『Pangea』代表・吉條壽記×MVディレクター・UGICHIN対談!ライブハウスって、これからどうなるの?
コロナ禍で苦境に立たされているライブハウス。そんななか、マルチストリーミングライブという形で、自分たちの音楽を届けたいという人たちの想いが詰まった映画『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE-Live Together,Rock Together-』が制作されました。
7月6日に公開した最近、ライブハウス行ってる?音楽好きの想いが詰まった映画『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE』の上映イベントに行ってきた。は、『心斎橋 Pangea』で開催された、同作品のお披露目イベントをレポートしたものでした。
この記事を書くうちにもっとライブハウスの“今”と“これから”を知りたくなった、MAEZELライター鈴木。そこで今回は『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE』の監督であるMVディレクター・UGICHINさんと、『Pangea』代表として関西のシーンを10年見つめてきた吉條壽記さんに、ライブハウスについて、とことん聞いてきました。
「中学生の時にLONDON NITEに行ったのが最初」2人の“ライブハウス原体験”って?
はじめに、二人の“ライブハウス原体験”について聞かせてください。
UGICHIN:中学2〜3年くらいのころですね。LONDON NITE っていう1980年からやっているロック系のクラブイベントがあって、それが新宿にあったーーーライブハウスではないんですがーーーディスコ『ツバキハウス』でやっていて。「なんか面白そうだぞ」と友達と一緒に行ったんです。
当時の中学生って、どういうところからそんな情報を仕入れてたんですか?
UGICHIN:先輩かなんかから噂を聞いて、みたいな感じだったと思います。ただ実際に行ってみると、緊張してとても楽しめるような状況ではなかったんですけどね(笑)。ただ、一つだけ忘れられないことがあって。
なんですか?
UGICHIN:その日のLONDON NITEに先輩の女性が来ていたんですけど、彼女が俺の顔を見て「楽しんでる?」って言ったんです。大して歳は変わらないのに、ものすごく大人に見えて、めちゃくちゃカッコいいなって思ったのを覚えてます。
UGICHINさんは先輩に何て答えたんですか?
UGICHIN:「はい!めちゃくちゃ楽しいっす!」みたいな。さっきも言ったみたいに、全然楽しめてなかったのに(笑)。
(笑)。吉條さんはどうですか?
吉條:僕のライブハウスでの原体験っていうと、高校卒業後に『梅田GUILD』のブッキングイベントに初めて出た時です。逆に言えば中学・高校時代はほとんどライブハウスとか音楽には触れてませんでした。
え、そうなんですか!?RAZORS EDGEのドラマーで、『Pangea』のオーナーって聞くと、つい小さい頃から音楽に慣れ親しんでる、みたいなイメージが……。
吉條:ドラムはお兄ちゃんがやってたので、その影響で触れる機会はありました。でもちゃんとバンドを組んで音楽をやることになったのは、高校を卒業してからです。家の近所に住んでいた幼馴染みが「ドラムやってんの?一緒にやらん?」って誘ってきて、NIRVANAのコピーバンドを組むことになって。
そのバンドで『梅田GUILD』のブッキングイベントに出たんですか?
吉條:そうです。当時はまだまだライブハウス=怖い場所だったので、ビビりながら参加したのを覚えてます(笑)。25〜26年前ですね。
「音楽やバンドの形がより自由になってきた」『Pangea』オーナーが感じるシーンの成熟。
吉條さんはその頃からずっとシーンと伴走してきたわけですが、当時と今で変わったと思うことはありますか?
吉條:シーンが成熟するにつれて音楽やバンドの形がより自由になってきたのかなと思います。
どういうことですか?
吉條:昔はバンドといえば、ギターとドラムとベースがそれぞれ正規メンバーとして所属している、というのがスタンダード。対してソロアーティストはインディーズやライブハウスみたいなアングラではなく、メジャーとかマスメディアを中心に活動しているイメージでした。スリーピースなり、フォーピースなりで、ちゃんとメンバーが揃っているという状態が一つのスタートラインというか、様式美というか。
でも今はそういう固定概念みたいなのがなくなってきてますよね。
例えばどんなバンドの形になってきてるんでしょう?
吉條:ソロの人でもどんどんライブハウスに出ていますし、普段は3人とか4人でライブに出てるのに、アー写になったら2人になってる、みたいなバンドはたくさんあります。サポートメンバーがいることを、本人たちはもちろん周りも気にしない。
型をあまり重要視しなくなってきた。
吉條:それよりも楽曲、中身を大事にしているように思います。もちろん昔のバンドが楽曲を大事にしてなかったというわけではないですけど、今よりはバンドとしての形を重視していたのかもしれません。
「ライブハウスは“ライブだけを観る場所”じゃなくていい」。
UGICHINさんは今回ライブハウスを舞台にした映画を撮ったわけですが、UGICHINさんのなかでの「ライブハウスはこう楽しんで欲しい!」みたいなお話ってありますか?
UGICHIN:「こう楽しむべき」みたいな型はいらなくて、もうちょっと肩の力を抜いて、ライブハウスという場所を楽しんでもらえたらなと思います。
どういうことでしょう?
UGICHIN:ライブハウスは“ライブだけを観る場所”じゃなくていいんです。もちろんチケット争奪戦があって、当日は箱がパンパンになるっていうライブがあってもいいと思うんだけど、アメ村みたいにたくさんライブハウスがある街なら、もっと気軽に足を向ける場所で良いと思っていて。スケジュール空いたし、調べたら『Pangea』で面白そうなイベントやってるから、一杯飲むついでに行ってみるか、くらいの感覚で。なんなら2軒、3軒って梯子したっていい。
吉條:確かにライブハウスってまだまだ「ライブを観にいく場所」って捉えられすぎてるところがありますね。
UGICHIN:ふらっと行って、一杯飲んで、おまけにライブの生演奏も見られるんだから、めちゃくちゃ楽しい空間なんです。だからもっとたくさんの人にライブハウスを楽しんで欲しいし、自分もそういう楽しみ方をしたいなって思ってますね。
僕が高校生の頃にライブハウスに通ってた頃はそんな感じでした。部活帰りにふらっと寄って、500円とか1000円で全く知らないバンドの演奏を1〜2時間聴いて帰るみたいな。
UGICHIN:それくらい安かったら、なおさら行きやすいよね。きっちゃんが『Pangea』と『ANIMA』に次ぐ3店舗目をオープンする時は、ぜひそういうライブハウスにして欲しい(笑)。
吉條:実はANIMAをそういうアメリカンな場所にできないかなって思ってるんですよ。あそこはバーとフロアが独立してるんで、バーは常に誰でも入れて、フロアではライブをやってて、お酒だけ飲んで帰ることもできるし、ライブが気になった人は別料金でフロアに入ることもできる―――そんな箱にできないかなと。
UGICHIN:めちゃくちゃいい!!やって欲しいなあ……。
フロアから漏れてくる音を聴きながらお酒飲むの、めちゃくちゃに贅沢ですね。
吉條:バーのモニターを使えば中の様子も映せますし。パーとして街に定着させるのにも時間がかかるでしょうし、このご時世なのでなかなか踏み出せないんですが、いつかはやりたいスタイルです。
ライブハウスはこれからどうなる?「一周回って、変わろうとしなくていいと思うようになった」。
今多くのライブハウスが苦境に立たされていると思いますが、二人は今後ライブハウスはどう変わっていくべきだと思いますか?
吉條:去年の時点では、コロナ禍に入って、アフターコロナとかウィズコロナといった話が出るなかで、色々次の手を考えないといけないのかなって思ってました。でも1年以上経って、今思うのは、「元に戻したい」ってことなんです。
検温とか消毒とかをこのまま引き続きやるのは別に問題ないんですが、結局僕は三密状態のライブハウスが好きなので、そこは戻したいと思ってて。
三密だからこそのライブハウスというか。
吉條:コロナ禍に対して何か新しいスタイルを作らないと経営者としてダメなんじゃないか、と悩んだ時期もあったんです。でも一周回って、変わろうとしなくていいと思うようになった。「もしそれでダメになったら、無理して続ける必要もないかな」って。
今はあくまでかつてのライブハウスを取り戻すための時限的な状況。いつか元に戻るだろうという希望を持って我慢しているって感じです。
カルチャーとしてのライブハウスやパンクシーンが好きだから、それを守るために元に戻したいというイメージでしょうか?
吉條:それもありますが、もともと僕がライブハウスを始めた理由が「時代が変わっても、人々が交流する場所はなくならない」って思ったからなんです。それがコロナ禍になって「なくなるかもしれへん」って思ったんですけど、今は「やっぱりなくなれへんわ」って考えるようになりました。
もちろん今よりずっとオンラインでのコミュニケーションがスタンダードになれば別だと思いますが、僕が生きてる間はライブハウスっていう場所はなくならない。コロナ禍を通じて、それをより強く思えたと言うか、思いたいと言うか。今はそういう心境ですね。
UGICHINさんはどうですか?
UGICHIN:今きっちゃんの話を聞いていて改めて思ったんだけど、俺も今まで通りでいいんだって思いますね。
今規制されている状態が変われば、きっとライブハウスに来る人たちの楽しみ方も変わると思います。もしかしたら以前のようなブームがくるかもしれない。でも、そうなっても、今まで通り、それぞれのライブハウスのスタイルで、粛々と続けていくこと。
それがライブハウスっていう空間を求める人たちの帰る場所を守ることになるんじゃないかって。
ありがとうございます。では最後に、この記事を読んで二人と直接会いたいって思った人はどこに行けばいいでしょうか?
UGICHIN:宣伝になってしまいますが、7月23日と24日に渋谷にある『ユーロライブ』というシアターを借りたので、そこに来ていただければと思います。イベントの内容としては、今回心斎橋『Pangea』など映画の舞台となった5つのライブハウスで開催されたのと同じ、映画上映会です。詳細は公式ホームページを見てもらえたらと思います。
吉條:じゃあ僕の方も宣伝を(笑)。8月8日に映画のもとになったマルチストリーミングライブの第二弾「GOOD PLACE VOL.2 ~UNITY~」が開催されるんですが、今回はオンラインと有観客での開催なので、ぜひ大阪の方は『ANIMA』のほうに来ていただければと思います。こちらも詳細は公式ホームページからご確認ください。
もちろん配信での参加も大歓迎です。配信をやってていいなって思ったのは、生活環境が変わってライブハウスに来られなくなった人にも、現場の空気に触れてもらえることです。そういう人たちから「やっててくれてありがとう」って思ってもらえるという意味で、すごくいい選択肢だなと。
あとは僕の方はほぼ毎日ライブハウスでイベントをやっているので、そちらに来てもらえたら、タイミングさえ合えば会えるかなと思います。
流れるような宣伝(笑)。僕も先日からライブハウス熱が高まっているので、タイミングを見て、あえて下調べせずにふらっと立ち寄りたいと思います。今回は取材に応じていただき、ありがとうございました。
吉條 壽記(Toshiki Kichijo)
『Live House Pangea』『LiveHouseANIMA』オーナー兼店長であり、RAZORS EDGEのドラマーとしての顔も持つ。
Live House Pangea
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