ファッション、ナイトカルチャー、農業にアート。南京町のギャラリー創設者は、いろんな界隈を活性化させてきたアイデアマンだった!田村圭介さんの「神戸をもっと面白く」の視点。
南京町に作ったZINEのギャラリー。面白い人を、目に見える形にしたかったんです。

2021年にオープンされたこちらのギャラリー『VILL』はファッションやイチゴ農家ともまた違う業種ですが、どんな流れで繋がっていくんでしょうか?
ある時、丹波篠山のマーケットでイチゴを販売していたら「徳島に古民家があるんだけど何かやってみませんか?」って言われて、迂闊にもそこを借りたんですよ。
迂闊にも(笑)
そこから古民家などの遊休資産(※)の活用みたいなことをやり始めたのが、今の事業のベースです。「何もない場所で何かをやってみる」という。はじめはイチゴ農家をやりながら店を作って任せるという感じだったんですけど、気づいたらいろんな方から「こんな場所もあるんだけど」と相談が来るようになって、それに対応してるうちに今に至るという感じです。
※事業用として資産を取得したものの、事業変更や稼働停止している資産。
2拠点生活から神戸一本に戻られたのも何かきっかけがあったんですか?
小学生の息子がある頃から塾に通いだしたんですが、徐々にレベルが上がって、気がついたら中学受験することになったんです。小6の中学受験って本当に大変で、2拠点生活のなかでそれをサポートするにはちょっと無理があったので神戸に戻ることにしました。その時点では神戸のクライアントはまだ何も決まっていない状態で、「これから何しようか」ってところからのリスタートでした。でも結局その時にも、「使われてない場所を使う」という事業はベースになりました。


「何もない場所で~」の発想が活きたわけですね。
というかそれしかやってきてないです(笑)。このギャラリーのオープンに関してはきっかけが2つあるんですが、1つはアートディレクターの細野晃太朗君が西荻窪に作った住所非公開のギャラリー『HAITSU』のこけら落としの展示を訪れたのがきっかけです。文化住宅みたいなところの一室なんですけど、ここがすごく良くて。ちゃんとコミュニティーがあって、みんな集まってきて自由に過ごしていて、ZINEも作品もちゃんと買っていくんですよね。そういう環境を晃太朗君がずっと作ってきたんでしょうね。
人が自然と集まるし、アートギャラリーとしての機能もある場所だったんですね。
あともう1つは<BEAMS>にいさせてもらったおかげで有名なアーティストさんとアートプロジェクトをやらせてもらうことが多かったんですよ。でもそれを今やってたら、知り合いのアーティストを全員一周したら終わりじゃないですか。それよりも何か新しいコミュニケーションとか接点が生まれる場所を作る方がいいんじゃないかと思って。

若手アーティストをフックアップするという狙いでしょうか?
全部ですね。面白い人を目に見える形にしたいんです。こういう場所があると、神戸出身で今は東京ベースで面白い事業をやってるアートコレクターの方が来てくれたりするんです。そういうのってやっぱり場所がないと起こらないよなって思います。
以前開催されていた「素面/酩酊(※)」もめちゃくちゃ面白い企画だと思いました。
※素面で描いた作品を酩酊状態でもう一度描くという試み。来場者は入場時に呼気チェックをして、アルコールが検出されない場合はドリンク代500円を払わないといけない。
あれは持ち込み企画だったんですが面白かったです。でも、最終的に作品を壁に飾ったのに全員壁に背を向けて輪になって飲んでるだけやったんですよ(笑)

鑑賞よりも飲みの方がメインになってしまったんですね!
あと作家も体調崩すんですよ。なんせ酩酊状態ですからね。酒を飲むと意外と制作が進まないらしくて。だから別日にやるんですが、もう一回酩酊まで持っていくのがしんどいという(笑)。グラフィティライターだとちょっと缶ビール飲みながら描くくらいはあるんですけど、それも酩酊まではいかないみたいで。たまに酩酊した結果、知らないピースができてることもあるらしいんですけど。
今年2月に『IMA:ZINE』のギャラリーで行われた企画展も面白そうでした。
『IMA:ZINE』でやってたことは「NANJING TOWN CHAOS ART GROUP」っていう、この神戸のあたりにいる架空のアートグループを想定した遊びから派生したんです。ふざけて作ったステッカーを見て、神戸の古着屋の『Mr.Crown』のアム君がマーチャンタイズにしたのが一番最初です。真剣にシューティングもやって、もっともらしい感じでルックも作ってみたら完売したんですよ。「この遊びおもろいやん」と思って。お金出し合って、フォトグラファーとかモデルとかも外注でお願いして。売れた金額でチャラになるけど、一個ものが残るしええやんっていう。
デザインもかわいいです。
2回くらいやったあとしばらくほったらかしだったんですが、『IMA:ZINE』で企画展をやれるかも、という話が出たのをきっかけに復活というか。「今、神戸にはこういうクルーらがいるのか」って誤解が生まれたら面白いかなっていう。

誤解を生む遊び(笑)
だから「NANJING TOWN」っていうのも見たことありそうでない町なんですよ。「南京町」も英語表記にすると「NANKIN MACHI」なので。
“南京町的なエリア”にいる架空のアート集団というわけですね。
でもダニエルっていう展示に参加してくれたアメリカ人のアーティストは、当日まで「アートグループのみんなに会えるのが楽しみだ」って言ってましたね(笑)。勇気出して「そんなグループおらんねん」って言ったら「Oh No!」って言ってました。
「誤解を生む」という意味では狙い通りな気もします(笑)。普段『VILL』はZINEのライブラリーとして稼働されているということですが、展示しているZINEはどう集められたんですか?
2010年前後くらいに、ストリートの子たちがZINEを交換しまくってたんですよ。その時くらいからの手渡しが多いかもしれないです。だからあんまり自分からは買ってないんですよ。それと昔からグラフィティライターと付き合いが多少あったのもあります。


田村さんが直接アーティストから受け取ったものが多いんですね。
超私的なものが多いですけどね。あとは僕も地元の風景などを紹介するZINEを作っていました。フォトグラファーのShin Hamada君が写真を担当して、僕がテキストを書いて。TOKYO ART BOOK FAIRでも並べてもらいました。徳島の超山奥で毎年夏に行われている祭りの写真などは、ぜひ見てほしいです。拍子木を叩くリズムのなか、おじいちゃんたちがトースティング(即興で歌ったり語ったりすること)しながらマイクリレーしまくるっていうやばいお祭りです(笑)。その会場に通じる山道も暗すぎて先が見えなくて「これもう帰ってこれへんのちゃうか…」ってビビりながら撮ってました。


田村 圭介
徳島出身、神戸在住のディレクター/プロデューサー。20年以上に渡ってアパレル、農業、アートといったさまざまな方面で活躍してきた経験を持つ。現在は南京町のギャラリー[VILL | a small place]の運営を軸に、ものづくりのサポートや遊休資産の利活用などを通して地域活性化に多角的にアプローチしている。株式会社ヴィレッジズ代表。
Instagram:@villasmallplace