人も服もミクスチャーが楽しい!大阪・上町のヴィンテージショップ『HELLO Darling』を営むセバルさんがファッションを通して伝えたいこと。


ドイツ語圏の民族衣装「トラフテン」を紹介したい。日本人のファッションに対する発想の豊かさにいつも驚かされています。

ヴィンテージショップであることにこだわる理由はありますか?

やはりサスティナビリティです。トレンドの商品が低価格で手に入るファストファッションももちろんいいけれど、新しい服を作るには多くの水を使いますし、動物の住環境にも影響を与えます。それもあって、古いものを受け継いで大切に使っていきたいという思いが強いんです。服が生まれた背景や服が持つストーリーを通して、昔の人とのコネクションができるのも魅力だと思います。日本人にはあまり馴染みがないかもしれませんが、フリーマーケットに行くことは、ヨーロッパではごく当たり前のことで。誰かのストーリーを受け継いで、新しいストーリーを紡いでいく。それってすてきなことだと思うんです。

あと、“完璧じゃない”ところも愛しいポイント。例えば、かわいい古着のジャケットを見つけたけど、ボタンだけタイプじゃない時ってありますよね。ボタンが気に入らないから……、という理由で買うのを諦める人もいるかもしれませんが、ボタンをチェンジすればいいじゃないと思うんです。きっと服だけじゃなく、家具や雑貨だってそう。ほんの少し手を加えるだけで愛せるポテンシャルがあるのなら、自分の手でフェイバリットアイテムに変えていくのも楽しいと思います。

以前お店にお邪魔した時、日本人にとっては丈が長いけどデザインがかわいいパンツがあって、その裾を切ってベルトループにお直しして使いやすくしていたのが印象的でした。自分に合うようにアレンジできるのも、古着ならではの魅力かもしれません。最初のお話でも出ましたが、ドイツの民族衣装を扱っているのもこのお店ならではですよね。

ドイツ圏の民族衣装は「トラフテン」と呼ばれていて、その土地の気候に合わせた素材を使っているだけでなく、ハートやキノコ、白い花など、昔から大切にされているモチーフが数多く落とし込まれています。例えば、ハートのモチーフは、ドイツの長いウィンターシーズンに愛や温かさを添えたいという思いから用いられるもの。高山の厳しい環境でも力強く咲き誇るエーデルワイズと呼ばれる白い花は、プロポーズの際に男性から女性に贈る花としても知られています。シカが落とした角をボタンにする習わしもあって、木で代用したイミテーションもありますが、本物の角もよく用いられます。

もともと物語を作ったり紹介したりするのが大好きで、私はそのアイテムの魅力をストーリーと一緒に伝えることに喜びを感じるんです。「トラフテン」を中心に、日本人には馴染みのない世界中の服の魅力を伝えたいと考えています。

ドイツで秋に開催されるオクトーバーフェスのクッキーをモチーフにしたバッグ。“いつもあなたのそばにいます”というメッセージが込められているそう。

話を聞いて疑問に思ったのですが、「トラフテン」と「チロリアン」に違いはあるんですか?

日本人はこういった民族衣装のことを「チロリアン」と呼びますが、正確にはオーストリアの限られた地域の衣装を指すんです。「トラフテン」はオーストリア、南ドイツ、スイスの民族衣装の総称で、「チロリアン」も「トラフテン」に含まれます。日本では「チロリアン」の方が主流だけど、「トラフテン」もきちんと紹介したくて、専用のコーナーを設けています。私は日本語で文章を書くのは得意じゃないし、そういう話ってオンラインじゃなかなか伝えられないのもあって、うちの店にはオンラインショップをあえて設けていません。お店に足を運んでもらって、ストーリーと一緒に服の魅力を伝えることを大切にしています。

「トラフテン」以外の服はどんな基準で選んでいるんですか?

生地やフィーリングです。私は“静かにおしゃれ”という表現をよく使うのですが、ボタンがちょっと変わっていたり襟物のデザインがかわいかったり、さりげない遊び心を感じられる服が好き。叔母の影響もあって80年代のアイテムは多いですね。叔母は映画業界で働いていてすごくカッコいいんです。お店へのアドバイスもたくさんくれるし、私がドイツに帰れない時は電話をつないで買い付けを手伝ってくれる。本当に頼れるビッグシスターです。

メンズ向けのアイテムもラインナップ。

日本でヴィンテージショップを営んでいて、ドイツとの文化の違いを感じる瞬間はありますか?

ドイツでは体型を強調する服が主流なので、日本の女性がルーズなシルエットを好むことにびっくりしました。あと、日本人はレイヤードがとっても上手ですね。ドイツでは肌を出して1枚で着るアイテムも、インナーやニットに重ねてかわいく着こなしてくれる。そんな発見があるのが面白いです。手伝ってくれるスタッフさんはもちろん、お客さんが新しい着こなしを教えてくれることも多くて。服としての可能性も広がりますし、何より服を楽しんでくれることがとっても嬉しい。だけど日本の着物も同じなのかもしれませんね。海外の人の方が着物への先入観なく、日常に落とし込めるのかなと思います。

ドイツでは、ドレスやスカートに装着するレザーベルト。日本人の友人がこれにデニムに合わせていたことにセバルさんは驚いたそう。
ドイツの伝統的なジャケットに、レースアイテムやスパンコールのつけ襟の組み合わせが新鮮。こちらはスタッフさん考案のコーディネートで、セバルさんもお気に入り。

それは興味深いです。先入観を持たずに服を見ることができれば、着こなしの可能性は無限に広がるのかもしれませんね。

複数の国との国境を持つドイツとは違い、日本は島国なので、独自性のあるディープな文化が根付いているのも面白いなと思います。日本人はその大切さや魅力に気付いてないことも多くて、そこが少しだけ残念だなと。ドイツ人がおじいちゃんに家具をもらったら喜んで使う人が多いけど、日本人がもらったら「ちょっと古臭くて嫌だ。新しいのを買いたいのに」みたいな反応をする人がたくさんいますよね。でも古びた家具だって、使い方やアレンジによってはモダンに見せることもできるから、古さを味だと捉えて生かせるかどうかじゃないのかなと。日本人は新しいものが好きな人が多いから仕方ないけど、自分の国の文化をもっと大切に受け継いでいってほしいと感じます。

私のおすすめは、色んな国の服をミクスチャーして自分らしく着こなすこと。そうすれば世界が広がって、もっとファッションが楽しくなると思います。これはイタリアのアブルッツォという地域で作られたヴィンテージのブランケットをリメイクしたアイテム。その地域では、結婚祝いのプレゼントにブランケットを贈る伝統があったんですが、徐々にその習慣がなくなりつつあって、それを寂しく思った友人がベストとして生まれ変わらせたもの。ニットの上に着てもかわいいし、ジャケットの上に羽織ってもかわいい。しかもリバーシブルだから、裏返すと違う表情も楽しめます。私はこれにドイツの民族衣装を合わせるのが好き。きっと着物の上に羽織ってもかわいいでしょうね。まさに文化のクラッシュ。人も服と同じで、色んな人が混じり合うことで、面白いことが起きるんだと思います。

ファッションは言語を超える表現方法の1つ。日本人はもっと自分の“好き”を突き詰めて、自分自身を表現していいんだと思います!
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Profile

Seval Guendogdu Iga(セバル・グンドクドゥ・イガ)

ドイツの伝統的な服のほか、ドイツとヨーロッパを中心に様々な国の質の良いアイテムを扱うヴィンテージショップ『HELLO Darling』のオーナー。メインは80年代〜00年代。トルコにルーツがある両親を持ち、25歳で日本へ。英会話教室などで働いたのち、ヴィンテージの服やインテリア雑貨を扱う『HELLO Darling』を友人と共にポップアップ形式でスタート。2021年に上町荘で実店舗を構える。

Shop Data

HELLO Darling

大阪市中央区上本町4-1-68 上町荘シェアオフィス 1&2F
12:00〜19:00
火・水曜休

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