歌舞伎界のプリンスが、上方の愛すべきダメ男に挑戦!「三月花形歌舞伎」に出演する尾上右近さんに聞く、歌舞伎の魅力と味わい方。


カレーの仕事は、大好きなカレーを食べるだけですから。歌舞伎よりいいじゃん!って思うんですけど、でも歌舞伎に戻ってきたら、やっぱり歌舞伎って最高!!って思うんです(笑)

右近さんは歌舞伎の舞台では女方も立役もされますが、それぞれに向き合い方の違いはありますか?

どっちもやってるぞって思わないことですかね。立役もやる僕が今女方をやってますってことになると、それを見せてることになっちゃうから。女方立役ってことではなく、それぞれの役として捉えてますね。

女方は自分の日常では経験しない表現をするものなので、若いときは苦手意識があって。すごく嘆いた時期もありました、どう座っていいかわからない、どんな顔で喋っていいかもわからないって。10代半ばの頃なんて、正気ではいられないくらい緊張してましたね。でも徐々に慣れてきて、こういう表現なんだなっていうのを楽しめるようになると、逆に作り上げたものから入れるからあまり緊張しなくなりました。

右近さんにもそんな時代があったんですね!歌舞伎の方でもそうでない方でも、これから共演したい役者さんはおられますか?

色んな先輩や色んな俳優さんと共演させていただきたいですが、強いて言うならやっぱり、お互いの状況が重なっていて分かち合える部分が多い(尾上)松也さん。子供の頃からずっと仲良くさせてもらっていて、去年も共演させていただいたんですが、またご一緒したいなと思いますね。舞台の上で、あれほどバイブスを感じる、あれほど目に嘘がない歌舞伎俳優はいないと思います、僕が知る限り。松也さんは技術も魅力もあるけど、何よりすごく心でぶつかってきてくれる。お互いがそうやってぶつかり合えるっていうのは、嬉しいですね。

「歌舞伎は役者を観るもの」とお話されていましたが、そういう人間らしさだったりも、歌舞伎の魅力なんですね。

「芸は人なり」という言葉に尽きると思います。極端に言うと、真面目にコツコツやっていると、いつかは上手になります。でも上手いのは上手いで終わってしまうから、そこを突き詰めるのは危ない。歌舞伎には型があって、気持ちを表現するための型なんですけど、その順番が自分でもわからなくなることがあります。毎日コンディションも違いますから、型があるからやれている部分はあります。でもやっぱり本来は、毎回そこに気持ちを持っていかなきゃいけない。だから、型はあっても、心の部分が大きいと思いますね。

「三月花形歌舞伎」で共演されている壱太郎さん、隼人さんとはいかがですか?若手同士でいろいろ語らったりされますか?

これが、上の先輩たちからも仲良すぎっていわれるぐらい、仲が良いんですよ。お互いを尊重する関係性がうまく築けていると思います。

地方公演の際に、一緒に遊びに行ったりとかは?

もうちょっと若い頃、20代くらいはそういうこともありましたね。ワンピース歌舞伎の公演のときなんかは、みんなでUSJに行きましたよ。でも年を重ねてちょっと恥ずかしい感じになってきましたね(笑)。だから今は、休演日もお互い「ゆっくりね!」っていう感じで見送ります。でも普段から楽屋でも喋るし公演中も終わったあと一緒にごはん食べたりしますからね、休演日まで一緒にいたら距離感がおかしくなる(笑)

長い公演期間、ずっとべったりになってしまいますね。

でもすごく思うのが、『河庄』のように役者絵になっているような歴史のあるものを、今この時代に同年代の3人でやっていることには意味があると思うし、大切にしないといけないと感じます。
ただ、個の力をつけるためにはお互いを必要としすぎないことも大切だと思うし、力を合わせてやるけれども、それぞれが一人でも切り盛りできるぐらいのつもりじゃないといけないなと思います。みんなでひとつじゃなくて、掛け算を目指して。

歌舞伎以外の舞台や映画、バラエティーなどにも挑戦されていますが、歌舞伎以外の世界を経験したことで感じたもの、得たものはありますか?

歌舞伎を離れているときは、歌舞伎すごい好きだけど、歌舞伎くらい好きになれるものあるんだなって感じますね。

そんなに好きになるんですか!?

だって歌舞伎って重たい衣裳着てカツラかぶって白く塗って大きい声出して、大変じゃないですか(笑)。歌舞伎をやっているときはそれが最高に幸せなんですけど、離れてるときは「なんであんな大変なことやってるんだろう」って(笑)
歌舞伎は人を誘うのもわざわざ劇場に来てもらわないといけないけど、映像の仕事だったら家でも見てもらえるし、映画ならポップコーン食べながら観てもらえるし。カレーの仕事は、大好きなカレーを食べるだけですから。歌舞伎よりいいじゃん!って思うんですけど、でも歌舞伎に戻ってきたら、なんていい仕事!やっぱり歌舞伎って最高!!って思うんです(笑)

その振り幅がすごいです(笑)

その時に目の前にある仕事が、自分にとっていちばんいい仕事!と思える、都合のいいタイプだってことがよくわかりますよね。

でもやっぱり、歌舞伎に戻るんですね。

歌舞伎の楽屋に戻ってきて、鬢付け油を塗った瞬間に、「歌舞伎がほんと好きだ!」ってなるのが、ほかの仕事をして思うことです。歌舞伎以外の仕事をさせていただくことで、歌舞伎の良さに気付けるというのもありますが、でも呼んでいただけるのが嬉しいし、呼んでよかったと思ってもらえたときの幸せ感は大きいんですよ。これは本名で出ていた歌舞伎の子役時代があるから、どんな仕事も「呼んでいただいている」という感覚は今でも強いと思います。

先ほどカレーのお話が出ましたが、右近さんはカレーがすごくお好きで、松竹座公演の際は毎日インデアンカレーに行かれていたとか。今回の京都公演でもカレーを召し上がる予定はありますか?

もちろん。京都にもめぼしいカレー屋さんがあるんで。もう決めてます。決め打ちなんで。

新規開拓をされるご予定は?

タイミングが合えば行きたいですね。でも終演が18:30頃で、関西のカレー屋さんはけっこう早く閉まっちゃうので、その時間にあいているお店を知ることができれば行きたいなと思ってます。

では最後に、役者としてでも人としてでも構わないのですが、これからかなえたいこと挑戦したいことは?

やってみたいこと…。カレー好きというお話をしましたけど、タスクがたまってきてリフレッシュしたいなという気持ちがあるので、海外に行きたいですね。インドに行きたいです。

それはカレーがらみで?

やっぱりカレー好きと言いながらインドに行ったことないのは、恥ずかしい気持ちがあるので(笑)。だって例えば、歌舞伎好きと言っている方が、歌舞伎座に行ったことがないのと同じことですよ。だからやっぱりインドに行きたいですね、聖地には行かないと。


<尾上右近さんのお気に入りスポット>

大阪松竹座と南座の屋上
屋上に上がって、セリフをぶつぶつおさらいするのが好きです。松竹座はあべのハルカスが遠くに見えて、南座は四条大橋を渡る人がばっちり見えます。僕だけじゃなくて、一年目の「三月花形歌舞伎」の時は、みんな屋上に来てましたね。学生か!?ってぐらい(笑)。今回の公演でもかなりの割合でいると思うので、ぜひ四条大橋の上から南座の屋上を見てみてください(笑)


三月花形歌舞伎

日時: 3月2日(土)~24日(日) 午前の部 11:00~ / 午後の部 15:30~ ※休演 7日(木)、14日(木)
会場: 京都南座(東山区四条大橋東詰中之町198)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/854

チケット
一等席: 12,000円
二等席: 7,000円
三等席: 4,000円
特別席: 13,000円

演目と配役

松プログラム
<乍憚手引き口上(はばかりながらてびきこうじょう)>

一、心中天網島 玩辞楼十二曲の内 『河庄(かわしょう)』
紙屋治兵衛 尾上右近
粉屋孫右衛門 中村隼人
紀の国屋小春 中村壱太郎

二、『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』 将門
傾城如月実は滝夜叉姫 中村壱太郎
大宅太郎光圀 中村隼人

桜プログラム
<乍憚手引き口上(はばかりながらてびきこうじょう)>

一、『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』
河内屋与兵衛 中村隼人
豊嶋屋七左衛門 尾上右近
お吉 中村壱太郎

二、『忍夜恋曲者(しのびよるこいはくせもの)』 将門
傾城如月実は滝夜叉姫 中村壱太郎
大宅太郎光圀 尾上右近

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Profile

二代目 尾上 右近(おのえ うこん)

1992年5月28日生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。曾祖父は六世尾上菊五郎、母方の祖父には俳優 鶴田浩二。7歳で歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で本名の岡村研佑で初舞台。12歳で新橋演舞場『人情噺文七元結』の長兵衛娘お久役ほかで、二代目尾上右近を襲名。2018年1月七代目清元栄寿太夫を襲名。

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