Interview & Writing
六車 優花
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井上 雅夫

市内から車で約1時間、大阪唯一の村として知られる千早赤阪村にこの秋オープンした『BUM』をご存知ですか? 山奥にひっそり佇む築130年の古民家を改装したこちらは、レストランとヘアサロン、ギャラリーを併設する複合施設です。ココを立ち上げたのは、もともと北浜のカフェを間借りして『napoff』というカレー屋を営んでいたアキラさん・タミオさんご夫婦と、市内の人気サロンに勤めていた美容師のタクヤさん。これまで街で大いに遊び、たくさんの人と交流を深めてきた街っ子たちが、突然田舎に拠点を移してお店を始めたキッカケって? 気になるその経緯はもちろん、ライフスタイルの変化や今抱えている想い、そして新しくスタートした『BUM』のことなどをたっぷり伺いました。自分たちが面白いと感じることに躊躇なく挑戦できる彼らのバイブスがあれば、なんでもできちゃう気がします!

「3人で田舎にお店を出そう!」と盛り上がって、約1年でオープン。土地選びもお店づくりも、僕らはめちゃくちゃ天邪鬼なんです。

(左から)タクヤさん、タミオさん、アキラさん

それぞれの経歴と千早赤阪村にお店を出そうと思ったキッカケを教えて下さい。

アキラ:もともと僕はイタリアン、カフェ、ハンバーガー屋など、色んなジャンルの飲食店で10年ほど働いていました。タミオは学生時代からずっとストリートダンスをやっていて。僕らは出会ってすぐに付き合い始めて同棲して、交際1年くらいで結婚しました。そんな時に2人で商売をしたら面白そうって話になって、ケータリングのカレー屋さんをスタートしたんです。

タミオ:自分たちのペースで働きたいと思っていたから、ケータリングやイベント出店をメインにするのがちょうどいいかなって。その後、北浜の『エスカぺ』で間借り営業させてもらえることになって、『napoff』というカレー屋を始めました。

アキラ:もともと間借りは2年間って期限を決めていたのもあって、そろそろ独立して店を持とうとテナントを探し始めたんですけど、大阪市内になかなか良い物件がなくて。そんな時、タクヤとお互いの独立の話になったんです。僕もタクヤの美容室に通っていたし、タクヤも『napoff』に来てくれていて、互いにお客さんであり友人って感じでした。

タクヤ:そうそう。僕はもともと飲み歩くのが好きで、コロナになる前は美容師をしながら飲食店でも働いていました。将来は美容と飲食、両方できたらいいなぁとぼんやり考えていて、お客さんが自由に過ごせる空間をつくりたいと思っていたんです。

タミオ:タクヤくんが『napoff』に来てくれた時、そんなことを3人で話していて。「市内じゃなくて田舎でやるのもいいかも。じゃあ3人でやっちゃう?」ってめちゃくちゃ盛り上がったんよね。私とアキラは一応市内で物件探しをしていたけど、良いと思う場所がなかなかなくて。来てくれた人が落ち着いて過ごしてもらえる空間を作りたいっていう思いはタクヤくんと一緒だったし、彼となら上手くやっていけるんじゃないかなって。

アキラ:その後すぐに田舎で物件を探し始めて、最初は能勢や生駒を見ていました。だけど、すでに店をしている人が結構いて、土地のカラーみたいなものが出来上がっているところが多かったんです。逆にそこでやっていくのがイメージしやすい分、なんだか面白くないなぁと。それで店そのものが少ない千早赤阪村を選びました。

そこでたまたま空家バンクの人に案内してもらったのが今の物件。僕たちが目星をつけていたものではなかったんですが、「絶対君たちに合うよ〜」って紹介してくれたんです。「頼んでないのに、なんで勝手に連れてくんねん!」とか最初は思ったけど(笑)。10軒くらい回って、結局ここが一番気に入りました。建物自体が大きいし庭も広々としていて、色んなことができるんじゃないかとワクワクして。

タミオ:去年の9月の初めに3人でやろうって言い出して、10月には物件決めて。施工を自分たちでやりつつ千早に引っ越して、今年9月にオープン。本当に怒涛の一年だったなぁ。タクヤくんは上司にサロンを辞めることを伝えられていないまま、物件だけ先に契約したよね(笑)。

タクヤ:去年の冬は精神的にもめちゃくちゃ大変やった。そろそろ退職するって言おうとしている時に、一緒に働いてたスタイリストが先に辞めちゃって。やけど独立を真剣に考えてるタイミングではあったから、なんとか身の回りの整理を付けながら同時に動き始めました。

お店づくりも皆さんで協力して自分たちでやられたんですよね。どんなところが大変でしたか?

アキラ:水回りとか専門的な部分はプロに任せて、友人に左官屋の子がいたので色々教えてもらいつつ自分たちでやりました。工務店の人が図面を引いて、空間デザイナーさんがシュミュレーションをしながら作っていくのが一般的だと思うけど、僕らはそういう業者にお願いしてなくて。結構広い建物だから全体のバランスを取るのが難しくて、壁の色一つ決めるのも大変でした。

タミオ:サンプルを出してもらっても小さなカラーチャートしかないし、塗った時の色味も微妙に違う時があるし。その辺りをイメージするのに苦労しましたね。

アキラ:週に4回くらい、総勢50〜60人くらいの方が代わる代わる僕らを手伝いに来てくれて、中には知り合いが友人を誘って一緒に来てくれることもありました。多い時は、一日10人くらいが手伝いに来てくれたことも。人の少ない田舎に移住したはずなのに、逆に人の繋がりが広がりました。

タクヤ:たくさんの人が手伝ってくれるのは嬉しかったけど、僕は人の言うことにすぐ影響されちゃうタイプで。色んな人が意見をくれるから、「あれもいい」、「これもいい」ってなっちゃって、結局どうしたらいいか分からなくなってしまったのが結構大変だったな。特に、美容室の壁を何色にするか本当に悩んだ。最終的に気に入った色になったから良かったんだけど。

タミオ:タクヤくんは優しいから、「それもいいね」ってすぐに頷いちゃうよね。それが良いところでもあるんだけど。

アキラ:あとは築130年くらいの古民家だから、見る人が見ると立派な部分がたくさん残っているみたいで。「このでっかい柱ホンマに隠しちゃうん?」とか「この床のテカリは残した方がエエよ」とか、色んな人に言われましたね。だけどそれを残すと、よくある古民家カフェみたいになってしまうのが嫌で。良いと思った部分はもちろん受け入れるけど、それ以外は自分たちの思うようにリノベーションしました。散々悩みましたが、これですごく良いものを作ることによって、「確かにこのやり方もカッコエエな」と認めてもらいたい思いもあって。たぶん僕らは、場所選びも店舗づくりも、めちゃくちゃ天邪鬼なんです。皆が良いと言っているものが必ずしもベストだとは限らないし、そこは自分たちの軸がブレないようにはしましたね。

タミオ:だけどそんな天邪鬼な私たちをいつも助けてくれて、見守ってくれている友人たちにはとっても感謝。ついてきてくれてありがとうって思います。

建物全体はこんな感じ。手前からレストラン、ギャラリー、ヘアサロンを併設。
友人たちが製作したL字型カウンターが印象的なレストランスペース。
グレーを基調にした落ち着いた雰囲気のヘアサロン。

丁寧な生活が忙しくて、どこがスローライフ? って感じ(笑)。気になることはすぐに話し合って解決するのが共同生活のカギ!

村に移住して、どんなことが変化しましたか?

タクヤ:ガラッと生活が変わって、本当に規則正しくなった。前は夜遅くまで働いていたから、単純に仕事終わりが早いっていうのもあるけど。今は朝6時半から7時は3人でミーティングをしてるから起きるのも早いし、市内にいた頃と違って飲みに行くことも無くなったし。

タミオ:休日は市内に出かけることもあるけど、ほとんどこっちで過ごしてるよね。田舎に移住したって言うと、「スローライフだね〜」って皆に羨ましがられるけど、正直どこがスローライフだよって思う。ゴミ1つだってきちんと仕分けないと捨てられないし、草を狩らないとボウボウになっちゃうし。ほんと丁寧な暮らしって忙しい(笑)。

アキラ:市内で働いてると、なんとなくモヤモヤしつつも目をつぶって過ごせることが、こっちだと生活が成立しなくなっちゃうんよな。ゴミのこともそうだし、庭の草刈りだってそう。ちょっと目をつぶると、途端に自分たちが生きづらくなってしまう。だからそういう部分になるべく早く向き合って、その場でちゃんと解決するようになったかな。

タミオ:気持ちの面でもそうよね。私たち夫婦とタクヤくん、3人で共同生活をしているから、何か問題が起きたらきちんと互いの気持ちを確認し合うようにしています。

3人でケンカすることはないんですか?

アキラ:俺とタミオ、俺とタクヤはあるけど、タミオとタクヤがケンカしてるのは見たことないかも。

タミオ:確かに、タクヤくんとはケンカしたことないよね。

タクヤ:アキラとタミオのケンカの仲裁に入って巻き込まれることはあるけど。

アキラ&タミオ:(笑)

アキラ:共同経営は絶対失敗するから、話し合いだけは欠かさずしようって最初に3人で決めたよな。それで上手くいかなくなるのも嫌やから、ずっと良い関係で続けていきたくて。

タミオ:この生活を始めて心から思うけど、話し合いってホンマに大事よね。朝のミーティングでお店のことと今気になってることを話して、じゃあこの日にこれをやろうって決めてる。

3人の関係性って不思議ですよね。家族みたいな感覚なんですか?

タミオ:うーん、私とアキラはこれまでも夫婦兼ビジネスパートナーとしてやってきたから、そこにタクヤくんが一人増えたって感じかなぁ。ずっと合宿中みたいな感じで楽しい。

アキラ:普段は俺とタクヤが2人で遊んで、タミオはそれを見て笑ってることが多いかも。タミオだけ違う空間にいることも結構あるよな。

タミオ:私は1人の時間が欲しいタイプだから、2人の仲が良くて助かっている部分はあるかな。タクヤくんがいない隙にアキラが靴を隠したり、めちゃくちゃしょうもないことで爆笑してたり、ずっとふざけ合ってるからホンマに面倒やなって思いながら見てる(笑)。

タクヤ:不思議な関係やなぁ。家族じゃないけどめっちゃ居心地良くて、一緒に移住して良かったなって思う。世間話とかも全然しなくなったし、こっちで生活してると今まで気にしてたことが、あんまり気にならなくなったかも。

タミオ:毎日丁寧に生活するのに忙しいからね。忙しいけど、毎日心地良くて楽しい。村に移住して良かったと本当に思います。

お客さんが思い思いに過ごせるような空間に。自分たちが「面白い!」と感じたことを躊躇なく実行できるノリと勢いがあれば、何をしても楽しいはず。

ここまでは、お店をオープンするキッカケとライフスタイルのことをお聞きしました。次は『BUM』のことを伺いたいと思います。飲食の方はどういったスタイルで営業されてるんですか?

アキラ:来る人によってカフェ、レストラン、居酒屋って使い分けできるお店にしたくて。最初はカレーランチを出してたけど、わざわざ遠くから来てもらうから、それぞれ好きに過ごせるような場所にしたいなと。今は、カレーとアラカルト、スイーツ、ドリンクを9時から16時まで提供しています。カレーは比較的シンプルなものを副菜付きで出していて、そっちの方がお客さんが使いやすいかなと思って。

タミオ:私は主にスイーツを担当していて、レーズンバターサンドとかバナナともち米を使ったベトナムのおやつを作っています。カレーを朝イチで食べて帰る人もカフェだけ利用する人もいるし、とにかく自由に過ごせるようにっていうのがモットー。イメージは便利なファミレスみたいな感じかな。

お店で提供しているカレーやスイーツ。

どの時間帯に来ても、思い思いの過ごし方ができるんですね!美容室の営業スタイルも教えて欲しいです。

ギャラリーの隣に併設するヘアサロンは、マンツーマンでじっくり施術が受けられる。

タクヤ:美容室の予約は一日2組限定、1メニュー¥5,000の一律料金にしています。ここまで来てくれたお客さんとしっかり向き合うために、このシステムにしました。あとはレストランに来てくれた人が「なんか髪型変えたいな〜」っていう時に、飛び込みで入れるようにしておきたいなと。例えばカップルで『BUM』に遊びに来て、彼氏がカットしているのを見た彼女が思い付きで前髪切るとか。カットで予約してたけど、「やっぱりパーマもやりたい」ってメニューを追加するとか。そういうことは都会の美容室だとなかなかできないし、時間が無いからできないってならないように。

アキラ:カットもカラーもパーマも全部一律やから分かりやすいし、ブリーチとかも¥5,000でできるからエエよなぁ。

タクヤ:そうそう、値段も少しリーズナブルに設定していて。市内だとカットとカラーで1万5,000円くらいかかるところを、カットとカラーをして、ごはんを食べてもその値段でできるっていう。それやったらここまで来てもらいやすいのかなって。

それめちゃくちゃいいですね!私も今度はプライベートで来て、美味しいご飯食べて髪型変えたくなりました。

タクヤ:ぜひぜひ(笑)。ギャラリーも併設していて、今は知り合いのアーティストさんの作品を展示しているので、合間に見てもらえたら嬉しいです。

ギャラリーには、知り合いのアーティストの作品を展示。レストランとギャラリーを繋ぐアーチ型の出入り口も可愛い。

まだスタートしたばかりだと思いますが、今後挑戦していきたいことはあるんですか?

タクヤ:今は夕方までだけど、今後はディナー営業もやっていきたい。あとはコロナが落ち着いたら民宿とかもやりたいなと。

タミオ:この建物は2階が蔵みたいな感じになっていて、今はバタバタで手を付けられてないけど、時間ができたら改装していく予定。近くに住んでるデザイナーの子のアトリエも作るんです。駐車場の近くに小さな倉庫があるから、改装してコーヒースタンドにするのも良いなって。

アキラ:こんな感じで次々とアイデアは生まれてきていて、オープンしてまだ1ヶ月くらいだけど、すでにメニューの内容も変わってるし。僕らがやりたいのは、『BUM』をもっと育てていくってこと。「ここにこんなものを作ったら面白そう!」とか、トライしていく中で日々アップデートできたらいいなと思っています。自分たちが面白いと思ったことを躊躇なく実行できるノリと勢いがあれば、何をしても楽しそうだし、お客さんも楽しんでくれるのかなと。

話を聞いているだけでもワクワクしますね!最終的には、『BUM』をどんな場所にするつもりなんですか?

アキラ:そうやなぁ、なんかもうすでに理想的な場所になってるかも。俺らが最初に思い描いてた“こんな場所”になってる気がする。

タクヤ:たくさんの人が来てくれて、知らないうちにそれぞれが繋がっていて。もう十分僕たちの願いは叶ってしまってるんかもしれんね。

タミオ:ほんとに色んな人に助けてもらって、私たちだけじゃ難しいこともちゃんと形にすることができてるよね。

アキラ:この場所をもっと居心地良く、もっと素敵な場所に育てていけたらいいな。

木々を眺めながら縁側でゆったり寛ぐのもおすすめ。
[BUM]クルーの想いを綴った手作りのZINE。
コンクリとアクリル板を組み合わせた看板も可愛い。
取材前に仲良くお昼ご飯を食べる3人をこっそり撮影。
Profile

BUM

2021年9月2日オープン。正真正銘の街っ子だったカレー屋のアキラさんとタミさん夫婦、美容師のタクヤさんがスタートしたレストラン、美容室、ギャラリーが入居する複合施設。千早赤阪村という土地にありながらも、連日多くの人で賑わっている。

大阪府南河内郡千早赤阪村小吹293
TEL/080-1335-5305
定休日/不定休
https://bumosaka.com/

●レストラン
営業時間/9:00~16:00(L.O.)
インスタグラム/@bum_jp

●ヘアサロン
営業時間/予約は1日2組限定
インスタグラム/@bum__hair

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