本当に好きな香りと出合える京都のフレグランス専門店『LE SILLAGE』のオーナー・米倉新平さんが提案する、ハイグレードな香り体験。
価格と品質のバランスが取れたニッチフレグランスを厳選。香りをより深く知るには、教養を身につけたり感性を磨いたりすることも大切です。

こちらで取り扱うフレグランスは、他店ではなかなか取り扱いのない“ニッチフレグランス”が中心です。そもそもニッチフレグランスってどんなものを指すのでしょうか?
品質や販路にとことんこだわり、天然香料を惜しみなく使ったラグジュアリーなフレグランスです。一説によると、ニッチフレグランスというジャンルが誕生したきっかけは、1992年にCalvin Kleinが発売した「ck one」という香水だったと言われています。これは世界で初めてユニセックスを謳ってヒットした香水で、「ck one」の登場を機に、男女の区別が明確だった香水市場が大きく変化したんです。世界中のブランドが“売れる”ことを狙った香り作りに力を入れ始めて、よく似た香りのプロダクトがたくさん生まれました。そのように生まれた香りは本当にいいものなのか、香りはもっと芸術的であるべきではないのか。そこに疑問に感じたアーティスト気質な人たちが、豊かな感性を盛り込んだフレグランスブランドの立ち上げをスタートします。どの時代にも“ニッチ”は存在していましたが、現代的なニッチフレグランスの創世記は2000年頃のことでした。
意外と歴史は浅いんですね。そういうブランドを仕入れるのって、ハードルが高かったりしないんですか?
うちは現在約30ブランド、400〜500種類の香りを取り扱っています。最初は日本国内の代理店から仕入れるものが多かったのですが、最近はラインナップの半分くらいがブランドから直接仕入れるものになりました。
ニッチフレグランスは希少性にも重きを置くため、取り扱い店もかなり慎重に吟味します。空間や接客がラグジュアリーであり、紹介する人にも信頼が置けること。中にはオーナーさんがお店を自分の目で見て最終判断するブランドもあります。私のお店で取り扱いをさせていただいているブランドは、全て、内装や取り扱いブランドについて聞かれました。どのブランドもこだわりを大切にしているブランドばかりです。

どのような流れで取り扱いをスタートするんでしょうか?
色んなパターンがありますね。こちらからのオファーはもちろんですし、逆にブランド側からオファーをいただくこともあります。
どのブランドを仕入れるか、セレクトの基準はあるんでしょうか?
色々ありますが、プライスとクオリティのバランスを重視した上で、ぜひ紹介したいと思える誠実なブランドのみを厳選しています。ブランド側の販売に対するスタンスも大切ですね。もちろんビジネスであることは大前提ですが、うちとしては少しずつ認知度やブランド価値を高めて、好きになってくれるファンを増やしていこうという方針のブランドと一緒にやっていきたいと考えています。
お店で手に取れるおすすめのブランドをいくつか紹介していただけますか?

まずは、最近お取り扱いをスタートした「Reine de Saba」。聖書に出てくるシバの女王から着想を得て、1点1点有名調香師を採用しハイクオリティな素材にこだわりながら作るとても贅沢なブランドです。いわば香水界の上流階級。女王の髪飾りをモチーフにした瓶のデザインもエレガントですよね。

ロンドン発の「ELECTIMUSS」は、中世ローマやローマ神話からインスピレーションを受けたブランド。こちらもすごくハイグレードで、他のブランドにはない原料の組み合わせも多く、複雑で奥深い濃厚な香りが特徴です。マーキュリーやジュピター、初代ローマ皇帝など、香りのテーマもユニークなんです。

僕もスクールを受講した「Miya Shinma Paris」の香水です。こちらのプロダクトは、水、雪、風、檜、橘など、日本人にとって身近なモチーフが題材となっています。「Miya Shinma Paris」の香り作りは調⾹師の新間美也さんがモチーフにまつわる詩を書くところから始まり、その詩を基に香りを作っています。その詩は非公開であり、本人以外の誰も知りません。例えばSAKURAという⾹りは、桜そのものの香りではなく、桜について書かれた詩から生まれた香りです。テーマや名前はシンプルですが、非常に奥深い世界観をお楽しみいただけるブランドです。

ジュネーブとフランスの境目あたりにラボを持つ「LES INDEMODABLE」は、超音波抽出という珍しい手法で取り出した香料を使用する変わったブランド。契約農家から直接仕入れる上質な原材料にもこだわっています。こちらのすごいところは、香りのレシピを一部公開しているところ。真似されるのではと思うかもしれませんが、そもそも特殊な手法で抽出した香料を使っているから再現は不可能なんです。圧倒的な透明感と濃厚さを両立している稀有なブランドです。
どれも気になるものばかりです。お話を聞いていて思いましたが、香りがお好きな方ってとても物知りですね。
きちんとしたフレグランスブランドを作る人は、香水以外の教養もあるクリエイティブな人が多いと感じます。文章が書けたりデザインができたり、他の才能を活かしながら香りを作っている人がたくさんいます。
私たちもそういったブランドの香りをしっかりとお伝えするために、⾹りだけでなくさまざまなことに興味を持ち、勉強したり感性を磨くようにしています。アート、建築、⾷、ファッション、歴史、神話……。⽇本だと華道や茶道の⽂化が関わってくる場合もあります。香りと共に多彩なカルチャーに触れたり知ったりする楽しみがあり、⾹りの感じ⽅や伝え⽅に深みを与えるエッセンスにもなってくれるんです。香水のコンセプトやテーマを通して、自分がこれまで知らなかったさまざまな世界に触れたり、繋がりを持ったりすることができるのもとても楽しいです。

米倉 新平
レアでニッチな香水を中⼼としたフレグランス専門店『LE SILLAGE FRAGRANCE SHOP KYOTO』のオーナー。⾼校時代に⺟親からもらった⾹⽔をきっかけに、⾹りの世界に⽬覚める。現在は、店頭に⽴ちながら輸入代理店業や店舗&空間の⾹りのディレクションも⼿がける。⾹りを軸にしたプロジェクト「混ぜるな危険」のメンバー。

LE SILLAGE FRAGRANCE SHOP KYOTO
住所: 京都府京都市下京区綾小路通高倉西入神明町233-2
営業時間: 11:00~20:00
休日: 不定休