知れば知るほど、世界の見え方が変わる!怪談師ユニット『おばけ座』が誘う、“怖い”を超えた実話怪談の魅力。
ヤンキー怪談っていうのを集めてるんですけど、ヤンキーはすごい怪談をめっちゃ持ってるんです(ワダ)。彼らはなにかと言えば心霊スポットに行きますから(深津)。
怪談の奥深さにびっくりしているところなんですが、そもそも実話怪談というのは、そんなにたくさん集まるものでしょうか?
深津:私は勝手に、誰しもが持っているんじゃないかと思っていて。ないって言いながらも聞いていくうちに思い出す方もあるし、怪談じゃないと思っている話も聞いてみたらめっちゃ怪談っていうのもあって。
ワダ:そうそう、これは怪談じゃないと思うんですけど…っていう話が、すごい怪談やんっていうのがけっこうあります。
たしかに、怖い話はなくても、不思議な経験は誰にでもあるかもしれないですね。
深津:めちゃめちゃあると思います。ただ、人がこれは怪談だと認識するには、よくわからないことが起きたことを、なにか超常的なものの力だと結びつける想像力が必要なんですよ。体験者さんが、そういうものがこの世に一切存在しないと決めてしまっていたら、気のせいだってことでその話は終わってしまうんです。そこを、もしかしたら不思議なものの力が働いたのかもしれないって解釈すると、一気に怪談になりますね。
全否定タイプでなければ、なにがしかの怪談になり得る話はあると。
深津:でも、一概に全否定タイプの方に怪談話がないわけでもないんです。
ワダ:グループで取材すると、信じるタイプの方が話しているのを聞いて、「多分あれは絶対気のせいやと思うけど」っていう感じで全否定タイプの方が話してくれることがあるんです。本人はさんざん「気のせいやで」って言うんですけど、聞いていくと、それ本当に気のせいですか?みたいなのはよくありますね。
体験はしていても、捉え方によって怪談になるかならないかがあるんですね。取材はどんな方を対象にされるんですか?
深津:飲み屋さんとか美容室とかタクシーとか、どこでも聞きます、軽率に(笑)。この前デパートのコスメカウンターでタッチアップしてくれた美容部員さんにも聞きたかったんですけど、セールストークがすごすぎて聞けませんでした。
でも職業や年齢が違う人に聞くほうが、バリエーションが集まりそうですね。
深津:おっしゃるとおりで、環境や年代や送ってきた人生でバラバラの話が集まるので。
ワダ:怪談はいろいろな人たちとコミュニケーションをとるツールにもなっていて、知られざる生態が見えてきたりするんです。僕はヤンキー怪談っていうのを集めてるんですけど。
ヤンキー怪談!すごいパワーワードですね。
ワダ:普段はなかなかヤンキーと接点がないじゃないですか。でもヤンキーはすごい怪談をめっちゃ持ってるんです。
深津:彼らはなにかと言えば心霊スポットに行きますからね、度胸を試すから。
ワダ:そういう普段交流できない人とのコミュニケーションにもなるので、すごく面白いんです。
たしかに、怪談があれば、タイプの違う人とも会話ができそうな気がします。
ワダ:前にチビルくんが、マンション投資のセールスマンにつかまったときに、セールストークを聞くかわりに怪談取材をさせてくださいって、別日に2時間約束したらしいんですよ。そしたら、1時間45分怪談話で盛り上がって、残りの15分だけ投資の話して解散(笑)
深津:駅で名刺を渡されて、話を聞くから怪談くださいって(笑)。わりと取材に関しては、みんなリミッター外してやってますね。
そういわれると、ヤンキーも不動産関係のセールスマンも、意外な怪談話を持ってそうですね!
深津:そうなんですよ。怪談というツールがあれば、いろいろな人と喋れるなって思います。共通点がないな、遠いなっていう相手とも仲良くなれるんです。だから、いろいろな方におすすめしたくて。
集められた実話怪談をお話される際は、何かブラッシュアップされたり、工夫されたりする部分はあるんですか?
深津:ここは多分おばけ座メンバー全員に共通するところだと思うんですけど、とにかく、話を盛らない。聞いた話を聞いたまま、過不足なく話すというのは、こだわりとしてやってますね。
ワダ:強いて言うなら、聞きやすくするために時系列を整理するとかはありますけど。
物語自体は、体験者さんのお話そのままなんですね。
深津:だから、取材のときに深掘りすることを大切にしていて。このできごとについてどう感じたかとか、ディテールを細かく聞くようにしたりとか。
ワダ:実話怪談というのは、体験者がいないと起きないことなので。その体験者の気持ちとか温度感とかそういうリアリティを聞きこんで、ちゃんと伝わるように丁寧に取材しようというのはありますね。
物語自体は、体験者さんのお話そのままなんですね。話は盛らないと言いつつ、先日のイベントでもすごく怖い話をされていたので、あれを本当に体験した方がいると思うと、余計に怖いです…。
深津:怪談はエンタメではあるんですけど、話芸としてゾッとしてもらおうとか、起承転結をつけて上手にしゃべろうとかは、私たちはほぼ全くと言っていいほど、ないですね。
ワダ:そこを主軸には置いてないし、キャラクターもバラバラですよね。さくらさんはすごく完成されていて話芸としてもすごい。僕がいちばん話芸から遠くて、日常のノリで話すので、怖がらそうっていうより、これほんまの話やで!っていう感じ。
逆に、そこが怖かったです。日常の延長線上で話されるので、余計にリアリティが増すというか。話し方の練習などはされないんですか?
ワダ:僕は本当に苦手で、岸和田のイベントの時もそうだったんですけど、本番中に話を忘れてしまって(笑)。でも、日常会話の感じで怪談を気軽に楽しんでもらいたいので、それもアリというか。ハードルを上げずに、みんなが共有できるようにっていうのは心がけてます。
深津:私も全く同じで、怖くしようと思っちゃうと、語り手の「しゃべるぞ!」っていう力みが情報として伝わってしまって、話の邪魔になるんですね。「この人、怖がってほしいんだろうな」っていう感じになっちゃうので、私もぜんぜん何も練習しませんね。もともと怪談をやってなかった頃から、「こないだあったこと聞いて」って話しかけると、「え、なに怖い話!?」って言われるような話し方だったんですよ。だからその点では、ちょっと得してるかもしれないです。
皆さんそれぞれの得意なジャンルや独自のスタイルがあったりしますか?
深津:なんだろう、強いて言えば、ワダさんのヤンキー怪談かな。でも、集める場所性とかで自然にバラバラになりますね。メンバーの生活圏も東京、兵庫、京都、大分なので、土地によっても違ったりします。
ワダ:みんなキャラクターが違うし、取材の仕方も付き合う人も違うので。その中でも、「あ、この話めっちゃさくらさんぽい!」みたいなのがあるんですよ。さくらさんには、さくらさんぽい話が集まってきて、僕にはすごい変な話が集まってきやすいんですけど。
おばけ座
実話怪談を取材•蒐集し、語りや文章などで発表する怪談ユニット。相互に語りあうコミュニケーションを軸にしながら、「怪談=怖い話」という観念を超えた怪談の現在地を探求している。メンバーは怪談師の伊勢海若、チビル松村、深津さくら、ワダ。ディレクションはNZM110。
https://www.obakeza.com/
YouTube:@obakeza
深津さくら
兵庫県在住。2018年『OKOWA CHAMPIONSHIP』出場を機に活動を開始。実話怪談の蒐集、語り、執筆などを行う。単著として『怪談びたり』『怪談まみれ』。『BRUTUS』にて怪談の連載などを行う。
シマタニケイ