ボカロP、シンガーソングライター、作家。マルチな才能を発揮し、現代人にぶっ刺さる曲を生み出し続ける大阪出身のアーティスト・すりぃってどんな人?
普段は明るい性格だけど、曲作りをしていると内へ入りこんで、どんどん暗くなっちゃう 。僕の悩みやモヤモヤを「飲もうや」のひと言で一掃できるギャルマインドが眩しいです(笑)
すりぃさんの大阪時代の思い出を教えていただきたいです。
中高を通して部活をしたことがなくて、友達が放課後部活をしている中、そのまま帰宅していたんですよ。実家の最寄りは徳庵という駅なんですが、近所にフリータイム500円のめっちゃ安いカラオケ屋があって、そこはめちゃくちゃ通っていました。東京じゃ絶対ありえない価格ですね。今でもあるのかわからないけど、懐かしいな。
ボカロPの方って顔を隠していたりプロフィールを非公開にされていたり、謎の多い方が大半だから気になっちゃって、どんな子ども時代を過ごしていたのかなと思ったんです。
そういうことか(笑)。小学校の頃はチャリで遠出するのが好きでした。生駒まで行って帰ってくるとか、特に何もせずチャリで往復するだけなんですけどね。ボカロのアーティストって、アニメ好きのオタクのイメージがあるから暗そうって思うかもだけど、僕はむしろ友達が多くて明るいキャラクターでした。デュエル・マスターズにハマってクラスで1番強くなって、隣のクラスの子に決闘を申し込まれてデュエルをしたりもしてましたよ。
話していると、すりぃさんは明るくてノリのいい方なんだという印象を持ちました。
普段は気のいいお兄さんって感じです。ただ、こんな風に作品のリリース後にお話する時は今みたいに明るいけど、作ってる時はやっぱり内へ入りこんで、どんどん暗くなっちゃうんです。パッと見た感じじゃわからないけど、陰がある人って結構多いんですよね。みんな心に闇を抱えていて、それを見せないように生きている。今の時代はそんな人が多いと思うから、表面では明るくしつつもちょっと生きづらさを感じている、そんな人に刺さる曲を作りたいと考えています。
それでいくと、すりぃさんが11月14日にリリースしたオリジナルアルバム「グラデーション」内の歌詞には、少し陰のあるニュアンスを感じました。今回はご自身で歌唱もされていて、ボカロPとしてではなく、シンガーソングライターとしての一面が現れたアルバムになっています。どんなことを考えながら曲作りをしたんですか?
ボカロPとして活動する際は、物事を客観的に捉えることが多くて、「世の中ってこうだよね」「こんな問題あるよね」という内容をテーマにアウトプットしています。今回のアルバム「グラデーション」は、僕自身が歌うということもあり、より自分の考えや体験、悩みを色濃く反映しました。それもあって、「グラデーション」の制作に費やしたこの1、2年は、気持ちが落ちてしまう場面がかなり多かったです。自分の内面を分析して書くって難しい。普段から第三者的な目線で物事を見る癖が付いているから、自分の考えをそのまま反映するのに苦労しました。
自分の内面を見つめる作業は、すりぃさんにとって新しい試みでもあったんですか?
初めてかもしれないです。今まで書いてきたのは、誰か他の人のことであって自分ごとではなかったですし。今までは物事をあえて斜めから捉えて皮肉るような歌詞が多かったから、ストレートに書くのは新鮮でもありました。だけどいい経験になったかなと思います。
自分の悩みって、人に伝えたり解決したりするの難しいじゃないですか。他人ごとだと気楽にズバズバ言えちゃうけど、いざ自分ごとになると本当にこれで大丈夫かと悩んでしまって、何がベストなのかわからなくなる。どんな風に言葉にするか迷った場面もたくさんありました。自分の内面を見つめるって言葉にすると簡単だけど、いざ実践するのは難しいんだなと思いました。
すりぃさん自身は他人によく相談ごとをするタイプですか?それとも自分で溜め込んじゃいます?
今まであんまり相談することはなかったかな。ちなみにアルバムの収録曲でもある「花水木」は、悩んでいる時、1人ではいたくないし誰かに話を聞いてほしいけど、別に肯定も否定もいらないっていう、僕自身の心境を歌った曲です。
現代人に刺さりまくるというか、私も自分のことを歌ってるのかなってドキッとしました(笑)
だけど最近、ギャルマインドで過ごすのが結局1番いいんじゃないのかなと思ったんです。
ギャルマインド、どうしてですか?
いろいろ重なって悩んでる時、ギャルの友達と一緒に飲みに行ったんです。僕があーだこーだ悩みを打ち明けてると、「なんかよくわからんこと言ってるけど、とりあえず飲もうや」ってヒョイっと片付けられたんですよね(笑)。その強さを目の当たりにすると、なんだか明るい気持ちになって、そこまで思い詰めなくていいのかなって思いました。ギャルマインドは大事やなって。
確かにギャルマインドを持つのってめっちゃいいかも。
僕らはどうにか自分の思いを伝えようとして、どんどん言葉や感情が迷宮入りしていくタイプだから、それを「わからん」のひと言ですがすがしく一蹴してくれて。そこにギャルの強さを感じました。
プライベートの自分とすりぃでいる時の自分、何か意識的に変えている部分はあるんですか?
音楽に関しては変えるようにしています。ボカロPとして作曲する際は客観的な視点を大切にしていて、すりぃとして表舞台に立つ時はよりありのままの自分を発信したいと考えています。それこそ11月に顔も公開して、2つの境界がよりシームレスになったのかなと思います。
より温度感のある1人の人間として認識できるようになりましたね。
今後はもっとパーソナルな部分を出していきたくて。ライブもやるようになったので、どんな人か知ってもらった方が伝わりやすいのかなと思っています。めちゃくちゃ酔った朝方に友達とツイキャスして、余計なことを言ってしまうとか、パーソナルな部分を発信したいという気持ちが裏目に出ている場面もあるけど……。まぁあんまりクリーンすぎるのも良くないんで。
ちなみにすりぃさんはご自身をミュージシャンとクリエイター、どちらに分類されますか?音楽にこだわったミュージシャンなのか、 自分の作品を作っているクリエイターなのか。
うーん、どちらかというとクリエイターですかね。別に音楽という手段じゃなくても、何かを生み出したり世の中に発信をしたりしてたんじゃないかと思うんです。僕はそれがたまたま音楽だっただけで、この道に進まなくても、何かしらクリエーションには携わっていたんじゃないかと思います。
今回のアルバム「グラデーション」は、ボカロに限らずすりぃさんのミュージシャン的な一面をより投影した作品になったのではないでしょうか?
「グラデーション」には、1曲だけパソコンのみで完結させた曲を入れたんです。「炎上じゃない」っていう曲なんですが、人と関わる中でいろんな悩みが生まれて、それを解決するのも同じく人なんだよっていう曲です。ほかの曲では人の温もりを盛り込みたくて、初めてプロに楽器を叩いてもらいました。「グラデーション」とタイトルにしようと決めた時に、自分の振り幅も表現したいなと思って。シンガーソングライターとして歌も歌うし、ボカロPとして作曲もするしっていう。「グラデーション」というタイトルのごとく、曲のテイストにも幅を持たせています。
お話を聞いていると、ご自身の内面のグラデーションでもあるのかなって思いました。
その意味もありますね。気持ちの上げ下げって誰しもあることだから、そのグラデーションも描き出したいなって思ったんです。“必ず朝は来る”とか“夜が明ける”みたいな歌詞ってよくあるけど、あれを見ると「でもまた絶対夜が来るやん」って思っちゃうんです。そんな皮肉な自分もいるから、目を背けたくなるような陰の部分を歌いつつ、わずかな光について歌っていきたいと思いました。 “朝は来るけど、絶対にまた夜も来るから、その時に備えとこうぜ”みたいなね。そういうグラデーションを表現したつもりです。
見せかけのきれいな言葉じゃ納得できない、ちょっと癖のあるお人柄なんですね。
なんか文句言いたくなっちゃうんですよね。辛口コメンテーターみたいな気質なのかな。
すりぃ
ボカロP、シンガーソングライター、作家。2018年3月3日にボカロPとして活動をスタート、同日に初投稿した「空中分解」が後にニコニコ動画で初殿堂入り。Adoを筆頭に様々な人気アーティストへの楽曲提供をする他、シンガーソングライターとしての一面もあり、最近はライブ活動に力を入れる。短編恋愛小説「トキメキ因数分解」を手掛けるなど、執筆活動も行う。
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