Interview & Writing
前出 明弘

アーティストとして、グラフィックアートユニット『エンライトメント』の代表として、国内外の展覧会で作品を発表する一方、広告やグラフィックデザインなどの幅広いジャンルでも活躍するヒロ杉山さん。昨年11月には作品集「Drawing leads to another dimension」が出版され、六本木ヒルズで開催された個展も大盛況の末に会期を終えましたが、その個展が6月5日〜6月20日まで大阪にもやって来るんです!しかも、アーティストとしての個展は関西初というトピックス付き。このチャンス、絶対に逃してはいけないと思います。ということで、準備のために来阪したヒロ杉山さんと、大阪での開催を仕掛けた『アシタノシカク』の大垣ガクさんに、今回の個展についてお話を伺ってきました。前編・後編に分けてお届けする今回は、作品集の誕生秘話やドローイングのスタイルのこと、開催場所の『ASITA_ROOM』についてお届けします!!

過去のドローイング作品を整理しようと思って倉庫から出したら、2000点くらいあって…。何とかして、この作品たちに日の目を見せてあげたくなったんです。

今日はお忙しい中ありがとうございます!大阪での個展について伺う前に、まずは昨年出された作品集について聞かせてください。どんなキッカケがあって、制作されたんですか?

ヒロ杉山:もともと1〜2年に1回のペースで個展をしていて、六本木ヒルズの『A/Dギャラリー』さんが今回も個展の時期とスペースを用意してくれることになっていたんです。ただ、コロナ禍でもあるので、「さぁ何をしようかな」とずっと考えている状態で。去年の4〜6月頃はコロナの影響で仕事も止まっていて、正直20年ぶりくらいにヒマになってしまって(笑)。

大垣ガク:最初の緊急事態宣言の頃ですよね。20年ぶりくらいにヒマ!というのもすごいですけど。

ヒロ杉山:それまではずっと仕事づくめだったから、学生の頃みたいに時間がポッカリ空いたんですよ。その時に何気なく事務所の倉庫を見て、「ずっと描き溜めてたドローイングでも整理しようかな」と思って。今まで描いては倉庫に突っ込んでの繰り返しで、全然整理してなかったんですよ。まぁ時間もあるし、整理しようと引っ張り出して数えたら、2000点くらいあって…。

大垣ガク:すごい量!もしかして未発表のものだったんですか?

ヒロ杉山:仕事で描いたものも一部ありましたけど、ほとんどが未発表。基本的に毎晩描いてるので、溜まる一方で。それを整理してるうちに、何とかこの作品たちに日の目を見せてあげたいと思うようになったんです。言わば作品は、我が子のようなものですからね。せっかくだから、作品集としてまとめたいなと。

大垣ガク:それで、クラウドファンディングを始められたんですね?

ヒロ杉山:最初は自費出版するつもりだったんですけど、スタッフがクラファンを勧めてくれて。でも、「もし目標金額に届かなかったらカッコ悪いな」って最初は尻込みしてましたが、知り合いがどんどん申し込んでくれたので、すぐに達成できて良かったなと(笑)

大垣ガク:僕自身もすごく楽しみだったので、すぐに申し込みましたよ。

ヒロ杉山:ありがとうございます!おかげさまで目標以上の金額が集まったのでページ数も増やせましたし、仕様もバージョンアップすることができました。

大垣ガク:ですよね。経過報告を見てるとどんどんアップデートされてくので、さらに楽しみが増えてく感じでしたし、プロセスが共有されることで作品に対する思い入れもより深まったと思います。

こちらがクラウドファンディングで制作された作品集。書店で販売されているものは黒のハードカバーだが、クラウドファンディングのものは限定の赤のハードカバー仕様に。

ヒロ杉山さんの想いと、ファンの皆さんの期待がうんと詰まった一冊になったんですね!

ヒロ杉山:ホントありがたいですよね。クラファンやって良かったのは、皆さんから届くメール。「頑張ってください」とか「昔のあの作品の頃から好きです」とか書いていただいてて、泣きながら読んでましたから(笑)

書店やネットなどで購入するのとは、また違いますよね。

ヒロ杉山:このプロジェクトに一緒に参加してもらい、一緒に作ってるような感覚でしたね。

なるほど。そして、その作品集を元に個展をされたと?

ヒロ杉山:そうですね。出版記念も兼ねて、昨年11月に『A/Dギャラリー』さんで個展をさせていただきました。作品集の中から年代ごとに絵をセレクトして、さらに新作もプラスして開催しました。

昨年11月に六本木ヒルズの『A/Dギャラリー』で開催された個展の模様。真っ白な空間に、さまざまなスタイルのドローイングが並びました。

大垣ガク:僕も見に行きましたが、見応えがすごくて!ヒロさんの25年分の作品が一気に集まってるだけではなく、「これは80年代に描かれていたのか」など、いろんな見方をできるのがおもしろかったです。なので、ヒロさんに声をかけてさせてもらって、関西でも個展が開催できるようにお願いしました。「ヒロさんの作品をぜひ見てもらいたい!」その一心ですね。

もっと自由に描きたい!34歳の頃、これまで確立してきた自分のスタイルに疑問を抱き、スタイルを放棄することを選んだ。

25年分の作品があるということは、その時代に応じた作品はもちろん、ヒロ杉山さん自身の描いていた当時の気分も感じ取れる。そこも今回の作品集や個展の醍醐味ですよね?

ヒロ杉山:そうですね、大垣さんが言ってくれてたように時代ごとの楽しみ方はありますね。もともとイラストレーターを目指していたので、そのためには自分のスタイルを確立しないとダメだと思っていて。湯村輝彦さんの元で7年くらい修業し、いろんなスタイルを模索していましたね。

大垣ガク:ヒロさんにもスタイルを模索していた時代があったんですね。

ヒロ杉山:必死でしたね。修業時代にようやく自分のスタイルと言えるものができてきて、29歳で独立。おかげさまで仕事もどんどん入ってくるようになり、多い時だと月に30本の締め切りがありましたね。

大垣ガク:月に30本ですか?ほぼ毎日が締め切り状態ですね(笑)

ヒロ杉山:当時はアナログだから、編集者さんが事務所まで取りに来るんですよ。でも、留守の時や旅行に行ってる時は、玄関ドアに原稿を貼り付けてました。

大垣ガク:え!それで大丈夫なんですか?

ヒロ杉山:それが当たり前の時代でしたから(笑)。玄関ドアに、マガジンハウス様、宝島社様とかの宛名を書いた封筒を貼っておき、それを取りに来てもらってました。

今じゃ考えられないですね。でも、スタイルを確立しているからこその結果ですよね。

ヒロ杉山:確かにイラストレーターとして自分のスタイルを確立していたからたくさんの依頼をいただいていましたが、だんだんスタイルに縛られることがしんどくなってきたんです。「スタイルって何なの?」と思うようになってね。ちょうど34歳くらいの頃です。

大垣ガク:自分のスタイルがあるからこそ、逆に表現が狭められてる感じですか?

ヒロ杉山:そう。もっと自由に描きたいなと。だから、スタイルを放棄することにしたんです。イラストレーターとしては難しくなるかもしれないけど、何を描いても良い状態を作って、仕事とは関係のない絵をどんどん描くようにしました。それからもひたすら描き続けてると個展をする機会をいただけて、作品を発表できるようにもなって。イラストレーターから、アーティストという存在に移行していった感じですね。

イラストレーターとしてスタイルを放棄することは、かなりのチャレンジですよね。安定を求めるよりも、描きたい欲求とまっすぐ向き合えるのが、すごいと思います。

大垣ガク:そうしたヒロさんの変遷が個展でも作品集でも見えるし、感じられるのがホントにおもしろいと言うか、スリルを感じられると言うか。その選択をしたことで、新しい地平に飛び込めたのかと、すごく実感できました。

作品集「Drawing leads to another dimension」より。この2つを見比べても、スタイルの変遷は一目瞭然。

ヒロ杉山:ちょうどデジタルに移行するタイミングでもあったので、仕事はイラストレーションの枠を超えてビジュアルを作るという方向にシフトして、個人のアーティストとしてはアナログで描き続ける。そんな状態でしたね。

スタイルの変遷や自由さが楽しめるのも、25年分の作品があるからこそですね。ちなみに関西での個展はいつぶりですか?

ヒロ杉山:『エンライトメント』としてデジタル作品を発表したのが15年前なので、それぶりですね。でも、アーティストのヒロ杉山として個人の作品を発表するのは、関西では初めてです。

大垣ガク:東京では何度も個展されてましたが、関西では初めての開催となるので、皆さんぜひ楽しみにしていただければと思います!

『ASITA_ROOM』は実験の場であり、発信の場であり、つながりがはじまる場所。ヒロさんの作品をたくさんの人に見てもらい、いろんな想いが生まれたらうれしい。

今回の個展は大垣さんの会社『アシタノシカク』が運営する『ASITA_ROOM』で開催されますが、お2人は昔から親交があったんですか?

ヒロ杉山:5〜6年前くらいですかね。『UNKNOWN ASIA』というアートフェアの審査員をしていて、そこで出会ったんです。

大垣ガク:僕も審査員をしていて、「あ!ヒロさんがいる!」と思ってお話させていただいたんです。僕が新卒で働き出した頃から大活躍されていて、関西で広告デザインしてる者からしたらあまりにも輝いてる存在で(笑)。あんな仕事やこんな取り組みもしてるのかと、一方的に存知あげてました。

ヒロ杉山:ありがとうございます(笑)。今、京都造形芸術大学で客員教授を務めてるんですが、実はゼミの教え子が大垣さんの会社に就職しているんです。それに、箭内道彦さんと設立した会社のスタッフも在籍していたり、僕が取り組んでるZINEのイベントを関西で開催する時にサポートしてもらったり、何かと縁があるんですよね。

かなりの縁ですね!それで、大垣さんが東京の個展に行った時に提案されて、開催に至ったと。『ASITA_ROOM』は関西の中でも異質なギャラリーと言うか、特殊な取り組みをしていると思うんですが、その辺りのお話も聞かせてください。

大垣ガク:『ASITA_ROOM』は、僕が独立して作った『アシタノシカク』が運営するクリエイティブラボです。仕事柄、デザイナーさんや写真家さん、作家さんの作品を見せていただく機会が多くて、すごく素敵な作品があっても仕事にすぐマッチングできないもどかしさがありました。クライアントの意向もありますし、でも、こんなマッチングできたら絶対良いのにという思いが独立前からあったんです。会社設立当初はそうした作品を自社のホームページで紹介してましたが、2年後に『ASITA_ROOM』を作ったことで、より実験的な取り組みができるようになっていきましたね。

ギャラリーではなく、クリエイティブラボ。これまでの展示や取り組みを見て、その表現に納得しました。

第1回目の企画展は、ディズニー・マーベルの公式イラストレーターであるカズ・オオモリさん。トークショーに加え、原画や制作工程のラフも公開された。
アーティストの小澄源太さんとのコラボ企画展では、ライブペインティングも実施。この時に制作されたイラストが、3年後にNHK朝の連続テレビ小説「スカーレット」の貴重なシーンに登場することに。

大垣ガク:オフィスでのミーティングスペースではクライアントワークの打ち合わせをしますが、僕らにとってこの場所は、明日のため、未来のための作戦会議をする場所なんです。だから単なるギャラリーではなく、アーティストさんをはじめ、さまざまな人やコトとコラボレーションしながら実験し、発信し、いろんなつながりがはじまる場所でありたいと思っています。ここでの展示を通じて、クライアントワークへと発展していく機会も増えているので、そうした結果は僕らとしてもすごくうれしいですね。

ヒロ杉山:僕も何度か『ASITA_ROOM』には来たことありますが、開催される個展によって空間も雰囲気も全然違いますよね。

大垣ガク:そうですね。ただ作品を発表する場所とは違って、僕ら『アシタノシカク』とのコラボレーション空間でありたいと思っているので。それは、『ASITA_ROOM』を統括するプロデューサーXの想いでもありますから。

プロデューサーXですか?

大垣ガク:実は、僕もまだ会ったことがないんですが、「明日のため、未来のために何ができるか?何をすべきか?」を問いかけ続けてくれる存在です。なので今回のヒロさんの個展でも、プロデューサーXの問いかけに応えられるようなものをヒロさんと作れたらと思ってます。

今回の個展のDMがこちら。デザインは大垣さんによるもの。「ASITA_ROOM」としての企画展は、今回で34回目を迎えます。

ヒロ杉山:もちろん!今回の個展用に新作も描くので、楽しみにしててください!

大垣ガク:ありがとうございます!僕らもそうですが、プロデューサーXも、関西の皆さんも楽しみにしているので、よろしくお願いします!!



2021年6月5日からスタートするヒロ杉山個展「ドローイング1995-2020」。25年に渡って描き続けてきた約2000点の中から約80点のドローイング作品をセレクトし、『ASITA_ROOM』での展示に合わせた新作「ブラックドローイング」シリーズも一同に並びます。また、1200点のドローイング作品を収録した作品集「Drawing leads to another dimension」も限定販売!ヒロ杉山さん自身では関西初の個展となる貴重な機会なので、皆さんぜひ足を運んで、1枚1枚の絵に対する熱量とスタイルの変遷、そこから見えてくるドローイングの奥深さを体感してみてください!

インタビュー後編では、ヒロ杉山さんのドローイングや仕事に対する姿勢、マインドにフォーカスした内容から今回の個展について迫っていくので、そちらもお楽しみに!


<個展情報>
ヒロ杉山個展「ドローイング1995-2020」
期間/2021年6月5日(土)〜6月20日(日)
会場/アシタノシカク『ASITA_ROOM』 大阪市中央区北浜東1-12 千歳第一ビル2F
時間/平日15:00〜21:00、土日15:00〜19:00 入場無料
作家在廊日/6月5日(土)、19日(土)、20日(日)
https://www.instagram.com/asita_room


Profile

ヒロ杉山

アーティスト/グラフィックアートユニット『エンライトメント』代表。ファインアートの世界において国内外の展覧会で作品を発表する一方、グラフィックデザインや広告などの幅広いジャンルでも独創的な作品を発表し続けている。

http://elm-art.com/

Profile

大垣ガク

アシタノシカク株式会社代表。アートディレクター・クリエイティブディレクターとしてCI、VI、広告企画・デザイン、WEBなど、コンセプト及び視覚コミュニケーション全域に携わる。近年は空間デザイナーとして、アートとコミュニケーションデザインを統合した空間デザインも多数手がけている。

http://www.asitanosikaku.jp/

share

TWITTER
FACEBOOK
LINE