自分のスタイルを持つカッコいい人になりたくて。最近気になる“看板屋のあの子”、サインペインターの岩切理子さんに会いに行く。


黙々と作業するより、人に見られた方がモチベーションが上がります。むしろ通りがかりの人に「何してるの?」って言われたい(笑)

理子さんが影響を受けてきたカルチャーについて、もう少しお聞きしたいです。

私のベースはアメリカのストリートカルチャー。音楽はブラックミュージックとヒップホップをよく聴きます。好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、あのポップな世界観はずっと憧れですね。最近は、ハリウッド映画の街並みもよく観察するようになって、ここまで細かく作り込んでるんだと感動することも多いです。サインペインターとして活動するようになって、映画を観ていて注目するポイントも変わってきましたね。先日遊びに行ったディズニーランドも手描きのセットがたくさんあって、そういう視点でテーマパークを楽しむのもおもしろいなと思いました。

これまで手掛けた手描き看板の中で印象に残っているものはありますか?

新深江の古着と雑貨のお店『PEEPLE』の看板です。結構高いところだったので脚立の上に登って描いたんですが、いい感じにできたなって思っています。

(左)福島の『KEIZO』という焼肉屋さん。「一緒にデザインを決めたり店全体をペイントさせていただいたり、思いの込もった力作です」。(右)イカつめの漢字を鏡に描いたことも。

インスタを拝見していると、本当に幅広くお仕事されてるんだなと感じます。

依頼してくれたお店に喜んでもらえることが1番だから、クライアントさんの要望をきちんと聞くことを大切にしていて。それがアーティストとの違いなのかなと。職業柄、看板を眺めながら街を歩く癖があるんですが、手描き看板がもっと増えたらいいのにって思うんです。銭湯も大好きなので、古き良き日本のカルチャーと手描き看板がより密接になればいいなって考えてます。

銭湯との親和性はすごく高そう。手描き文字の味わい深さにグッとくる人がいるんじゃないでしょうか。

そうだといいな。銭湯の手描き看板はいつかやってみたいですね。

「サインペインターの持ち物ってめっちゃ多いし、色んな場所に行かなきゃなので基本は車移動。私は免許を持ってなかったので、まずは免許を取ることから始めました」と理子さん。今は小さめのハイエースに乗っている。

話を聞いてて思ったのが、竜太さんと理子さんの師匠と弟子のような関係性って昔ながらというか。今って自分で調べることもできるから、わざわざ「この人の弟子になろう」って考えることがあんまりないのかなって思ったんです。20代の理子さんが弟子になろうって考えるのは意外な気もしました。

サインペインターってマイナーな職業な分、ネットに落ちている情報も少ないし、独学で学ぶのって相当難しいと思うんです。実際、アメリカのサインペインティングは歴史もあって有名ですが、それも職人さんが代々伝えてきたものだと聞きます。それに私がやってみようと思ったのは、竜太さんに出会ったことがきっかけで、こんな風にカッコいい大人になりたいって思えたからですし。私は技術面も生き方も、竜太さんから学べて本当によかったなと感じています。

ちなみにどんな風に作業してらっしゃるんですか?

スケルトンのガラスに描く時は、ガラスの裏面に紙を貼って、そのままなぞるように筆を使って描いていきます。木や壁にペイントする時は、トレーシングペーパーにデザインをプリントした紙を重ねてなぞって、そこに描いていくんです。想像以上に時間がかかる作業ではありますね。ロゴのサイズ感で印象も変わってくるので、クライアントと打ち合わせをする時に、サイズ違いのロゴを持参してどんな風になるか確認したりもします。

作業時は<ディッキーズ>のボトムが定番なのだそう。

最大どれぐらいのサイズ感のものを描いたことがあるんですか?

高さ2mくらいある窓ガラスとかかなぁ。竜太さんの案件だと、浜松にある2階建ての建物の壁に大きなおじさんをペイントしたことがあります。ローリングタワーっていう足場を使って、プロジェクターでデザインを壁に写しながら下書きして描いていくんです。

プロジェクターを使う作業……。それは昼でもできるんですか?

いえ、暗くなってからの作業になりますね。夜間に下書きをして、昼間色を付けています。

しかも高いところが苦手だと結構キツそうだなと。理子さんは高いところは大丈夫なんですか?

正直得意じゃなくて(笑)。筆とペンキの入れ物を持っていたので、両手が塞がってたんですけど、高さへの恐怖を忘れるくらい夢中で描きました。

ライブペイントをする時と黙々と1人で作業する時、理子さんの心持ちの違いはいかがですか?

私は人に見てもらった方がテンションが上がるかな。むしろ通りがかった人に「何してるの?」って言われたい(笑)。その根本には、私が竜太さんをカッコいいって感じたのと同じように、自分もカッコいいと思われたいっていう気持ちがあります。それがライブペイントとか特別なイベントじゃなくても、路面で描いてる時に1番テンションが上がります。

たくさんの人に見られて緊張したりはしないですか?

もちろんめっちゃドキドキしてます!でもそれが刺激になっていて、さらに「頑張らなきゃ」ってモチベーションが上がるんです。これまである程度の場数は踏んできたけど、毎回描くものや条件が異なるので、上手くできるかな、気に入ってもらえるかなっていう不安は常にあって。ボコボコした質感の壁やペンキを弾いてしまう布地に描きつけることもあるし、描く材質によって使う画材や手順を変えたりもよくします。想定外の依頼が来ることもあるので、案件ごとに自分ができるベストを尽くして、自分の経験や技術をアップデートしています。

手描きならではの味わい深さをぜひ楽しんでほしいです。将来は、アトリエを併設したカフェを開いて色んな人が集まる場所にしたい。
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Profile

岩切 理子

サインペインター。大阪府出身、1997年生まれ。専門学校のプロダクトデザイン学科を経て、ベビー用品の会社に就職。その後、サインペインターの田辺竜太さんに従事しノウハウを学ぶ。現在は<PUCCA SIGNS>として、関西を中心に飲食店やアパレルショップなどの手描き看板や内装を担当。コーヒーが大好きで、以前は『ブルックリン』に勤めていたそう。

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