街に愛されて残るものを。WHOLE9の2人が描き続けるのは、具象と抽象が織り成す、いくつもの繋がりを生む世界。


僕らの目の前にはいつも、バカっぽい目標があった。だから上を見れてレベルアップできた。

「絵描きでは食ってけない」という先生の言葉が重くのしかかりつつも、WHOLE9を再結成して活動を続けていくわけですが、ぶっちゃけ食えるようになったのはいつ頃でしたか?

h:僕は大学に戻って副手という教授のお手伝いをするバイトをして食い繋いでたんですが、25歳の頃にはWHOLE9の活動で食えるようにはなってましたね。

けっこう早くないですか?

h:生活レベルはガツンと下げてましたから(笑)。下げたら何とかなるレベルでしたが、食っていけるようにはなったんです。

アーティスト活動に専念できる転機みたいなことがあったんですか?

s:この仕事のおかげでというのはなくて、続けてると徐々に仕事が増えていったイメージです。だから、いきなり跳ねたって感覚はないかなと。

h:繋がった人からの依頼が増えたり、そこからまた知り合いが増えてという感じで、いろんな角度から仕事をいただけるようになったんです。不安定な部分はあるけど、安定してきたという感じでしたね。

止まらずに続けてきた結果ですね。活動の中心は壁画制作やライブペイントですが、そこにこだわる理由は?

s:2人で描く絵は大きい方が強いというか、キャンバスに描くこともありますが、それも大きな絵を作るためのものだったりするので。具象と抽象で担当を分けている分スピードも速いし、プロセスも含めてお互いの良さを一番生かし合えるのが壁画制作とライブペイントなんです。

2人の描くパートが明確になったタイミングや今の作風が確立されたのはいつ頃なんですか?

h:今は僕が具象、simoが抽象を描いてるんですが、活動を始めた頃は逆の時もあったし、けっこうふわふわしながら試行錯誤してました。でも割と早い段階でお互いに向いてるのが分かったから、今のスタイルにはなってたかなと。ただ、3人の時もあったので、何ができて何ができないかを突き詰め、よりスタイルが明確になったのは2人なってからですね。作風はそんなに変わってないですが、結成当初はマーカーで描いた白黒だけの作品とかもありました。影響を受けたアーティストのスタイルにトライしてた時期で、いろいろ試しながら自分たちらしいスタイルを磨いていったんです。

具象と抽象で担当がキッパリと分けられてますが、絵を描く上で大切にしてることってありますか?

s:壁画制作の場合は、街や土地の風土を調べたり、その街を歩いて感じたことを軸にするようにしてますね。昔は好きなものを描いてることも多かったですが、さまざまなプロジェクトに関わらせてもらい壁画を描くことが増えていくうちに、街の中に大きな絵を描くからこそ、浮いてしまうような作品にはしたくないと思うようになりました。僕らの絵が街の一部になるので、やっぱりその土地のことはすごく意識しながら描いてます。

h:逆にライブペイントの時は、その場のテンションや雰囲気を大切にしていて、現場でイメージをどんどん膨らましながら描いてます。膨らまして削って、膨らまして削ってを繰り返しながら仕上げていくスタイルですね。

それもライブペイントの醍醐味。街に残る壁画制作、即興性もふまえたパフォーマンスのライブペイント、同じ絵を描く行為でも全然違いますよね。

s:ライブペイントは自由そのものですからね。

h:描いてる時間をどんどん楽しくしていくことが大事だし、いろんな人がその瞬間を観てくれるし、絵を介して遊んでるような感覚なんです。

s:僕らもお酒を飲みながら描く時もあるし、完成までのプロセス全てをみんなで楽しんでるんですよね。

h:でも、たまに養生シートをバチバチに敷いてる現場もあるので、その時は塗料が飛び散ったらアカンなと思い、ちょっと緊張しちゃいます(笑)

確かに別の意味で緊張しますね。ちなみに、お客さんや人に観られることは気にならないんですか?

h:僕らは大きな絵を描くところからスタートしてるし、その流れで壁画制作やライブペイントをメインに活動してるので、観られるのが当たり前になってるんです。だから全然気になりませんね。むしろ家でキャンバスに絵を描いてる時の方が、リアクションのない状態で描かないといけないのでツライ。観られてる方がちゃんと仕事できるんですよ。

なるほど。WHOLE9のスタイルだからこそ、外の方がイキイキとするんですね。25歳くらいから活動も軌道に乗ってきたことで忙しくされてたと思うんですが、そこからさらにステップアップするためにどんなことを考えてたんですか?

s:hitchが言ってくれて僕も考えるようになってたんですけど、バカっぽい目標がいつも目の前にあったんです。

バカっぽい目標とは?

s:例えば、アメリカを周って壁画制作したいとか、いろんな国の壁画フェスに出たいとか。漠然としてるけど、そんなバカっぽい目標があることで、そこに向けて常に上を見てレベルアップができたと思います。

h:仕事が増えていくことに喜びがあった反面、居心地の悪さを感じ始めてました。仕事をしまくって「僕、アーティストです」と自信を持つのは変というか、絵を残してナンボやと思ってたので、仕事の数を自慢するのは違うなと。そもそも憧れてたのは海外だったし、僕らがテンション上がる目標じゃないとこのまま続けるのは大変だと感じたんです。

アメリカのツアーでは、LAやサンフランシスコ、NY、フェニックスなどを巡って壁画を制作。

実際、アメリカでの壁画制作も実現してますもんね。

h:アメリカの1都市での壁画制作の仕事がゲットできたので、せっかくなんでツアーに仕立てたんですよ。他の都市でも現地で壁を見つけて、近くの住人にコンタクトを取って持ち主に繋げてもらい、壁画を制作して回りました。日本ではあり得ないですが、アメリカでは突然行っても受け入れてもらえたんです。壁画制作への理解もあり、ハードルの低くさを改めて実感させられましたね。

壁画はグラフィティとも違うから、街に馴染むことが僕らの願いでもあるし、その土地の人たちに愛されることがゴール。
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Profile

WHOLE9

2007年に結成。大阪を拠点に国内外で活動するアーティストユニット。ライブペイントと壁画制作を得意とし、経験とセンスを活かしてハイクオリティな作品を残し続けている。人物や動物など具象的モチーフを描くhitch(Instagram:@hitch_w9)と、自然からのインスピレーションを抽象的に描くsimo(Instagram:@simo_w9)により、2人で1枚の世界を描く。1人では創れない作品を通じて、絵のある暮らしを日常にもたらし、気の合う仲間と日々を彩っていくライフスタイルを提案する。

https://whole9.jp/

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