街に愛されて残るものを。WHOLE9の2人が描き続けるのは、具象と抽象が織り成す、いくつもの繋がりを生む世界。
壁画はグラフィティとも違うから、街に馴染むことが僕らの願いでもあるし、その土地の人たちに愛されることがゴール。
国内はもちろん、海外にも活動を広げていく中で、「CYC」というプロジェクトを立ち上げられましたが、その経緯を教えてください!
s:精力的に活動を続けていくうちに、描く場所や規模も大きくなっていきました。ビルにも描けるようになったり、街のプロジェクトにも参加させてもらったり、これまで大きな絵を描いてきたからこそ、声をかけてもらえる機会もどんどん増えていったんです。それらはもちろん仕事として受けてますが、逆に僕らが自主企画でアクションすることがなかったので、新たな目標として始めたのが「CYC(COLOR YOUR COMMUNITY」のプロジェクトになります。
h:コロナで世の中が鬱々としてた時期で、アートを使って僕らも楽しみながらみんなで参加できればなと。仕事ではなくクラファンを活用しながら、応援していただいた資金で壁を探し、壁画を制作して街に還すというプロジェクトでした。2020年6月にローンチして、2年かけて完成することができたんです。
s:クラファンでは151名の方に支援していただき、目標額の199%を達成。当初の規模を拡大し、関東と関西の2箇所で制作することを公約にしました。大阪では今回撮影してもらったカドカワ株式会社さん、東京では中野区とJRの協力によってJR中野駅北口駅前広場に描かせてもらっています。
支援された資金で街に生きる壁画を描き、街に還す。そこからまた、壁画が街の一部となって時代を重ねていく。絵の力や描く意義を、改めて多くの人に知ってもらえるプロジェクトだと思います!
h:その街や土地、描かせてもらう場所のことを壁画に込めるのが「CYC」のテーマなので、そこを追求して描いていきました。壁画はグラフィティとも違うから、街に馴染むことが僕らの願いでもあるし、その土地の人たちに愛されることがゴールだと思ってます。決して簡単なことじゃないからこそ、僕らのモチベーションも上がるんです。街の歴史をディグって楽しむキッカケを自ら作れたり、壁画を観た人にも楽しんでもらえる、双方が喜べるプロジェクトでしたね。
その土地の人に愛されるものを描けるって、ほんと素晴らしいこと!小さい子どもが絵を見て喜んだり、壁画に気づいて立ち止まって眺めたり、そんな瞬間が増えていくと最高ですよね。
h:一瞬でも人の気持ちを変えれたら、それはすごいことだなって思います。
カドカワ株式会社さんの壁画には、どんなイメージを持って描いたんですか?
h:いろいろ調べるうちに縄文時代の大阪は大部分が海で、上町台地から見下ろすカドカワ株式会社さんの場所は沿岸部であることが分かったんです。そうした歴史背景から、昔と今の土地の繋がりを象徴するものとして、当時はこの辺りを泳いでいたであろうザトウクジラを描いています。
s:カドカワ株式会社さんはこの地で100年以上の歴史を持つ和紙問屋さんで、こちらで扱っている千代紙という和紙に使われる七宝や青海波といった吉兆柄をサンプリングし、歴史ある会社との繋がりを表現しました。完成したのは5月末なんですが、クジラが戯れてる芍薬は、壁画の完成時期にちょうど開花を迎える花でもあるんです。
h:「CYC」のテーマである通り、その土地や会社の歴史を込めて描いた作品ですが、もう1つ大切にしていたことがあります。基本的に自分の会社に壁画が描かれる経験って、ほとんどの人がないはず。だからこそ、当事者意識というか、「私の壁画」と思ってもらいたかったんです。ラフスケッチの段階から何案も作って、僕らの想いと共に提案していましたね。
「私の壁画」と思ってもらえたら、そこには確実に愛着がありますもんね。改めて素敵なプロジェクトだと思うんですが、「CYC」の今後の展開も聞かせてください!
h:今後ですか…、もう一旦はね…。
s:「CYC」は当初の予想を大幅に超えて2年かけてやっと達成できたプロジェクトで、僕ら的にも大成功したから一旦は区切ろうかなと。例えば、また大きな壁が見つかってそこに描くことに意味があって、資金だけがない状況だったらもう一度チャレンジするかもしれませんが、今はまた次の目標を探ろうとしてる段階ですね。
h:目標を立てたがるタイプなんで(笑)
同じことをやり続けるよりも、新たな道を模索したいと。
s:その側面もありますね、やっぱり。
h:プロセスも含めて楽しいプロジェクトでしたが、その時々のタイミングも見極めて元気玉的にできればなと思ってますね。