バンドマンで、教育者で、社会活動家で……いくつもの顔を持つ吉田田タカシさんの根底にある「憤り」とは。


デザインっていうのは、小さなプロダクトから世の中の仕組みまで、どうやったら今より良い状態が作れるかっていうのをやり続けていくことやから。

登校拒否の問題とかって、ちょっと暗かったりネガティブなイメージがあると思うのですが、<チロル堂>や<トーキョーコーヒー>などの活動は、見え方を意識されたりはしましたか?

「不登校を考える親の会」とかしたら、さあ行くぞっていう勇ましい感じになるから、もうちょっと楽しくいこうよっていう感じで、登校拒否のアナグラムで<トーキョーコーヒー>。学校にいかないことで子どもが不幸になるなんてことはないし、貧困にしても障害にしても、ネガティブな要素ばかりじゃないから。

<チロル堂>も、今こども食堂が全国にあるじゃないですか。それは素晴らしい取り組みではあるけど、どうしてもする側とされる側に分かれる。こども食堂に行くってことは、なにか困りごとを抱えてるんだっていう目で見られる。そう見られたくないから行かないようにするっていうのがひとつあって。子どもも高学年になると、ただでご飯が食べられることが普通じゃないってわかるじゃないですか。うちが貧しいから、ありえない金額で食べさせてもらってるんだなとか、そういう思いを本当にさせたくないなと思って。

かわいそうだと思われたり、施しを受けるような気持ちになるのは嫌ですよね…。

子どもにもプライドがあるんですよ。自分が子どもの頃を考えても、「大変だね」とか言われながらごはんを配られるぐらいなら、万引きして捕まって少年院に入れられるとかのほうがよっぽどプライドが保てる。
こども食堂を否定してるわけではなくて、すごく支えてる部分もあるから。ただ、ほんの一部そういうところがある。そういうバグを見つけるのがデザイナーの仕事なんです。世の中のうまく合ってないところを見つけて、リデザインしていく。僕はデザイナーだから、そういう部分を見つけたからにはほっとけないし、どうすれば円滑で美しいものになるのかを考えたのが<チロル堂>のアイデアで、それがたまたまグッドデザイン賞をとったっていう。

世の中のバグを見つけてリデザインしていくのがデザイナー!なるほど、すごくしっくりきましたし、グッドデザイン賞もとるべくしてという感じです。最近では、障害や発達特性を持つ子どもたちを対象にした、放課後等デイサービスも運営しておられますよね?

福祉をやるつもりは全くなくて、もともとアトリエに恐竜の絵を描くのがめちゃくちゃ上手い子がいて、その子が作る立体とか恐竜マンガとか、みんな一目置いてたんですよ。でもお母さんは、「迷惑かけてませんか?続けられますか?」って心配するんやけど、迷惑どころかみんなが尊敬してるレベルなんやけどって。その子に問題があるんじゃなくて、ある場所では落ちこぼれるけど、場所が変われば一目置かれる存在になるわけやから。

その子自身の問題というより、まわりの環境に障害があるのかもしれないですね。

うちはスタッフもいろんな人がいて、挨拶も名刺交換もしないけど作家として活躍してる子もいるし、有能やけど鬱で急に一ヶ月休む子もいる。でもそういう多様な人が、気持ちよく働ける環境を作れるのも、子どもにとっても夢なんですよね。「そういう社会が待ってるんだな」って、教育の先に続くものを嘘じゃないようにしたいから。

それこそ、吉田田さんが嫌いだった、おっさんが作った社会を少しずつ変えていくみたいなことですか?

僕は、次の社会をやってるつもりで。資本主義じゃないやり方で、ムチいれなくてもみんながんばれるし、やりたいから働いてるんやし、それを実践してる。なかなか難しいけど、資本主義に代わるようなものを作れたらいいなと。

働き方のモデルケースみたいなものをここで実践されていると。

子どもが生まれたスタッフも、産後2週間ぐらいでもうアトリエに来てて。え、大丈夫??とか言うてたら、アトリエの子どものお母さんがベッド持ってきてくれて、そこに寝かせてたらみんな「赤ちゃんやー」とかって抱っこしたり。迎えに来たお母さんとかも「ちょっと一回抱っこさせて」とか赤ちゃんチャージして。

すごくいいですね!それぞれの特性とか、状況に合わせた働き方ができる職場ならではだと思います。お話をお聞きしてると、ソーシャルデザインって、生き方そのもののような感じがしました。

デザイナーって突き詰めると、それをやってると思うんです。デザインってのは、物事をずっとより良くし続けていくもので。本当にペン1本であっても、すべりにくさとか乾燥しにくさとか、ずっとやってるじゃないですか。

デザインは小さなプロダクトから世の中の仕組みまで、どうやったら今より良い状態が作れるかっていうのをやり続けていくことやから。本質を見極めて、その本質に対して現状がこうなっているんだったら、本質に至る問題解決のプロセスを作っていくのがデザイン。だから、デザインってデザイナーだけのものにしておくのはすごくもったいなくて。よく生きるための手法として、みんなデザインをやったほうがいい。

そう言われると、どう生きるかとか、どういう状態がしあわせなのかとか、自分も含めて日本人は本当に考えないような気がしますね…。

いい社会って何かをみんなが語れるようなタイミングをもっと作っていかないと、そのしわ寄せが全部子どもたちにいってしまうから。僕はずっとむかついてるんですよ。腹立ってるのが原動力やから。だから、いい人みたいに語られるのがなんか不思議で。汚い言葉遣いをしなくなっただけで、全然いい人じゃなくて、いまだにずっと変わってないんやけど。

ご自身的には、バンドの活動も、ソーシャルの活動も、地続きな感じですか?

ほんまに、BAYSIDE JENNYで客席にビール瓶ほうりなげて叫び散らかしてる時と何も変わってなくて。腹立ってるし怒ってるんやけど、すぐ近くの人にそれをぶちまけても何もならないことは重々わかってて。しょうもない社会やなって叫んでいいのは10代20代。社会を作ってる側がそれを言うたら恥ずかしい。だから、ちゃんとアクション起こそうって思ってます。

これからもずっとそのマインドで続けていけるっていうのが一番の希望というか、これからの展望でしょうか?

僕がまだぜんぜん見えてない部分もあるから、そこをちゃんと考えたりとか、見えててもそれがみんなのものになるには、適切なデザインが必要なので。いろいろ考えなあかんこともやることも、まだまだたくさんありますね。


<吉田田タカシさんのお気に入りのお店>

海南亭(大阪市天王寺区小橋町)
鶴橋の近くにある焼肉屋さん。<チロル堂>の牛すじ丼は、海南亭さんがずっと無償で提供してくれてるんです。工場も見せてもらったけど、手作業で何度も湯煎したり、すごい手間がかかってて。それを無償で提供してくれて、大人に販売した分のそのお金を子どもたちのカレーにしてくださいって。普通ビジネスやったら、宣伝効果とか考えるじゃないですか。でも別にそんなんどこにも言わなくていいですよって、黙ってずっと送ってくれるんです。すごいなと思って。ほんまにありがたいし、僕は「海南亭」が大好きです。

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Profile

吉田田タカシ

1977年生まれ、兵庫県多可郡出身。教育者・ミュージシャン・ファシリテーター・デザイナー・芸術家など多彩な分野で活躍。大阪芸術大学在学中の1998年、アートスクール<アトリエe.f.t.>を設立。受験や技術ではなく、生きる力や想像する力を育む教育を目指す。2017年奈良県生駒市への転居を機に、生駒市にも<アトリエe.f.t.>を開業。2021年にこども食堂の仕組みをリデザインした<まほうのだがしや チロル堂>でグッドデザイン賞を受賞。22年には不登校の問題の本質を考える<トーキョーコーヒー>を立ち上げ、全国へ活動の輪を広げている。アトリエと同じく1998年に結成したスカバンド DOBERMANの活動ではボーカル、歌詞を担当し、現在までにアルバム7枚をリリース。フジロック、釜山ロックフェス、韓国ツアー、ヨーロッパツアーなど世界で高い評価を受ける。

アトリエe.f.t.まほうのだがしや チロル堂トーキョーコーヒーDOBERMAN

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