レザーアイテムの新境地を開拓する<GOOD KARMA DEVELOPMENT>。橘さんが貫く服作りの真髄と、真紀さんとの今を楽しむ毎日について。


試行錯誤を繰り返して完成する瞬間が、ほんまにうれしい。今でこそ思い出して笑えてるけど、毎回マジでヒヤヒヤです。リリースできへんかったら、どうしよかなって。

<GOOD KARMA DEVELOPMENT>として、当初はいろんな生地での服作りを考えてたとのことですが、最初のモデルをエゾシカの革で作ったことで、レザーアイテムを軸に展開するようになったと。

エゾシカの革に魅了されて結果的にそうなりましたが、他にも理由があるんです。その一つが、エゾシカの革を使ってるアパレルメーカーが当時はほぼなかったこと。革自体に穴や傷があり、個体差が激しい革なので、そもそもエゾシカは量産向きではないんです。ジャケットなんかはなかったし、あっても小物くらい。でも、僕らの場合は個体差を活かし、天然の表情も取り込んだ服作りだから、逆にエゾシカがベストだなと。それにエゾシカの革自体が希少なもので、ある程度の量を確保するのも大変なんですが、革を鞣してくれる素晴らしいタンナーさんと出会えたのも大きかったですね。

個体差があるってことは、仕上がったアイテムは完全に1点もの。選ぶ側としては、好みの革の表情をチョイスできますし、それがさらなる愛着にもなる。経年変化も楽しめるので、イイこと尽くしですね。

穴や傷もそのまま使ってますし、それすらもポイントになるかなと。革本来のナチュラルエッジをデザインにそのまま落とし込んでいるので、表情もすごく楽しめて、一般的なレザー素材よりも経年変化が早いのも特徴。ちなみにエゾシカは、北海道のみに生息する日本鹿の亜種で、農業被害や環境問題によって害獣として駆除されたり、捕食用として狩りの対象になっています。従来は廃棄されていたエゾシカの革を鞣し、再利用することでエシカルかつ命を無駄にしない、そんな問題提起するような皮革素材なんです。

素材としても意義のあるものですね。これまでにレザージャケットやムートンジャケット、レザーショーツを作られていますが、リリースのサイクルはどれくらいのペースなんですか?

1シーズン1型です。エゾシカの革の確保も大変ですし、最初のサンプルから最終的に仕上がるまでにも時間を要するので、わりとゆっくりなペースになってますね。でも、それくらいがイイかなと。今年の夏にリリースしたレザーショーツも、最初にサンプルが上がってきたのは昨年の夏ですからね。

服作りのスタンスもリリースのペースも、一般的なブランドとは大きく違いますね。まさに1点集中。

やっぱり服が好きやし、1シーズン1型なんで妥協は絶対にしたくないんです。今日穿いてるのがそのレザーショーツなんですが、これもかなり試行錯誤しました。昨年上がったサンプルを夏に穿いてみたら、革が伸びてイイ感じになったので、それを元にパターンを引き直して股上を深くし、股下も短くして…。タックは内側か外側に向けるか両方試しながら、玉縁ポケットの分厚さはどうするか、ディテールを検証してそこからまたサンプルを作って…。結局、完成したのが今年の春頃です。

レザーショーツのLAZY。アメリカ軍のジャングルファティーグパンツの1stをモチーフにしていて、タックを入れて程よくルーズなシルエットがポイント。

魂は細部に宿るって言いますけど、ディテールへのこだわりがある服って、やっぱり着る楽しさがあると思います。レザーショーツが完成した時は、やっぱりテンション上がりましたか?

今年の春に上げ直したサンプルを見た時は、「きた!めちゃくちゃええやん!」って思えました。この試行錯誤からの完成がほんまにうれしくて、今でこそ笑って話せますが、当時はヒヤヒヤですよ。リリースできへんかったら、マジでどうしよかなって(笑)

生みの苦しみ、からの喜びですね。しかも1シーズン1型だから、クラフトマンシップという言葉がハマる服作りだなと。あのムートンジャケットの制作過程も、この流れで聞きたいです!

あれは、リーバイスが1980年のレークプラシッドオリンピック用に、選手団に支給したムートンのトラッカージャケットから着想したアイテムです。エルミタージュでも買い付けたことがあるアイテムなんですが、当時購入してくれた友だちから借りたものと、その後にもまたリーバイスが作ったモデルをエルミタージュ時代のスタッフが持っていたので、それも借りてサンプリングしました。ムートンのナチュラルエッジを使って作りたかったので、試しに一回裏返して着てみたら、それがまためちゃかっこよくてね。表面はトラッカージャケット、裏面は羊毛のカールを活かしたジャケットというリバーシブル仕立てにしたんです。どっちも主役で着こなせるアイテムになったと思います。

リバーシブルムートンジャケットのLUKE。女の子にもお似合いの1着です。

それぞれ表情が違いますし、ムートンのナチュラルエッジもシブ過ぎます。羊毛の質感も大人っぽくて、裏面のポケットに施したエゾシカの革も絶妙な存在感ですね。タグも全部手書きっていうのも、素敵だなと。

タグだけじゃなく、内タグも1点1点全て手書きです。このムートンジャケットに描いた羊のイラストは真紀ちゃんが考案したもの。最初は自分で考えてたんですがどれもしっくりこなくて、試しにお願いするとイイ感じのタッチで描いてくれて。全部お願いするつもりだったんですけど、描いてるうちにちょっとずつタッチがブレてきたから、結局僕が全部引き取りました(笑)

あらま(笑)。でも、このゆるい雰囲気のタッチが、メンズライクなアイテムに絶妙な愛らしさを醸し出してます。真紀さんに感謝ですね。今後のリリースアイテムもすごく気になるんですが、何か今出せる情報ってありますかね?

今作ってるのは、来年1月にリリースするアイテムです。サンプルも3回目のものが上がってくる状況で、かなりイイ仕上がりになっているから期待しておいてもらえれば!あとは、小物も作っていて、12月の頭頃には発売予定です。アメリカのスタッズベルトブランド<HTC>とコラボしたアイテムで、グッドカルマのフォントでスタッズを打ってもらい、原皮の切れ端をそのまま使ったベルトになります。メキシカンの職人さんが嫌になるくらい調整を繰り返したので(笑)、めちゃイイ仕上がりになってますね。

こちらが<HTC>とコラボしたスタッズベルト。発売をお楽しみに!

スタッズのフォントや打ち方がマジでかっこいいです。通常の<HTC>のベルトよりも長いから、着こなしの中で“魅せる”使い方もできそう。その辺りの橘さんのこだわりは、やっぱり海を越えても関係ないんですね(笑)。アメリカには定期的に行ってるんですか?

コロナ禍もあったので、今年の4月に久しぶりに行きました。<HTC>の件もありましたし、実はLAの『MAXFIELD』でグッドカルマを取り扱ってもらいたくて、商談にも臨んだんです。

LAを代表するというか、アメリカ屈指のセレクトショップ!結果はどうだったんですか?

現地の知り合いを通じて紹介してもらい、最初はアシスタントバイヤーに会ったんですが、かなりの好感触でした。その翌日にメインバイヤーのサラさんと商談し、「Very Cool!」と言ってもらえて。サラさんは『MAXFIELD』でバイヤーを40年もしてる方で、とにかくめちゃくちゃかっこいいんですよ。そんな人に褒めてもらえて、こっちも「Thank You!」って感じで舞い上がってね。で、サラさんから「明日、オーダー数出すからもう一度店に来てくれない?」と言われたんですが、次の日が滞在最終日で予定がぎっしり詰まってしまってて…。

<HTC>とか、他の外せない仕事があったと。

いや、朝イチにサンディエゴでサーフィンして、そこからLAに戻って大谷翔平の試合を観る予定やったんです(笑)。だから、サラさんにはそのことを伝えて「I’m Busy!」って感じでね。でも、僕が行くつもりだったサーフィンのスポットに元カレが住んでるとか、いろんなローカルトークで盛り上がってたので、LAの思い出とともに意気揚々と帰国したんですが、そこから全然連絡がなくて…。

ってことは…。

結局、サラさんを紹介してくれた知り合いから「今回は無理だった」と連絡がありました。まぁ、そんなに甘くはないなと。ブランド立ち上げてすぐに『MAXFIELD』で取り扱ってもらってもね…、もっと頑張れよってことかなと思います。

好感触だったのに、残念ですね…。ひょっとして、元カレのことを思い出させたのが原因とか?(笑)

いやいや、それはないでしょ(笑)。ネタ過ぎますやん。でも、<HTC>との話は進んでベルトも作れましたし、『MAXFIELD』と繋がりもできたから収穫のある旅になりましたね。

<GOOD KARMA DEVELOPMENT>で表現する服作りと、そこに生まれる楽しさはさらに広がっていきそうですね。今後のブランドとしてのビジョンなどは、どう考えてるんですか?

ブランドをめちゃくちゃ広げたいとか、大きくしたいとかは別にないんです。でも、妥協のない服作りはずっと続けていきたいと思ってます。「まぁ、これでいいか?」っていうスタンスにはなりたくないし、1シーズン1型のアイテムが完成した時に自分自身のテンションが最高に上がる服作りをしたい。この気持ちを大切にすることが、僕としても<GOOD KARMA DEVELOPMENT>としても、ビジョンなのかなと。やっぱり取引していただいてるショップさんやお客さんにも、その気持ちって伝わると思いますからね。そして、今が楽しいと思える生き方をすること。これに尽きるかなと思います。

街で見かけたから追いかけて、ショップの中で偶然を装ってアタック。それから25年、一緒に歩み続けてきた真紀ちゃんは僕の一番の理解者であり、今を楽しみ合える存在。
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Profile

橘 徹

南船場のカリスマ的ショップ『Boutique Hermitage』の幕を下ろした後、レザーアイテムを軸に展開する<GOOD KARMA DEVELOPMENT>を立ち上げる。妥協のないこだわりと、長年培ってきた見識から作られるアイテムは、リリースする度に即完するほどの人気ぶり。趣味はサーフィンで、現在はタイミングを見つけてマイペースに続けているが、ひどい時は睡眠時間を削って週4も出かけていたそう。1年の半分以上はサンダルで過ごし、橘さんが靴を履くといよいよ寒い季節になってきたと巷では言われている。

GOODKARMA DEVELOPMENT

Profile

橘 真紀

アメ村の人気美容室で長年に渡ってトップスタイリストを務め、結婚を機に退職。徹さんが『Boutique Hermitage』をスタートしてからは共に店頭に立ち、店の成長をサポート。現在は「何もしてない」とは言いつつも、徹さんを支えながら要所で大切な役割を担う。最近は米粉でのお菓子作りにハマり中。もちろん徹さんのヘアカットも行い、名実ともに人生のスタイリストでもある。

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