ファッション、ナイトカルチャー、農業にアート。南京町のギャラリー創設者は、いろんな界隈を活性化させてきたアイデアマンだった!田村圭介さんの「神戸をもっと面白く」の視点。


「何やってるか分からんおじさん」にはなってる気はします。

『VILL』があることで、アーティスト側から田村さんのもとに相談がくることもあるんでしょうか?

ありますあります。「自分はこんなんやってて」と話に来てくれたり。でも僕自身はこのギャラリーでやることだけじゃないと思うんですよ。外で何かやってもいいし。

相談に対して一緒に企画レベルから考えるわけですね。

でも逆に止めることもあります。「ここはクリアしないといけないね」っていうラインがあるので。

というと、スキル的なものも含めてということですか?

一番違うのはコンセプトと継続力かなと。僕は現代アートの方面ともお仕事させていただくし、一方で美術教育を受けてきていないストリートアートの方との付き合いも多いんですが、彼らの一番の違いは「継続力」なんです。つまり後者の子たちは同じコンセプトで同じものをたくさん描けないという特性がある。よくみんな「内面から出たものを描く」って言いますが、それだけでは超えられない壁があるんです。「なんか雰囲気良いね」くらいまでしかいけない。もちろん普通に絵を描く分にはそれで十分幸せですが、人に伝えたり理解してもらったりするにはより太い芯だったりコンセプトが必要だと思います。

感覚だけではなく一定の地肩のようなものも必要だと。

とはいえ僕はアート界隈の常識みたいなものからも距離を置いておきたかったりするんですよ。やっぱりアート業界にはアート業界の文脈があるし「理解してもらうためにはこう」みたいなルールもある。もちろんその方が売りやすいんだけど、もう少し複合的に考えたいなって。

アート界隈のマナーも伝えつつ、クリエイティブな表現はサポートするということでしょうか?

そうですね。教えた結果その人の持ち味まで変わっちゃうと魅力がなくなっちゃうかもしれないんでね。ちなみにグラフィティライターってすごいんですよ。「同じものをずっと描き続ける」というアーティストが通るべきファンダメンタルを自然に達成してる。しかも本人たちは「良い線が描けた」とか批評もしながら1つひとつ考えていく。それってすごく現代アート的だと思っていて。僕もそんなに知識が深いわけではないですが、無理やりストリートアートを現代アートの文脈で解釈して喋ってみたりしています。

両方の世界が見える立場にいらっしゃる田村さんの存在は貴重です。

これは子育てをしてても感じたことなんですが、例えばお医者さんって自分の子どもに「医学部行け」って言うじゃないですか。あれって実はすごく良いよなと思って。それを伝えることで、腹をくくって医学部に“行く”か、腹をくくって“行かない”かが選択できるようになると思うんです。だからアートの話にしても、僕の意見を聞いて「そうだな」って思う人もいていいし、逆に反発してもらってもいいんです。一意見にしか過ぎないわけですからね。ただそういうのをベンチマークとして提示するのは、 年上の人間というか“嫌なおじさん”として必要なのかもしれない。

田村さんのお気に入りのお店でもある、焼き豚が抜群の『堂記號』。三代目の黄 景祥(コウ ケイショウ)さんはスケーターであり、街の後輩。

Aという道を示すことで「Aじゃない」道が選択できるようになるわけですね。

そうですね。「Aじゃない方が面白い」っていう人が出てくる可能性があるじゃないですか。もう僕らも50歳なのでそういう役目なのかなと思いました。僕も両親から「国公立の大学行って公務員になってくれ」って言われてそこから逸脱してきたけど、その結果今は全く違う形で神戸市さんとお付き合いがあるから、ある意味近づいてはいるかなと思います(笑)

何が正解かは進んでみないとわからないのかもしれません。

そうですね。だから『VILL』は、迷ってる人が相談に来てもらって僕も一緒に迷うという場所だと思っています。

新神戸で開催されている『SUNDAYS MARKET』の模様がこちら。

そのほか、田村さんが関わられているプロジェクトについてもお聞きしたいと思います。

2ヶ月に1回、新神戸で『SUNDAYS MARKET』というマーケットをやっています。だいたい20~30店舗くらいが参加するんですが、基本的に何をやってもいいっていう空間にしています。

なんでも良いんですか!面白いですね。

はい。参加者同士で物々交換してる人もいますね。ある人なんかは3冊くらい本を持ってきて他の人と交換していくという、わらしべ長者みたいなことしてました(笑)。あとは自分が住んでる地域から泥をいっぱい持ってきて泥団子で顔を作る子がいて。丸山っていう地域から来てるんで「まるやまくん」って名前を付けて販売してるんですよ。そしたら子どもがきて一緒に泥団子を作ってるうちにちょっとしたワークショップみたいになってて。

素敵です。自由だからこそそれもありになる。

フリーマーケットもいいんですけど、そうじゃないコミュニケーションが自然と起きて面白いですね。

ナイトカルチャーでの活動についてもお聞かせいただけますか?

風営法の改正でクラブが一斉に規制された時に、その時立ち上がった人たちと動いてた時期があって。ロビー活動ができる団体ってどの業界においても大事だと思うんですが、ナイトカルチャー界隈にはそれがないんですよね。当初は「ナイトカルチャーのイベントやろう」みたいな声が多かったんですが「地域の人間として産官学と話せるようなプラットフォームを作りたいよね」っていう話に、僕がすり替えたんですよ。そこで『NIGHT CULTURE KOBE 推進協議会』という名前を付けて、去年から本格的に動き始めました。イベントをやるんじゃなく、イベントが起こる街を作っていかないといけないんじゃないかと思って。

確かにその方が持続的ですし、街の活性化がリアルなものになりそうですね。具体的にはどういったことを?

ゲストスピーカーを呼んでローカルプレイヤーと座談会をしたり、面白いことやってる人たち10名にショートピッチをお願いしたり。そしてその後に交流会をします。神戸市さんも協力してくださって、一緒にやらせてもらっています。1回目はラッパーのSILENT KILLER JOINTさん、2回目は森山未來さんを呼びました。

きちんと行政にも声が届いているわけですね。神戸市の方の前でSILENT KILLER JOINTさんがスピーチするのは個人的に熱いです!

めっちゃ緊張してましたけどね。彼の場合、行政の人たちがいるなかで全部を包み隠さず話せるわけじゃない(笑)。ただ、やっぱり街のことを大切に考えてる人だから、心のこもったトークで会場の熱気はぶち上がってました。

改めてお聞きしていると、田村さんが取り組まれていることは本当に幅広いですね!

だから、ある意味かつて僕が出会っていたような「何やってるか分からんおじさん」にはなってる気はします。あまりにも怪しまれるので、何やってるか聞かれたら「企画の会社をやってます」って言うようにしてます。

最後に田村さんが今後やってみたいことを教えていただけますか?

神戸で、アートが売れる環境を作りたいというのが1つありますね。地元の人たちが新しいものに出会った時にそれを当たり前のように楽しめるような。僕、20~30代の頃は音楽イベントもやってたんですけど、人気が出始めているアーティストを神戸に呼んでも、小さいハコっていうのもあったのかもですが、40人くらいしか集まらなかったんですよ。しかも、その40人ってみんなプレイヤー。DJとかオーガナイザーとかバンドマンとかが来て、したり顔で並んでる。一方、徳島に戻って1年目にアートフェスタみたいなのをやった時に、青葉市子さんを呼んだら同じくらい集まってくれたんですが、その顔ぶれは青葉市子さんを知らないであろう地元のおばあちゃんとか子どもだったんです。でも、その方がハッピーじゃないですか。アーティストとしても、したり顔で「どんなもんやねん」って見てるプレイヤーたちの前でやるよりも、地域の人が楽しんでくれてるっていう空気の方が絶対良い。だから神戸もそういう環境にしたいですね、客層として。

誰でもピュアな気持ちで鑑賞できるようになるのは良いですね。

有名なアーティストしかお客さん入らないし、それにも天井がある状態なので、そういう楽しみ方ができる人が増えたら良いなと思います。神戸って何もない場所に文化が入ってきてできあがってきた街なので、新しいものを貪欲にとっていくマインドは大事にしたい。そうなったらもっと神戸の街は楽しくなるやろなって思います。


<田村さんお気に入りのお店>

STUDIO KUSHIKATSU(神戸市中央区下山手通3)
若いスケーターが手がけたショップ兼ギャラリー。今年5/31になんとビル一棟へ移転。1Fがスタンド、2Fがショップ、3Fがギャラリーというワクワクする規模に。

堂記號(ドウキゴウ/神戸市中央区栄町通1)
南京町で最も人が集まる広場の目の前にある老舗焼豚店。三代目の黄 景祥(コウ ケイショウ)さんはスケーター。取材の後にお店に伺うと『NANJING TOWN CHAOS ART GROUP』のキャップを被って働かれていた!薄くスライスされた焼豚は肉の旨みと上質な脂の甘みがクセになる逸品。

DORSIA(神戸市中央区旭通3)
純喫茶×アート。独自の視点で揃えられたユニークなアイテムのほかオリジナルのプロダクトも販売。2024年4月に高松店もオープン。「オーナーは学生時代からの付き合いです」

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Profile

田村 圭介

徳島出身、神戸在住のディレクター/プロデューサー。20年以上に渡ってアパレル、農業、アートといったさまざまな方面で活躍してきた経験を持つ。現在は南京町のギャラリー[VILL | a small place]の運営を軸に、ものづくりのサポートや遊休資産の利活用などを通して地域活性化に多角的にアプローチしている。株式会社ヴィレッジズ代表。

Instagram:@villasmallplace

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