本当に好きな香りと出合える京都のフレグランス専門店『LE SILLAGE』のオーナー・米倉新平さんが提案する、ハイグレードな香り体験。

小規模生産ゆえ世界的に流通が少なく、限られたショップでしか取り扱いのない“ニッチフレグランス”ってご存じですか?調香師やディレクターの思いが色濃く反映された、独自性のある香りが魅力です。今回インタビューしたのは、上質なニッチフレグランスを厳選する京都・烏丸『LE SILLAGE FRAGRANCE SHOP KYOTO』のオーナー・米倉新平さん。一度お店にお邪魔した際、香りへの知識と熱量に圧倒され、ぜひここでお気に入りの香りを見つけたいと感じました。町屋を改装したレトロモダンな空間には、まるで美術館のような洗練された空気が漂います。1点1点熱量のこもった説明を聞きながら香りに向き合っていると、だんだん心が満たされる特別な体験をすることができるんです。米倉さんには、香りの世界にのめり込んだきっかけや空間作りのこだわり、香りにまつわる活動などについて伺いました。ファッションやメイク、ヘアスタイルと同じように、香りも自分を表現するツールの1つ。奥深い香りの世界をほんの少し覗いてみて!
香りの世界に興味を持ったのは、母親にもらった香水がきっかけ。大学生の頃は、片っ端から香水をコレクションしていました。

まずは、お店の特徴について教えてください。
“ニッチフレグランス“と呼ばれる世界的にも流通の少ない上質なフレグランスを中心に、香りにまつわるプロダクトを扱うショップです。2018年に京都・東山で創業し、2024年12月に烏丸へ引っ越しました。落ち着いた雰囲気の店内で、スタッフとコミュニケーションを取りながら自分が本当に好きな香りを探す体験ができます。
大きなカウンターを備えている物販のショップって珍しいですよね。なんだかラグジュアリーなレストランに来たような気分です。
こういうスタイルのお店は日本だとまだうちだけですね。香りを気に入って長く使ってもらうために、カウンターをフルに活用してお客さまの納得がいくまで相談に乗っています。1~2時間かかる方も多く、これまでには5時間ほど香りをお楽しみになられた方もおられます。

米倉さんはどうして香りに興味を持ったんですか?
高校3年生の冬に母親からもらった香水がきっかけです。それまではガチガチの野球人生で、高校も野球推薦で行かせてもらったし、将来はプロになるか社会人野球をするかの2択やと思ってました。
そんなに長く野球をされてたんですね!ちょっと意外でした。
だけど部活を引退して、もう野球に対しては燃え尽きてしまったんです。僕が通っていたのはあまり偏差値の高くない定時制高校で、勉強して大学に進学する人は他にいなかったんですが、僕は大学に行きたくて受験モードに切り替えました。引退後は野球部の大半が髪を伸ばし始めるけど、僕は坊主のままだだったし、ファッションにも全く興味も持とうとしない。しかも引退前と変わらない量を食べてたら22kgくらい太ってしまって。うちの息子はこれで大丈夫かと心配した母親が、ある日香水をプレゼントしてくれたんです。香り系のグッズだとシーブリーズぐらいしか知らなかったので、最初は「香水って何?」という感じでした。
ちなみにお母さんからもらった香水って何だったんですか?
ブルガリの「プールオム」ってわかりますか?
わ、懐かしい~。わかります!
これがわかるってことは、たぶん僕ら同世代ですね(笑)。いくつかプレゼントしてくれたんですが、その中でも気に入って使っていたのはブルガリの「プールオム」でした。
香りに目覚めたきっかけをくれたのは、お母さんだったんですね。
そうなんです。ある日母親がくれた香水を付けて外に出ると、塾の先生や知り合いに「いい匂いだね」と褒めてもらえて。髪型やファッションを変えたならともかく、見た目も中身もそれまでと何も変わっていないのに、目に見えない部分である匂いや香りが変わるだけで、周りの見る目や感じ方が変わるという体験をしたんです。それまでは野球漬けの毎日で、「汗臭い」と言われる人生を歩んでいたのとは180度異なるその体験がすごく新鮮で、嗅覚の世界って面白いなと思いました。
香りが変わると周りの見る目が変わる。身をもってそれを体験されたと。
当時は若かったこともあり、外見至上主義のような感じでイケメンや美⼥が全て、何よりも⾒た⽬が⼤事やと思っていたんです。だけど「良い匂い」や「良い香り」っていうのも、かわいい、カッコいい、きれい、おしゃれなどの褒め言葉と同じくらいの意味を持つ⾔葉なんやなと。そう感じた時に、将来は目に見えない香りの世界で仕事をしてみたいという思いが芽⽣えました。

高校卒業後はどんな風に過ごしていたんですか?
無事受験に成功して京都の大学に通いました。奨学金とバイト代を全て香水に注ぎ込む以外は、ただの大学生だったと思います。
それはちょっと変わってるかもです(笑)
奨学金の使い道は間違えていたけど、今となっては正解やったんかなって。合計250~300本くらいは購入した記憶があります。見たことのないものや試したことないものを買い漁って、どんな香りか片っ端から試していました。学生だったので高額なものにはなかなか手が届かなかったけど、1,000円くらいものを中心に2〜3万円するものも買っていました。

その頃集めていたもので、印象的だった香りはありましたか?
当時、奮発して購入した3万円くらいするゲランの香水ですね。それは誕生日の前後の10日から2週間しか付けないと決めていました。そうすることで1年で1度だけの特別な気分になることができ、新しい1年を迎えるという気持ちで楽しんでいました。
1年に1度の香りの贅沢ですね。大学卒業後はどんな道に進んだのですか?
就職活動でフレグランス関係の会社も受けたんですがどこにも引っ掛からず。香料会社はしっかり理系やし、化粧品会社は化粧品がメインやから香水にしか興味のない僕には難しかったのかもしれません。結局色んな正社員やアルバイト、派遣を計50社ほどを渡り歩きながら、「Miya Shinma Paris」のオーナーであり調香師の新間美也氏が運営している『ATELIERS AROMES & PARFUMS PARIS』という通信制の香水スクールで香りの勉強をしました。スクールで学んだ後、本当に自分が行きたいと思えるお店を作りたいと考え、2、3年ほどの準備期間を経て29歳で『LE SILLAGE』をオープンしました。
香りの基礎知識は通信制のスクールで学ばれたんですね。
香料についてはもちろん、香水の歴史や名作のことなど、香りにまつわる基礎知識を身につけることができました。
そんな風に、僕は香料会社や化粧品会社で経験を積んできたようなきれいな経歴とは程遠いんです。香りの基礎知識はスクールで学ばせていただき、それ以外は自分で実際に購入して試したり、本を読んだりして独学でも学んできました。

米倉 新平
レアでニッチな香水を中⼼としたフレグランス専門店『LE SILLAGE FRAGRANCE SHOP KYOTO』のオーナー。⾼校時代に⺟親からもらった⾹⽔をきっかけに、⾹りの世界に⽬覚める。現在は、店頭に⽴ちながら輸入代理店業や店舗&空間の⾹りのディレクションも⼿がける。⾹りを軸にしたプロジェクト「混ぜるな危険」のメンバー。

LE SILLAGE FRAGRANCE SHOP KYOTO
住所: 京都府京都市下京区綾小路通高倉西入神明町233-2
営業時間: 11:00~20:00
休日: 不定休