イギリスを拠点に世界規模で活躍するバンド・The fin.のYuto Uchinoさんが、再び日本から世界へ届ける、新しくて自分らしい音楽。
『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』など、国内の大型フェスへの出演はもちろん、USの『SXSW』やUKの『The Great Escape』、中国の『Strawberry Festival』…と、海外の音楽フェスにも多数出演。2016年から制作の拠点をイギリスに移し、2019年には中国での13公演は全てソールドアウト。まさに世界規模で活躍を続ける異例のロックバンド・The fin.が、およそ2年ぶりとなるニューシングル「Swans」をリリース!これまでの幻想的なサウンドに加え、ソウルやジャズのエッセンスも織り交ぜられた新たなサウンドは、世界各地の音楽を生身で体験してきたからこそ生まれたハズ。今回はバンドのフロントマンを務めるYuto Uchinoさんへインタビュー!海外での濃密な音楽体験と、音楽のルーツに迫りながら、The fin.の今、そして思い描く未来について尋ねてみました。
ネイティブなイギリス音楽に触れて、拠点を日本に移した今、自分のなかの縛りみたいなものから解き放たれてきた。
前作からおよそ2年ぶり。まずは待望のニューシングル「Swans」について、いろいろお聞きしてもいいでしょうか。
2021年に3rdアルバム「Outer Ego」をリリースした段階で、それまでに自分たちがやってきた音楽が形になったと思って。去年、一昨年といろいろ動き回るなかで、今までの縛りみたいなものからだんだん解き放たれてきて、その始まりの作品になったかなと。
縛りっていうのは?
初めてアルバムをリリースしてからちょうど10年くらい経って、自分の音楽観が一周したというか。良い意味でいえば円熟、悪く言えばクセが出てきたみたいな。今作の「Swans」はそこから外れて、より自然体で曲作りができたと思ってます。
The fin.として“新章突入”って感じでしょうか!具体的にどんな変化があったんですか?
自分のことをどっちかっていうとプロデューサータイプやと思ってたんですが、この2年間で、もう少しミュージシャン寄りになってきた感じはありますね。前回のアルバムを作ってからすぐにピアノを買ったのが大きかったですね。これまでは「こんな音を重ねて曲にしていこうかな」って、パソコン主体の作業であれこれ考えていたのが、ピアノと自分だけのオーガニックな作曲スタイルになりました。
「Swans」を聴いてみると、ピアノもあるしアウトロのサックスも印象的で。The fin.らしい幻想感はありながらも、ビート感が増してヒップホップやジャズの要素が強くなっているように感じました。
そうですね。2年くらい前からR&Bやソウル、ジャズとかのブラックミュージックを遡っていってる気がします。自分はロックがルーツなんですけど、別のジャンルを辿っていくと、ロックとは全く違うカルチャーから共感できることもすごく多くて。
そもそもThe fin.の楽曲ってアンビエントな感じもあったり、エレクトロな曲もあったり、ジャンルとして一括りにできないような気もしてて。
ジャンルは気にしてないんですよね。どっちかっていうと経験とか、自分の流行りやモードのなかから引っ張ってきたものが多いので、そのときの自分の音の温度感が曲に現れる。結局、自分でミックスまでやるので、自分が好きなものじゃないとフィニッシュまで辿りつかないですし。
経験の話でいうと、中国やヨーロッパ、アメリカなどでツアーも行うなど、海外でも活躍されてますよね。イギリスに拠点を構えていましたが、そもそものきっかけって?
2015年ぐらいにアメリカ一周ツアーをしたんですけど、そのときにいろんなバンドを見たり、文化を感じて。日本と比べてとにかくライブの盛り上がり方が桁違い。それが自分のなかで衝撃的でテンションがあがっちゃって。 若かったっていうのもあるんですけど。
とにかくリアクションが大きいって、まんま海外っぽいイメージ。
それから海外に住みたいってなって。その前にたまたまロンドンでライブをしていた経験もあって、向こうのインディーズのレーベルとも繋がりがあったんです。それで、「イギリスでアルバムでも作ろうか」ってメンバーと決めて移住しました。
イギリスはYuto Uchinoさんのルーツでもあるロックの本場ですしね。
もちろんこれまでに聴いてきたロックはUKが多かったんですけど、UKでの体験で印象的だったのはソウルやジャズ。飲みに行くのもジャズバーだったり、外でやってるレゲエパーティーが多かったです。
意外ですね!
ロンドンでナチュラルに鳴っている音楽がソウルやジャズだったのもあって。ロック以外のジャンルに触れるなかで「このスケールは持っていない」「このフレージングは絶対自分からは出ないな」とか、たくさんの刺激をもらいました。
それってやっぱり現地のカルチャーなんでしょうかね?日本では得がたい部分というか。
やっぱりあっちは音楽がすごくネイティブなんですよね。興業のための音楽っていうものじゃなくて、歴史と生活の中で生まれてきた音楽。「こんなに音楽とナチュラルな関係なのか」って気づけたのは自分のなかで結構大きかったです。
実際に生活して感じてみないとわからないことですよね。音楽を作る環境的にはどうでしたか?
いや、めちゃくちゃ良かったです。音楽っていうところで言えば世界的にもダントツやと思います。トップクラスのアーティストがその辺のバーに普通に遊びに来てるんですよ。それこそ、全英チャート1位の人とかもいたり。
それは刺激的ですね!
仲良くなってスタジオに遊びに行って、おすすめの曲とかをめっちゃ聴かせてもらったりして。日本人がポツンって一人でいるのが珍しくて、めっちゃ可愛がってもらえたんだと思います。あれは良い経験だったなあ。あとは、メンバーが変わってイギリス人のドラマーが入ったのも大きかった。
今ベースを担当しているKaoru Nakazawaさんは元々ドラムでしたっけ。
そうですね。で、サポートで入ったイギリス人のドラマーのリズムや音楽の解釈が全然違くて。現地のミュージシャンと一緒にやるようになって、これまで情報として知ってただけだったものが身体に直接入ってくる感覚。一緒にやってるうちに吸収して、だんだんと自分の音楽も変わっていきました。
先ほど話してた“ネイティブな音楽”を直接、身体に沁みさせて。
ほんと、今思い返してもめっちゃいい時間でしたね。
そんな音楽的にはこれ以上ない環境だったイギリスを離れて、2019年に帰国。直前まで中国ツアーをやっていたこともあって、この動きは意外でした。
ちょうどその時期、アジアでライブがすごく増えてて。東京でライブしてロンドンに帰って、またすぐ中国に行ってライブして…ってことを繰り返してたんです。自分がどこにいるのかわからなくなるくらい、ひたすら移動。
アジアとイギリスの往復って移動だけでかなりしんどそう。体力も時間も。
自分は音楽を作ってる時間が一番好きなんですけど、移動に忙殺されててイマイチ集中できてない感じもあったんです。事務所も東京にあったし、しっかりした環境で新しい音源を作ろうと思って、機材をガチっと入れて東京にスタジオを用意してたんですよ。
イギリスとの二拠点っていうことは考えてませんでしたか?
行きたいなとは思ってましたけど、そのタイミングでコロナが始まってイギリスはロックダウンにもなって。ライブも中止で時間ができたので、東京を拠点に音源に集中、っていう流れですね。でも、まだイギリスに荷物を置いたままで、結構気に入ってるマイクとかも放ったらかしで来ちゃって(笑)。一応、知り合いに全部管理してもらってるんですけど、それは取りに行きたいかも。
Yuto Uchino
兵庫県宝塚市出身。2012年結成のロックバンドThe fin.のフロントマン、ソングライター。バンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONに影響を受けバンド活動を開始。80〜90年代のシンセポップ、 シューゲイザーサウンドから、リアルタイムなUSインディーポップの影響やチルウェーヴ、ドリームポップなどを経由したサウンドスケープは、日本国内を飛び出し、海外からも注目を集め続けている。
シマタニケイ