かわいくて、懐かしくて、どこか切ない。竹内みかさんがメロディペットに見出したのは、儚き「無常観」。
阪神淡路大震災を経験して、目に見えるものはすべて、いつかはなくなってしまうんだなということを実感しました。

これまでいろいろなメロディペットに出会ってこられたと思いますが、印象に残っている子はいますか?
うーん…選べないですね。みんなそれぞれの味があってかわいいんです。ただ、レア度で言うと、鴨川シーワールドのイルカとオットセイですね。水族館に併設されている遊園地にはたまにいるんですけど、全然四つ足じゃない生き物をメロディペットにしようっていうのが、面白いですよね。
海タイプがいるとは知りませんでした。
あとは、遊園地のオリジナルマスコットをモチーフにしていたり。よみうりランドとか、手取フィッシュランドにいました。あと、今日のメロディペットも帽子をかぶってましたよね。もしかしたらあれは、生駒山上遊園地さんのオリジナルかもしれない。頭はけっこう剥げやすいんですよ、子供たちに撫でられたり鳥に突つかれたりして。そこを遊園地のスタッフさんが工夫して、布をかぶせたりリボンをつけたりされるんですけど、そういうのを見るとスタッフさんの愛を感じて、いいなって思いますね。

そんなオリジナルアレンジがあったとは。そもそも、メロディペットの顔ってそんなにじっくり見たことがないかもしれません。
乗り物なのでなかなか顔は見ないと思うんですけど、でもずっと向き合って顔を見てると、本当に生きているような気がしてくるんです。同じパンダでも表情が全然違う。
いろいろなメロディペットがいますが、出会ったメロディペットは一体残らず描くんですか?
すべてではないですね。描きたいなって、私の心が動いた子を描きます。たまに新品のメロディペットミニで、ツヤツヤのきれいな毛並みの子とかがいるんですけど、でもそれは描きたいとは思わないんです。それよりもっと、なんかこう頭が剥げてたりとか、色が褪せてたりとか、片目がとれてるとか、そういう子たちのほうが描きたいと思います。何かが刻まれているほうが。


そういえば、さっき見たパンダも鼻がちょっと破れてましたね。それだけ、いろんな物語や歴史を背負っていると。
ふたつとして同じ子はいないので、もう描いても描いても尽きないですね。
竹内さんがそれほどメロディペットに心惹かれたのは、何か子供の頃の思い出があったからですか?
それが、そんなにはっきり覚えてはいないんです。なんとなく、乗ったことあったな…ぐらいで。わりと記憶の隅のほうに追いやられてた存在。
特別な思い出があったわけではないんですね。安齋さんのアドバイスで自分だけのモチーフを探す中で、他に何か心惹かれたものはありましたか?
強いて言うなら、公園の遊具。動物の形をした遊具で、ちょっと欠けてたり寂びてたり、塗装が剥げたりみたいな。そういうものにちょっと惹かれました。
たしかに動物の遊具にもメロディペット同様に、ちょっと懐かしさだったり、郷愁を誘う感じがあります。
昔から古いものに惹かれるなっていうのはあって。60年代のカルチャーやファッションとかも大好きだったり、アンティークを集めたりするのが好きなんです。

古いものに心惹かれるんですね。
自分でもどうしてなのかなっていうのをずっと考えていたんですけど、多分、阪神淡路大震災の経験が根底にあるのかなと思って。神戸に住んでいて、かなり被害の大きいエリアだったんです。当時はまだ小学生でしたが、一夜にして、昨日まで見ていた風景がなくなったり、昨日会ってた人がいなくなったり、そういうことが本当に、現実に有り得るんだって。いまだにあの日のにおいとかヘリコプターが飛んでる音とか、昨日のことみたいに思い出せるんです。
小学生のときのその体験は、かなり強烈に残りそうです……。
そうですね、頭で理解するのではなく、経験として体に刻まれている感じです。目に見えるものはすべて、いつかはなくなってしまうんだなということを実感しました。仏教の「無常」という考え方は、形あるものはいつかなくなる、それを受け入れるというものですが、特に教わらなくても、日本の文化にはそういう意識が自然に根付いているように思います。桜も散りゆく姿のほうが美しいとか言いますよね。災害が多いっていうのもありますけど、私たちは体感として、それを知っているのかなっていう感じがします。

物事は永遠には続かないということ。
だから、作品にして残したいっていう気持ちがあるんだと思います。
それは、メロディペットに対しても?
最初に出会ったときに、なんとなくメロディペットだったら救えるような気がしたんです。その1年前くらいに東日本大震災があって、すごく沈んだ気持ちで過ごしていて。かといってボランティアにもいけない自分がいて、何もできないなって感じていたときに、メロディペットに出会ってるんです。
ご自身も震災の経験があったから、なおさらだったのかもしれないですね。
だから、出会うべくして出会ったのかもしれないと思います。

竹内 みか
神戸市出身、在住。大阪芸術大学短期大学部デザイン美術学科卒。広告代理店勤務のグラフィックデザイナーを経て、神戸元町にあるギャラリーVie主催の「絵話塾」で学ぶ。2010年から制作を始め、主にメロディペットと呼ばれる動物型遊具をモチーフに作品を発表。これまで国内外約80カ所の遊園地でフィールドワークを行なう。「六甲ミーツ・アート芸術散歩2020」オーディエンス大賞グランプリ、「Independent Tokyo 2024」準グランプリなどを受賞。