日本舞踊家とファッションブランド<Jungle & son’s>のディレクター。二役をこなす重岡大智さんが発信する、新しいカルチャーのかたち。
舞台で踊り終わった後の高揚感とか、あの独特の気持ち良さがようやく実感できるようになった。あのピリピリした緊張感とか、数百人の前で踊るという非日常が。
確かに(笑)。日本舞踊というルーツを守る古典芸能と、どんどん新しいもの…同時代性を求められるファッション・カルチャーは一見相反するものだと思うんですが、これを同時進行でやっていくうえで感じることや大切にしてい ることはありますか?
オリジナルプロダクトやバイクは僕が個人的にシンプルに好きなことで、日本舞踊は僕の個人的な“好き/嫌い”の範疇にはないもの…何というか、自分が生まれた時から染み付いているルーツであり、背負っているものというか。
なるほど。お父様ともお話をしましたけど、その時に「必ずしも後を継ぐことはない」と仰ってらしたけど。
小さい頃から稽古はつけられていましたけど、親父はずっと「継いでもいいし、継がなくてもいい」というスタンスでしたね。「嫌ならいつでも辞めればいい」という。もし「必ず後を継げ」と強制されていたら逃げたい気持ちになっていたかも知れないですが、「継がなくてもいい」という選択の自由を与えられてしまったことが、逆に「自分が後を継がなくては」という気持ちにさせてくれたのかも知れませんね(笑)
小さい頃からお稽古に入っていて、逃げたい時もありましたか?
小学校の時はめちゃくちゃ嫌でしたよ(笑)。友達がみんな遊んでる時間も自分は稽古だったし、その稽古自体も、その当時の年齢では何のためにやっているのかもわからなかったですし。ただの習い事みたいな感じで、親たちに無理矢理やらされているという気持ちがありましたね。ボッコボコに怒られて、いつも泣きながらの稽古でしたから「大人になったらすぐヤメたるからな!」って思っていました(笑)
でも、続けてきた。
中学時代の3年間は部活もあって日本舞踊の舞台からは離れていて、高校生からまた再開したんですが、その3年間で自分の考え方も変わったところがありましたし、まあ…ちょっと大人にもなったし(笑)。でも、その当時もまだ「自分がやりたくてやっている」という感覚にはなれていませんでした。今でこそ、これは自分で望んで選択した道だという自覚が持てていますけど、当時はまだどこか「求められて、仕方なくやらされている」という感覚が強かった気がします。
変わったのはどうして?
まず、親父が恐すぎたのが大きいですね(笑)。あとは「自分がこの世界から離れたら、祖母をはじめとする家族、お弟子さんたちみんなががっかりするだろうな…」という責任感も出てきたことと、舞台に立つことの面白さがようやく見えてきたんだと思います。
舞台が面白くなってきたきっかけがあったんですか?
きっかけと言うか、舞台で踊り終わった後の高揚感とか、あの独特の気持ち良さがようやく実感できるようになったと思います。舞台前のあのピリピリした緊張感とか、数百人の前で踊るというシチュエーション自体もそうですし、 そういうテンションを体験できる瞬間って普通の日常ではなかなかないじゃないですか。
確かに。そんな風に舞台上の演者が味わっているテンションを、それを観覧しているお客さんたちにも伝わってほしいですよね。演じるにしても見るにしても、この世界の面白さを同世代にも伝えるとしたら?
本当にそれがこれからの課題なんだと思います。自分の代で何ができるのか。 これは恐らくどの世界にも共通して言えることだと思うんですけど、深い部分に触れていくことが面白いじゃないですか。見えない細部の意図や意味を理解できてから、さらに面白くなっていく。日本舞踊で言うなら、例えば物語の背景やストーリーに隠されている意味とか、そういう知識を何か面白い方法で広めていけたらなと考えています。
お父様に「所作や動作一つで、言葉の代わりにその役柄の背景や存在感を伝える」というお話を伺いました。例えば、武士の役を演じる場合は「いつ対面の相手に斬り掛かられるかを警戒しているので、隙を見せるような深いお辞儀はしない」という説明を受けて「そうなんだ!」と。確かに、そういう背景や意図を知ってから見ると物語の世界にさらに入り込めるなって。
そうやって興味を持ってもらえたら嬉しいですね!“踊り”と解釈されがちですが、そんな風にちょっとした動作の中に、その役柄…人物の年齢や、どういうライフスタイルを送っているのなど、色んな情報が表現されているので。
わかりやすい台詞や言葉がないぶん、役者の技量が問われるんだな、ということもわかります。
これからの課題は、古典と言われている日本舞踊の世界の間口をどう広げていくかだと思っています。若い世代でも古典芸能に興味があったり学問として学ばれている人も多くいるという印象ですが、じゃあ一般的かと言われるとそこは違うじゃないですか。
それはそうですよね。でも<鵬扇流>の舞台は、他の日本舞踊の中でも恐らく日本で一番駐車場にイカついバイクが何台も止まってて、観客席にタトゥーまみれのバイカーたちが座っているっていう、ある意味“新時代”の空間を作られているような(笑)
すごいミクスチャーな感じの観客席になってますよ(笑)。古典の世界ってすごく閉鎖的な文化で、その理解も難解だと思われがちなんですけど、日本舞踊について特に予備知識もないバイカーたちが実際に舞台を見てくれて、感動を伝えてくれます。僕自身も、彼らに「知識のある・無しは関係ないんだな」ということを教えてもらったように思います。
本当に。それと同時に、イカついバイカーたちにも「見においで!」なスタンスの鵬扇流の許容にも感動しました(笑)。日常生活ではまったく知り合う機会のない面々が、その舞台の客席で偶然一つになっているのがシュールというか温かいというか(笑)。それって、Jungleさんの功績と言ってもいいのかも知れないですよ。
そう言ってもらえたらありがたいですけど(笑)。これからは僕と、同じく跡を継ごうとしてくれている妹がどんな面白い動きをしていけるのかが大きな課題ですね。
重岡大智 / 鵬扇小玄治
兵庫県加古川市出身。姫路を中心に活動する日本舞踊の家元<鵬扇流>の3代目であり、ファッションブランド<Jungle &son's>のディレクター。10代の頃に出会ったバイクをきっかけに、バイカーズカルチャーやファッションプロダクトで様々な発信を続けている。来年には、加古川でオリジナルアイテムを中心としたコミュニティショップがオープン予定。
鵬扇流
主に姫路、播州地方を拠点に活動する日本舞踊。古典舞踊の「日本舞踊鵬扇流」と新舞踊民舞踊の「鵬扇流 新舞踊 なないろの会」を主催し、毎年 4月には「鵬扇 流新舞踊 なないろの会」を開催。入場無料で、古典に親しみがある人も初心者にも楽しめる公演内容が魅力。