信し、2020年1月23日にFat Lava & German Art Potteryという名前で専門店を南森町にオープン。2021年1月23日には、Fat Lavaを世界的に広めたMark Hillの著書『Fat Lava Book』の日本語版を自費で出版する。2025年にはFat Lava協会を設立予定で、日本における第一人者としてFat Lavaの普及と後世に残していくための活動に奔走中。お酒と酒場と人が大好き。

https://www.fatlava.net/

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