ヴィンテージの武骨さと色気を両立した最高にクールなスタイル。<A PUZZLING HOME>のデザイナー・松久保翔太さんの服作り。
ルックを撮影するようになってブランドを知ってもらえる機会が増えました。ヴィンテージの要素を年代問わず織り交ぜつつ、どこか色気のある服を作っています。
ルックにもこだわって撮影されていますよね。ルックを見ながらブランドの変遷をお伺いしてもいいですか?
ルックを作る前は年に4型ほど作っていて、自分自身は満足できるアイテムが作れていたんですが、それが思うように広まらない時期が続いて。その状況を打破するためにルックを撮ることにしました。スタイリストの圓進さんに相談したら、ありがたいことにモデルさんやカメラマンさんの手配をしてくれて。22年SSからスタートしてこれまで5回ほど撮影しています。今もルック撮影は続けているんですが、僕が1番下っ端なんで、当日は全員のアシスタントとして動きまくっています。
なるほど。1人で運営していてルックにここまで力を入れているブランドってあんまりないんじゃないですか?
そこまでしないと売れへんやろうなと思って。最初は何もわからなかったので、服だけ作ってカメラマンさんやスタイリストさんに色々相談してやっていました。今でも生地や刺繍の色を変えて毎シーズン作っている刺繍ジャケットがうちの代表作で、これが完成した時は「金持ちになれるんちゃうか」って思いました。
名作ができたって感じる瞬間があるんですね。
完成した時、「これや!」って思うことはあります。当時は70年代っぽい服がいいなと思っていて。これはウエスタン刺繍やフリンジで70年代っぽくしてるんですが、やりすぎるとコスプレとか衣装感が出ちゃうんで、あえて髪が短いモデルを選んで街中で撮りました。カメラマンさんがスケーターやったからロケ地の引き出しが多くて、相談しながらどんな風に撮るか決めました。
ルックを撮影するようになって変わったことはありますか?
めちゃくちゃ変わりましたよ。1つは、単純に取扱店が増えたこと。もともと付き合いのある店しかなかったんですが、これまで関係性がなかった新しい取扱店が増えました。あとは、お客さんの層ですね。最初は自分より年上か同世代のお客さんが多かったけど、10代の子にも見てもらえるようになって、思ってもみなかった層に引っかかってくれたなという感じです。ちょうど70年代の流れが来てたタイミングで、刺繍ジャケットがハマってくれたというのもあります。
2回目の撮影はいかがですか?
22年AWは中崎町の『NOON+CAFE』で撮影しました。同じ年のSSは70年代っていうテーマでやったけど、ここからはあんまりガチガチにしないでおこうと思って。アイテムのジャンルや年代は気にせず、全体が揃った時にテーマに沿ってる感じにできたらいいなぁと。というのも、『ジャイアントベイビー』とかって、スケートTもあればイギリスのライダースや70年代のヒッピー風アイテムもあって、全部雰囲気が違うけど、『ジャイアントベイビー』っていう枠でしっかりまとまってるんです。それがすごくいいなぁと。これまでは年代ごとのディテールを盛り込んで全体に統一性を持たせてたけど、その考えを取っ払って作ってみることにしたんです。あとは、この辺りから花柄やレースを男っぽく落とし込む手法を使い始めました。ここで今のスタイルにグッと近づいたと思います。
なるほど。この辺りで今のスタイルを確立し始めたんですね。その次の撮影はいかがでしたか?
23年SSの服を作っていた時期は若い子たちと会う機会が増えて、夜中でも構わず遊んでいた20代の頃を思い返してたんです。そこでテーマを“立ちション”っていう意味の「STANDING PEE」にして、不良が夜中に遊んでるみたいなイメージでルックを作りました。梅田の無人の交番的な場所を使った夜のロケ撮影で、服もちょっとパンクなユース世代っぽい感じにしています。
ちょっと不良っぽい感じで“立ちション”(笑)。悪そうな雰囲気が伝わってきますね。
23年AWは“袋綴じ”という意味の「DUAL PAGE」をテーマに、男臭さがありつつ色気のある雰囲気を狙いました。袋綴じって自分だけで楽しむものだから、ポケット部分に穿いた人にしかわからないヴィンテージのディテールこっそり忍ばせたりとか。男がグッとくるポイントを盛り込んだアイテムが多いです。
24年SSの撮影はいかがでしたか?私も展示会にお伺いして実際に拝見させていただきました。
僕が持ってる古着のTシャツに描かれていた「STINKY PINK」をテーマに、エロとギャグのニュアンスを盛り込みながら、バイカーっぽい男臭い洋服に落とし込みました。
胸元にクロスモチーフが描かれたニットがすごくかわいかったです。
これはアイアンクロスっていうモチーフで、バイク系の服にプリントされてることが多いんですけど、ちょっとカルチャー色が強くて着づらいんですよね。バンドをあんまり知らないのにバンT着るな、みたい感じかな。それを気にするのもダルいので、ちょっと崩した手描きで表現しました。当時の海外のバイカーって、革ジャンやスウェットの後ろにペンでモチーフを描いて着てたりもしてたんですよ。そのまま描くときれいになりすぎちゃうので、外人のラフなタッチを再現するために、あえて利き手じゃない左手で描いています。たくさん描いていると途中から上手くなってきちゃって、それは困りました(笑)
松久保 翔太
東大阪市出身、1990年生まれ。ファッションデザイナー。バンタンデザイン研究所を卒業後、バイトをしながらフリーの縫製の仕事をするようになり、2014年に自身のブランド<A PUZZLING HOME>を立ち上げ。現在は大阪、富山、香川など全国10店舗以上で取扱いあり。代表作の刺繍ジャケットは、九条ジョー×イーグル野村のファッションシューティングでも着用。
ブランドIG:@apuzzlinghome