悪ノリだけどCOOL!トリッキーなビールを造り続ける『ディレイラブリューワークス』山﨑さんの、トラブルを飲み込むスタイルとは。
2018年4月、日本のクラフトビール業界に彗星の如く現れた『ディレイラブリューワークス』。西成の街にブルワリーが誕生したというトピックだけじゃなく、ビールを軸としたあらゆる表現がトリッキーで、あっという間に人気ブランドの一つとして数え上げられるようになっていました。まさに順風満帆なサクセスストーリーかと思いきや、実は全然そうではないんです。もちろん、何をするにも障壁は付きものですが、代表の山﨑さんの場合はちょっと濃いめというか、西成という特性もあってディープというか…。そんな話を包み隠さずに話してもらい、世界に向けた野望まで語っていただきました!まだまだ暑い日は続くから、『ディレイラブリューワークス』のビールをクイっと飲みながら読んでもらえると、うまさがさらに深まるかも…しれません。
僕らは、どっちに進むか迷った時は必ずおもしろそうな方に行く。道から外れていくことを良しとするんです。
これまでいろいろ話されてきたと思いますが、まずは『ディレイラブリューワークス』の立ち上げの経緯から教えてください!
いろんなメディアに取り上げていただきましたが、かなり美談にデフォルメされてて、それでもいいんですけど、とりあえずリアルな話をしますね。僕らの母体となる株式会社シクロは医療介護や就労支援にまつわる事業をしてて、その一環で西成のおっちゃんたちに働く場所を提供してるんです。でも、「モチベーションが上がらん」「単純作業はイヤ」といった不満が出てくる中で、西成のおっちゃんたちにとって何が一番刺さるのかをずっと考えてて、トライ&エラーを繰り返してる状態でした。しかも、みんな朝から飲んでるから、コーディネーターがヒアリングしてもそもそも話にすらならない。完全にできあがってるので、逆に詰め寄ってきたりするんです。
外から見たらお馴染みの光景って言えますが、おっちゃんたちを支える側にとっては大変でしかないですよね。
なんとかコーディネーターの子たちが仕事しやすい環境にしないとアカンなと。夜に飲むのは自由やけど、朝から飲むカルチャーを穏やかに変えていきたかったんです。モーニング食べながら飲んでるビールをエスプレッソに変えて、西成にスタバ的な店を作ろうと思ったのが始まりです。それで、飲んでるおっちゃんたちに「カフェやろうや!」と声をかけて、西成警察署の裏に40坪のカフェを作りました。
最初はカフェだったんですね。
いや、結局このカフェは1年で閉店しちゃんですよ。
何があったんですか!?
おっちゃんたちのモチベーションも上がり、どんどん酒が抜けていくようになって、30〜40人くらいの雇用も生まれました。平日でも100人以上のお客さんが来てましたからね。いいスタートが切れたと思ってたんですが、そこから嫌がらせが始まるんです。店の前で脱糞されてたり、ドアの前にその脱糞が並べられてたり、殺虫剤を撒かれたり…。
人気のカフェができて妬みがあったと…。
よく思わない人もいたやろうし、朝からやってる飲み屋とかはね。それと、おっちゃんたちにお金貸してる人とかも。おっちゃんたちは朝から飲んで博打して、散々搾り取られてまたお金を借りるという、ここならではのエコシステムが成り立ってましたから。でも、おっちゃんたちが真面目に働き出して博打しなくなり、収入も得てるからお金も借りなくなると、そっち側の人らの食いぶちがなくなるわけですよ。そりゃ、「あの店を潰したら客がまた戻ってくる!」的な感じで、閉店に追い込まれてしまったんです。
ディープですね…。
結局、ネジの袋詰めや封筒の手折りとかの単純作業にまた戻らざるをえない状況になりました。で、ある日おっちゃんたちと焼肉食べながら、これからどうするかいろいろ話してたんです。だんだん酔っ払ってきて「お前があそこで屈したからアカンのや!」「お前のせいや!」とか言われ出しまして…。僕からすると「おっちゃんたちもビビって出勤しなくなったんやん!」と思ってたんですけどね(笑)。そんな感じであーだこーだ喋ってる時に、「ワシらは暴動の時に酒を造ってたんや!ワシらに酒を造らしたらええねん!お前は金だけ出したら、ワシらは売るところまでやったる!」と、1人が言い出したんです。すると、「俺も造ってた!」ってみんな言い出して(笑)。全員が本当かは分からないですけど、どぶろくを造ってたみたいです。
やっぱり酒のことになると1段階ギアが上がる感じですね(笑)
そこまで言うなら、酒を造る方向で何かしようかなと。まぁ、さすがにどぶろくを造るつもりはなかったですが、日本酒は酒造免許の取得も難しいから現実的ではないし、そもそも西成の水で造った日本酒を誰が飲むねんって話で(笑)
それでビールになったと。
ビールは沸騰した水を使うので、そこまで名水にこだわらなくても大丈夫ですし、原料もほぼ輸入。日本のどこで造ってもスタートラインは同じだから、西成でやってもチャンスがあるなと思ったんです。アメリカの品評会でも都会の真ん中のローカルブルワリーが金賞を獲ったりしてますからね。それができるのもビールならではで、なおさら西成でやる意味があるなと。
とは言え、ビールの醸造も大変だと思いますが、どこかで修業したんですか?
開業準備を進めながら、堀江にある『MARCA』の神谷さんから技術指導を受けました。ノウハウも全部教えていただき、それがなければ開業すらできてなかったと思いますし、今まで続いてなかったはず…。神谷さんに言われるがままに機材を準備して、僕らのイメージするビールのレシピも書いていただき、本当に感謝しかありませんね。
造り方だけじゃなくなて、ノウハウまでってすごいですね。完成したビールを飲んだ時のことは覚えてますか?
最初の<西成ライオットエール>はアメリカンペールエールとして神谷さんのレシピで造ったんですが、いい意味で全然違って、うまさと懐かしさがある味わいでした。
おっちゃんたちも何か言ってましたか?
「あ、この味や!」とか「懐かしいわ!」とか、神谷さんの前で言い出しまして…。おっちゃんたちが造ってたのはどぶろくやのにね(笑)。頼むから神谷さんのいないところで言ってくれって思ってました。
おっちゃんたちはピュアですね。でも、発売直後からいろんなメディアに取り上げられたりして、大人気になりました。何か戦略を練ってたんですか?
まず、おっちゃんたちにも分かりやすいエピソードを作って売り出したいとは思ってました。ただ、どぶろくを密造してたなんて言えないので、ファンタジー的なストーリーを作ったんです。ポートランドから不登校の女子高生が来て、その子がおっちゃんたちにビール造りを教え、暴動の時に振る舞った…というウソと事実を混ぜたような感じで。
それなら、おっちゃんたちもピンとくるはずですね。
必要な要素をうまいこと繋げて、隠し切らないカタチで表現したのが、その世界観でした。僕の中ではそれで終わるつもりだったんですけど、<西成ライオットエール>を発売したら「西成でかつてビールが造られてた!」みたいな話がSNSで拡散されて、みんながどんどんポジティブに捉えて応援する流れが生まれたんです。
ファンタジーなのに、理解されなかったと(笑)
マスコミの方々にも取材で本当のことは伝えてたんですが、見事に密造の部分をカットして「かつて酒を造ってたおっちゃんたちが新たな人生をやり直す!」みたいな、すごく美しいストーリーができあがってしまって…(笑)。もちろん間違ってはないんですが、ファンタジーであることを理解してもらわないといけないので、ストーリーがどんどん派生したり、オムニバスになったり、スピンオフが生まれたりと、すごく拡張して今に至るという感じです(笑)
引くに引けない状況でしたが、それがディレイラらしい感じもします。
おもしろがってくれる人は多くて、コラボする時はそのストーリーに入れてほしいという方も多いですね。本当はもっと真っ当な売り方ができれば良かったんですが、そこまで戦略的なことは考えてなかったのが本音。何かある度に修正を繰り返してたら、悪ノリの極みみたいになってしまいました(笑)
そこがディレイラの魅力であり、「次は何するんやろ?」と興味を掻き立てるのかなと。
会社も同様で、最初から自分たちが掲げたゴールを目指して真っ直ぐ進むことはないですし、真っ直ぐ進んでも予想通りじゃないですか。もちろんネガティブに進むことはないけど、予想を超える結果に辿り着くこともない。それに、無理して予想以上の結果を出すことに対して無意識で修正してしまうこともあると思うんです。だから僕らは、どっちに進むか迷った時は必ずおもしろそうな方に行きますね。道から外れていくことを良しとするんです。その方が結果は自分の予想を超えるし、どんどんポジティブな方に物事が進んでいく気がしてます。
その都度、その都度、本気で向き合ってる証ですし、山﨑さん自身がおもしろさを欲してるんですね。
ディレイラもそうだし、母体のシクロもそうですね。僕ら自身は間違ってないと思ってるけど、他の人や企業から見たら行き当たりばったりに見えてるかもしれませんが(笑)。最初からしっかりと世界観を構築して、こんなプロダクトをこんなストーリーで展開していくという風にできればいいんですが、できないんです。トラブルを常に飲み込んで、走りながら考えるのが僕らのスタイルなんですよ。
山﨑 昌宣
大阪市出身。『ディレイラブリューワークス』の母体となる株式会社シクロの代表。介護支援専門員や相談支援専門員、理学療法士、社会福祉士の資格も持つ。自転車の実業団にも所属していた過去があり、現在はトレイルランに没頭している。