消しゴムはんこ作りから生まれた対話が活動の原点。気鋭の若手絵本作家・原葉太さんに聞いた、夢中の始まりとその先。


僕はアーティストじゃなく職人でありたい。もしかしたら、ただ消しゴムはんこが好きなやつってだけなのかもしれないけど(笑)

ちなみに絵本はもともと好きやったんですか?

それがわかんなくて、めちゃくちゃ好きだったわけじゃないのかも。だけど自分で作り始めてから絵本のすごさに気付いて、尊敬している方もいます。『ぐるんぱのようちえん(福音館書店)』などが代表作の堀内誠一さんです。グラフィックデザインもされていて、『POPEYE』や『BRUTUS』、『クロワッサン』のロゴも描いてるんですよ。誰もが知る作品もたくさんあるのにそこまで著名でないのは、あくまで絵本作家としての立場を大切にしているからだと思うんです。キャッチーな絵を自分のアイコンとして使うんじゃなく、いい絵本を作るために色んな画材やタッチを使い分けて、作品ごとのイメージを変えていたのかなって。いい意味で自分の個性に固執しない、アーティストではなく絵本作家であろうとする姿勢にすごく憧れます。そういう方がいると、僕も作風を1つに定めず、色んなことを試してみていいんだと思えますね。

自宅の絵本棚を見せてくれました。右は、『にんじんばたけのパピプペポ(かこさとし/偕成社)』。

確かに1度作風やキャラクターを確立したら、そのスタイルを貫く人も多いですね。

もちろん需要があるからこそですが、イラストレーターさんはまさにそれだと思うんです。絵本を描いてるイラストレーターさんは多いけど、職人として僕は堀内さんを尊敬しています。

ちょっと話が逸れるかもしれませんが、この夏、南インドにある『タラブックス』という小さな出版社に行ってきました。印刷から製本まで、全ての工程を手作業で仕上げるハンドメイド絵本を出していて、現地に昔から伝わる民話を元にした作品が僕はすごく好きなんです。絵本作りの工房も見せてもらって、やっと念願が叶ったという感じでした。職人さんもカッコよかったなぁ。代表のギータさんにもお会いして、僕の絵本を見てくれました。

左、『タラブックス』の職人さんの写真。右、『タラブックス』の書籍。

『タラブックス』さんの本、原さんのお家にもたくさんありますね。とっても素敵です。

とにかく会社として素晴らしいなって。絶対的にハンドメイドにこだわるわけではなく、いい本を作るための手段として、ハンドメイドの方がいいからその手法を取っている。実際マシンも取り入れていましたし。従業員は40人もいないくらいで、僕が働いている『フジモト工芸』と同じくらい。その規模感なのに、世界中に流通している絵本を出版しているってすごいことですよね。新卒採用もしてなくて、高いクオリティを担保するために、あえてミニマムな会社であろうとしているようにも感じました。

絵本以外にも作りたいものや表現したいものはあるんですか?

グラフィックデザイナーさんみたいな仕事だけど、アルバムのジャケ写は憧れがありますね。昔はジャケ写を任せられたら、一流のデザイナーっていう風潮があったらしいです。正方形の決められた枠内で表現するのっておもしろそう。マッチのデザインもそうだけど、僕はルールがある中での表現がやりたいです。

個人的に名刺やショップカードの依頼もできるんですか?

来た仕事は断らずに全部やるのがモットーなので、消しゴムはんこ系は一切断らないようにしています。本当に駆け出しなんで、いただける仕事があれば何でもやりますよ。領収書に押すはんことかって、タイミングがないだけで実は求められていたりするんですよ。だから僕が「はんこを作っています」って言うと、「領収書に押すはんこをお願いできませんか?」って聞かれることがすごく多くて。きっと頭の片隅に欲しいなっていう気持ちがあるんでしょうね。会社の近くの定食屋でも欲しいって言われて、次の日作ってすぐに持っていきました。中崎町の『ブルンネン』というパン屋さんによく行くんですが、向かいのカレー屋さんが「マスターの似顔絵を彫ってくれ」とイタズラ心で依頼してくれたんです。消しゴムはんこを彫って渡したら、次の日にパン屋さんの店頭に並んでいて。パンを買いに行った時に「彫ったの俺なんです」って伝えると、「兄ちゃんか!なんてことをしてくれたんだ」ってマスターに言われたんですが、内心すごく喜んでくれていたみたいで。お礼にパンをくれました。

なんだかほっこりするお話ですね。

デザインも僕がやるし、大体2,500円〜5,000円くらいでできるので、お願いしやすいと思います。ちょっと趣味っぽくなっていて、それで生計を立てようとは考えていないです。昔は人にプレゼントするために彫っていたので、その延長みたいな感じですかね。絵本とはまた別軸になっています。

話を聞いていてふと気になったんですが、原さんの肩書きは何になるのかなと。アーティストなのか絵本作家なのか……。

絵本作家かなぁ。僕は自分のやっていることをアートだと思ってないので、絵本作家ですね。

アートかアートじゃないか、その線引きはどこにあるんですか?

明確にはわかんないけど、東京で活躍しているアーティストの知り合いが結構いて、彼らがどういうことをしているか知っているから、僕とは全然違うと感じるんですよね。もしかしたら、ただ消しゴムはんこが大好きなやつってだけなのかもしれない。僕自身、アーティストの意味もあんまりわかってないですし。でもアートはめっちゃ好きだし、アーティストはめちゃくちゃ尊敬しています。

これからどんな風になっていきたいですか?

消しゴムはんこや絵本作りをもっと好きになれたらいいなと思います。制作時間を今よりたくさん取りたいですね。1日中彫って、疲れてカーッと寝るような毎日があったら、休日はいらないかも。毎日やれたらまた違う気持ちになるんだろうけど、今目指しているのはそんな生活。もっと夢中になれる環境を作りたい。

これまで絵本を1冊作るのに、大体1〜2年かかっていて。今作っている作品は、春に完成すれば構想から丸2年かかったことになります。だからもっと短い時間で作りたい。『きみのはなし』は1ヶ月でできたので、本気を出せばやれるはずなんです。毎週絵本を出せるようになりたいな。

原さん宅はロフトがある変わった構造で、1階を作業部屋、ロフトを寝室として使っていました。

それはやりすぎです(笑)。まだ東京に帰る予定はありませんよね?

この絵本が完成するまでは大阪に留まる予定です。いわば修行の集大成みたいな物ですね。その時の気分にもよりますが、修行が終わったな、僕はどこでもできるようになったなって思ったら、東京に戻ってもいいかもしれないですね。大阪もだいぶホームみたいになってきたし、安心して出て行けます。それは忘れないでいてくれる友達ができて、すぐ会いに来れると思えるから。こんなこと言ってて恥ずかしいけど、大阪に来てよかったなって思います。新作の絵本楽しみにしていてくださいね!


<原葉太さんのお気に入りスポット>

STUDIO.V.C(大阪市北区中崎)
『YAMASTORE』の大吉さんが運営しているギャラリー。1回行ってみたら大吉さんご夫婦がとってもいい人たちで、すごく懐いちゃったんです。色んな人との繋がりができた大切なお店です。

フジモト工芸(大阪市北区本庄西)
アクリルの設計や加工、製造などしている僕の職場。同僚の方も面倒を見てくださって、慣れない土地でとっても頼りになる人たちばかり。いつも感謝しています。


<INFORMATION>

絵本『きみのはなし』『わだまりあんに』の増刷を行っております。お届けは年内の完成次第で発送となります、年を跨ぐことはありません。増刷の完成のお知らせは、原葉太オンラインショップでの再入荷通知、インスタグラム、MARZELのトピックスにてお知らせ。今しばらくお待ちください。

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Profile

原 葉太

2001年生まれ、東京出身。小学生の頃、年賀状作りから消しごむはんこに興味を持ち、現在は木版画や消しごむはんこを用いた絵本を制作している。主な展示は、「きみのはなし」@恵比寿BOOTLEG GALLERY、2人展「詩画集こどもの展示」@神保町ブックハウスカフェ、「ファンタジー」@阿佐ヶ谷古書コンコ堂/muma/JUDEE(三店舗同時開催)、「わだまりあんにの展示」@阿佐ヶ谷ギャラリー白線など。

https://harayoota.base.shop

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