「美しいパターンは光って見える」<MIHEY>デザイナー・楠本美佳、元パタンナーならではの服作り。
「原作者と翻訳家」 パタンナーという仕事、デザイナーという仕事。
もともと服を仕事にしようと思ったのは、何がきっかけだったんですか?
『東京ジュリエット』っていうマンガです。ファッションデザイナーを目指す女の子が恋人と一緒に色々な試練を乗り越えて成長していくみたいな王道の少女漫画なんですけど、これを読んで初めて“服を仕事にする”っていうことを具体的に想像するようになったんです。
それが何歳くらいのとき?
小学校高学年くらいかな。「将来は専門学校に行きたい!」と思って、中学生のお姉ちゃんの名前を勝手に使って資料を取り寄せたりもしましたね(笑)。
めちゃくちゃアグレッシブ!もともと洋服は好きだったんですか?
はい、物心つく頃にはもう好きでした。強いて言えば、小さい頃はお姉ちゃんのお下がりか、親の趣味で男の子っぽい服しか着せてもらえなかったので、「好きな服が着たい!」っていう反発精神が、私を服好きにしてくれたのかもしれません。
でも、アパレルと言えばやっぱり花形はデザイナーですよね。どうしてパタンナーの道へ?
本当は私もデザイナーになりたかったんですけど、学校で勉強するにつれてそこまでデザインが得意じゃないことがわかって。好きなんやけど、なんか苦手やなって。
パターンは好きだった?
いえ(笑)。むしろ最初はめちゃくちゃ嫌いでした。専門学校でパターンを習った人ならわかると思うんですけど、授業がただの作業だから面白くないんです。全然クリエイティブじゃない。
なのにどうしてパタンナーになったんですか?
そこまで嫌いじゃなかったから。周りの子たちはずっと嫌いって言ってたんですけど、私は好きとまでいかなくても嫌いじゃなかった。だから向いているのかも、と思ってパタンナーになりました。
パタンナーの仕事について、詳しく教えてください。
簡単に言えば「服の設計図を描く仕事」です。でもデザイナーが描いたデザイン画をもとに、シルエットや細かい仕様を決めるのはパタンナーの仕事なので、単に指示通りに設計しているだけではダメなんですよ。翻訳小説に例えるなら、デザイナーが原作者、パタンナーが翻訳家というイメージです。
そのまま日本語に訳すんじゃなくて、意味のわかるように訳せるかどうかが大事ってことですね。
はい。パタンナーごとにクセもありますしね。微妙なラインの引き方、曲線の引き方、全部パタンナーごとに違います。あとは好きな作業も、人それぞれ違う。
好きな作業、というのは?
例えば縫う時の仕様、つまりきれいに縫いやすいように縫う順番なんかを決めたりするのが好きな人もいれば、私みたいに平面のパターンを立体にしたときの様子を考えるのが好きな人間もいます。「このパターンを縫いあげたらどうなるかな?」って考えながら作って、その通りにできた時がすごく楽しいんです。
うまくいくかいかないかって、平面の状態でわかるものなんですか?
うまくパターンが描けると、そのパターンが光って見えるんですよ。デザイナーの意図とパターンがぴったりハマったときに、ピカーって光る。
将棋の棋士が「次の一手が見えた」と言ったり、ゴルフ選手が「パターのラインが光って見える」と言ったりするのと近いのかな。
かもしれません。昔の同僚や先輩も同じことを言っていたので、そういう感覚を持っているのは私だけじゃないんですよ。
楠本 美佳
アパレルブランド<MIHEY>代表。専門学校卒業後、パタンナーとして約10年働いたのち独立。デザイン、パターン、縫製全てを一人で行う。