何もない人間でも、ガマンして努力してがんばれば、舞台に立てる。会社員から喜劇役者になった曽我廼家桃太郎さんが描く、松竹新喜劇の未来。


僕はちゃんとここに、曽我廼家桃太郎として居ていいんやなっていう気付きを天外さんがくれたのは、すごくよく覚えてますね。

桃太郎さんご自身が思う松竹新喜劇の魅力というのは、どういうところですか?

全員がセリフひとつひとつに、すごくしっかり気持ちを込めるんです。そしたら、不思議なんですけど、深い笑いが生まれるんですよね。そこが、僕は松竹新喜劇のすごいところやな、すごいお芝居やなって思ってます。すごく難しいんですけどね、台本にギャグがあったりするわけではないので。台本だけ見たら普通のストーリーなんですけど、前振りがあって、ここでうわっと盛り上げてってやってると、大きい波の笑いみたいなのを感じるんです。

大きい波の笑い。ひとつのギャグではなく、物語全体で笑わせるみたいな?

趣がある笑いやなって思いますね。めちゃくちゃおしゃれですよね。髭の生えたダンディーな人が、ジャズの流れるお店でコーヒーを淹れるような、盆栽を育てるような。何かこう深みがあって、しゃれた笑いって感じです。

そんな松竹新喜劇の舞台に立つ上で、桃太郎さんが大事にされていることはなんですか?

明るさ、ですかね。何かしら舞台上で喋ってるだけで、フッと明るくなるような感じ。僕わりと声が高めなんですけど、付き人時代に天外さんがよく「喜劇声やね」って言ってくださったんです。喜劇には「一声、二顔、三芝居」という言葉があるらしくて、声でやっぱり楽しさとか面白さっていうのが伝わるんですって。だから、そこは意識してやってます。

天外さんも認めてくださった「喜劇声」なんですね。若手5人の新体制になるにあたって、天外さんからなにかアドバイスはありましたか?

アドバイスというか、最初は僕すごい不安やったんですよ。他の4人は武器があるけど僕には何もないし、大阪出身でもないから昔から応援してくれる知り合いとかもいないし。ほんまにお客さんは僕のこと応援してくれるんかなって。なんか、会社の勢いに乗り切れてない自分がいたんです。
それで、天外さんに「僕めっちゃ不安ですわ、何か勝手に曽我廼家桃太郎っていう人間だけが走って行ってるみたいです」って言うたんです。そしたら天外さんが「いや、お前はもうすごい奴やで。俺のもとで修業して、それで今そうなってるんやから」って。その時に、そうか、渋谷で修業して曽我廼家になった人間は、僕だけなんやなと気が付いたんです。たぶん天外さんは軽い一言やったと思うんですけど、ホッとしたというか。僕はちゃんとここに、桃太郎として居ていいんやなっていう気付きをもらったのは、すごくよく覚えてますね。

めちゃくちゃ心強いメッセージですね!

そうですね、ちゃんと自信を持って面白いことをしよう、お芝居しようって思えましたね。

新春公演に向けた会見では若い人にも観てほしいとお話されてましたが、若い人に楽しんでもらえるポイントはどんなところでしょうか?

今はYouTubeとかTikTokとかで短い動画をサクッと見られますけど、お芝居は1時間半とかあったりするんです。サクッとは見られないですけど、人間が生きていくうえですごく大事なものをやらせてもらってますんで、そういうのを感じてほしい、気付いてほしいっていうのはありますね。こういう趣のあるものを、人生の色に付け加えてほしいなと思いますね。

会見の衣裳は先輩方から受け継いだもの。「想いもしっかり継承してます」

桃太郎さんと同じ30代の方はどんな感じですか?お友達とかご覧になってくださったりします?

昔バイトで一緒やった友達が、梅田サイファーのメンバーのKZなんですよ。見に来てくれて、「お風呂に入ってるみたいな感じやね」って、大阪のほっこりした感じがあるっていう感想をもらいました。ああ、ヒップホップやってる人も、そういうふうに思ってくれるんやなって。

梅田サイファーはMARZELでも何度か取材させていただきました。何のアルバイトで一緒だったんですか?

コールセンターのバイトです。当時は2人ともロードバイクが趣味やったんで、何人かで淡路島とか琵琶湖を一周したりして、遊んでたんですよ。もう10年以上前ですけど。当時からずっとKZも音楽やってて、まさかあんなに売れるとは思ってなかったですけど、でもうれしいですよね。ミュージックビデオ出してくれって言ってるんですけど、全然出してくれへん。

出してくれないんですね(笑)。桃太郎さんは、これから挑戦されたいことはありますか?

昨年の夏、岡山出身の落語家 桂小鯛さんの落語会にゲストで呼んでもらって、初めて一人芝居をやらせてもらいまして。それを見た方が声を掛けてくださって、また3月に大阪でやらせてもらえることになったんです。前回は小鯛さんの新作落語を僕が芝居にするって感じやったんですけど、松竹新喜劇にはすごい台本がたくさんありますから、次はそれを落語風に書き直してみようかなと思ってます。2024年が曽我廼家喜劇が誕生して120年ですから、曽我廼家喜劇を一人で演じられたらなと。

松竹新喜劇の台本を、桃太郎さんの一人芝居で!それはすごく面白そうです。

それで全国営業とか行けたらおもろいじゃないですか。曽我廼家喜劇と松竹新喜劇も広まるし。お芝居って大勢で行ってセット作って大掛かりですけど、落語家さんってぱっと行ってぱっと帰れるじゃないですか。そんなふうに、松竹新喜劇が一人で動けたら、すごい面白いことになると思うんです。

それでいろいろな方に見ていただくことが、劇場に足を運んでもらうきっかけになるかもしれないですよね。

そうです。一人で喋ってこれだけおもろかったら、次は芝居で見てみたいなって思ってもらえたら最高ですよね。

では最後に、今度の公演にかける意気込みと見どころを、教えていただけたらと思います。

今回僕はメインの役どころではなく、ちょいちょい賑やかしで出てきますんで、いつもより弾けて遊びを多くして、自由にのびのびやらせてもらおうかなと思ってます。あと今回は演出が村角太洋さんとわかぎゑふさんなので、いつもの松竹新喜劇との違いも楽しんでもらえたらなと思います。


<曽我廼家桃太郎さんお気に入りの場所>

大国町(大阪市浪速区)
難波に近くて、電車も南海、堺筋、四ツ橋、御堂筋と走ってて、木津市場も温泉も何でもある。行きつけの店の料理も、市場が近いから新鮮なものが揃ってます。大国町が好きすぎて、前の家も今の家も大国町で、次も大国町内に引っ越す予定です。

京都・南座(京都市東山区四条)
南座は寒い季節に出ることが多くて、エレベーターが使えなかった付き人時代、外の階段を走り抜けるときに、横のおそば屋さん『松葉』のお出汁の湯気がフワ~って上がってくるんです。南座といえば、あのお出汁の香りの思い出ですね。


<INFORMATION>

初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演

日程: 2024年1月2日(火)~1月8日(月)
会場: 南座(京都市東山区四条 大橋東詰 中之町198)
料金: 一等席7,000円、二等席3,000円、三等席2,000円

出演:
藤山扇治郎 渋谷天笑 曽我廼家一蝶 曽我廼家いろは 曽我廼家桃太郎 / 久本雅美

演目:
【Aプロ】 『小判掘り出し譚』&新春ご挨拶
【Bプロ】 『蕾(つぼみ)』&新春ご挨拶

https://www.shochiku.co.jp/shinkigeki/koen/5369

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Profile

曽我廼家桃太郎(そがのや・ももたろう)

岡山県出身。松竹芸能養成所にて演劇を勉強したのち、劇団代表であった三代目渋谷天外の付き人となる。その後2017年に松竹新喜劇に入団。竹本真之として活動後、2021年大阪松竹座「松竹新喜劇 錦秋公演」にて曽我廼家桃太郎に改名。松竹新喜劇以外にも、2023年に南座をはじめ全国三都市で上演された舞台『歌うシャイロック』では歌やダンスにも挑戦し、芸の幅を広げている。

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