知れば知るほど、世界の見え方が変わる!怪談師ユニット『おばけ座』が誘う、“怖い”を超えた実話怪談の魅力。
わからないことを想像をふくらませて、理解するために導き出した物語が、怪談なんですよ(深津)
誰かが体験した怖い話を集める「実話怪談」というのは、怪談界隈では昔からあるジャンルなのですか?
ワダ:古くは江戸時代に、『耳袋』という本当にあった怖い話を集めた本みたいなものがあったみたいで。そこから始まって、ここ30年くらいで実話怪談とか怪談実話というのができあがって、狭いシーンですけど盛り上がってるっていう感じですね。
創作と実話の違いというか、実話怪談ならではの魅力というのは、どんなところですか?
ワダ:まず基本的に誰かの体験談なので、本当にそんなことがあるんだ!っていう驚きですね。それを蒐集するうちにパターンみたいなものが見えてくるんですけど、そこから逸脱するわけのわからないものが出てくることもあって、もう世界どうなってんの!?って(笑)。事例を集めれば集めるほど楽しくて、真相はわからないですけど、この事例と事例を合わせて考えると、こういう現象が起こってたんじゃないか?ってことを導き出せるんですね。例えば、沖縄と北海道の話がつながることもあったりして、好奇心を刺激される面白さがありますね。
深津:あと、怪談話ってわからないものについての話なんですよ。わからないことが起こって、それを理解しようとしたときに、そのできごとの周りで起きたこと、例えば最近おじいちゃんが亡くなったとか、そういう枝葉をつなぎ合わせた結果、生まれる物語なんです。わからないことを想像をふくらませて、理解するために導き出した物語が、怪談なんですよ。その心の作用みたいなものも面白くて、話を聞いているとその人のことをすごく知れるんですよね。
実際に起きたよくわからないことを解釈するための物語が、怪談なんですね。
ワダ:100人いれば100人とも解釈が違うし、こういうことかなって最後自分なりのゴールを設定できるというか、そういう余白がありますね。
深津:そこが実話怪談の魅力のひとつと言えるかもしれないですね。答えが用意されてないんです、起承転結じゃなくて、投げっぱなしみたいな話が多いので。想像の余地があって、聞く人に解釈がゆだねられるんですね。だから人によって、こうじゃないかっていう解釈が広がっていくので、そこの響き合いみたなところも面白い要素なのかなと思います。
ということは、その場にいる人によって解釈が変わったり広がったりするんですか?
深津:そうなんですよ。怪談イベントだと、1人がしゃべった怪談話を受けて、そういえばこんな話もあったなとか、あの話もつながるなとか、どんどん展開していくことがあって。それもすごくライブ感があって面白いんですよ。
先日のイベント「岸和田城がふるえる」でも感じたのですが、おばけ座さんの怪談は、おどろおどろしい怪談話というより、トークライブのような心地よさがありました。
ワダ:怪談=怖いものというイメージがありますが、実際取材してると、怖い話って実はそんなに多いわけじゃないんです。半分以上は、怖くない話。そうなると怪談とはなにかってことになるんですけど、僕たち4人に共通しているのは、超常現象やよくわからないことが起きたとき、それを怪異と呼んでいるんですけど、怪異がひとつあれば怪談としているんです。だから、UFOが出てきても怪談だし、目の前で500円玉が消えても怪談。必ずしも怖くなくていい、怖くなくても面白みのある話というか。怪談という狭いジャンルなんですけど、僕はその中にもオルタナティブがあると思っていて、それをおばけ座で出していってるのかなって最近思います。
深津:語り手の中にも、怖いものがいい人とか、話芸としてやりたい人とか、グラデーションがあるんですけど、おばけ座はわりと怪談を通じて楽しみたいっていう感じでやってます。
以前深津さんのインタビューで、怪談と絵画鑑賞が似ているというお話をされていたのですが、どういったところが似ているのでしょうか?
深津:美術館に行って絵を観るとき、タイトルや年代はキャプションで確認できますが、作品の意図が説明されているわけではないので、絵を観るだけではわからないことがたくさんあるんですね。絵を観ながら、なにが描かれているんだろう、どんな気持ちで描いたんだろう、なにを感じてほしいんだろうって想像を広げて絵の中の要素を拾って考えていく。これは、怪談のわからなさに対しても、同じことが言えるなと思ったんですね。怪奇現象がなぜ自分のところに起こったのか、現象自体が教えてくれることはないので、想像していくしかないので。それ自体が語らないものに対して、こちらから想像を広げていくという行為がすごく共通しているなって思いました。
なるほど!美大出身の深津さんならではのアプローチの仕方なのかなと思いました。
深津:そこも怪談の間口の広いところで、私は美大に通っていたので絵画鑑賞になぞらえましたけど、それぞれの仕事とか環境で培われた価値観のなかで怪談を見ると、それぞれまた違いがあると思うんですよね。
バックグラウンドによって感じ方も違うと。ワダさんは、建築と怪談に関わりについてはいかがですか?
ワダ:建築と怪談が近いなと思ったところがあったので、おばけ座のファンブックにも書いたんですけど。建築は、敷地に対してまだ見えないものを想像して設計しますよね。日当たりや風とおしなど、さまざまな条件の中でどういうものを作るかを考えます。怪談もちょっと似ていて、ひとつの物語の中に、例えば呪われたVHSとか土地に関するいわれとか、さまざまな情報がちりばめられているんですけど、その情報をリサーチしていくと話の解像度がどんどん上がって、最後に「じゃあこの井戸から出てきた女の人はなんだったのか」を、自分の中で組み立てることができます。見えないものを最後どう解釈するか、みたいなところがすごく似てるなと思って。
いろいろな条件や情報を処理して、建築になったり怪談になったりするんですね。
ワダ:建築家によってできあがるものが全く違うように、ひとつの怪談もさまざまな解釈によってゴールは違ってくると思うので。昔のホラー番組とかはわりとゴールが定められていて、「これはどこどこの地縛霊です」「わあ怖い!」みたいな。でもそうじゃなくて、わからないから自分たちで考えて解釈できるっていうのは、見えないものを楽しむ、見えないものをデザインするっていうところが共通してるのかなって感じます。
おばけ座
実話怪談を取材•蒐集し、語りや文章などで発表する怪談ユニット。相互に語りあうコミュニケーションを軸にしながら、「怪談=怖い話」という観念を超えた怪談の現在地を探求している。メンバーは怪談師の伊勢海若、チビル松村、深津さくら、ワダ。ディレクションはNZM110。
https://www.obakeza.com/
YouTube:@obakeza
深津さくら
兵庫県在住。2018年『OKOWA CHAMPIONSHIP』出場を機に活動を開始。実話怪談の蒐集、語り、執筆などを行う。単著として『怪談びたり』『怪談まみれ』。『BRUTUS』にて怪談の連載などを行う。
シマタニケイ