ヒロトとマーシーに導かれて、20歳で落語の道へ。レコードと古着を愛する桂九ノ一さんが夢中になる「古典落語」の魅力。
現在、上方落語界には約260人の噺家さんがいるそうです。その中でも若手の注目株といわれているのが、桂九ノ一(かつら くのいち)さん。入門8年目、ギャラの大半をレコード収集とヴィンテージ古着につぎ込む27歳です。天満天神繁昌亭などの寄席はもちろん、音楽フェス、立ち飲み屋など、「普通は落語せえへん」ところにも積極的に出演し、MARZEL2周年イベントでは、心斎橋PARCOの『TANK酒場』で『牛ほめ』を披露してくれました。今回は、落語をほぼ知らなかったのに20歳で桂九雀さんに弟子入りした理由、そこから古典落語に魅了された理由など、九ノ一さんがアルバイトをしていた『カンテグランテ中津店』にお邪魔して、たっぷりお話を伺ってきました!
僕、アフロヘアやったんです。それで師匠のとこに弟子入り志願に行ったら、「散髪したらええよ」って。
九ノ一さんを「上方落語若手噺家グランプリ」の予選会で拝見して、すごい渋いネタをやっておられたので、てっきりベテランさんかと思ってました。
『正月丁稚』いうネタでしたね。好きなネタなんですけど、あの日はあきませんでした、もっとポップなネタ持っていったらよかった(笑)。僕あの日の出演者のなかで、いちばんキャリアは下やったと思います。若くで入ったので、そういうことはよくあるんです。
2015年に入門されたんですね。高校を卒業された年ですか?
僕、高校卒業するのに4年かかったんですよ。4年かけて卒業して、それから吉本のNSCに入りました、漫才をやろうと思って。小さいころからお笑いオタクやったんです。でもいざ入ってみたら、人付き合いが苦手なことに気が付いて。2人で一緒にやるん無理やなと思ってやめたんです。
人付き合いが苦手で…?
バンドやってた時も、人と予定を合わせて練習するのとかが苦手で。ただの友達やったらええんですけど、運命共同体!みたいになるのがしんどいというか。それで、1人でやれることしようと思って、師匠のところに行って、弟子にしてくださいって志願しました。
落語はもともとお好きだったんですか?
それが、そうでもなくて。だいたい落語家になる人は小さい頃から落語好きやったり、落語研究会出身やったりする人が多いんですけど、僕はただもう、1人でできるっちゅうことだけを頼りに行って。
ピン芸人ではなく、落語家のほうにいったんですね。
もちろんピン芸人も考えたんですけど、自分にライティングの才能があるとは思えなかったんです。ネタを書くのは無理やなって。それやったら、教えてもらってやってみるのもええなと。あともうひとつ、落語家ってずっとできるんですよ、死ぬまで芸を。しかも、おじいちゃんになればなるほど偉そうにできて、若い人に「師匠!」って言ってもらえる(笑)。そらええな!って思ったのを覚えてます。
そんな理由で落語家に(笑)。どなたに弟子入りするかは、どうやって決めたんですか?
うちの師匠、桂九雀は、僕の高校の先輩やったんです。僕が在学中、高校の50周年記念式典で師匠が落語をされたんですけど、これがめっちゃウケてたんですよ。落語家になろうと思った時にふとそのことを思い出して、師匠の落語を見に行ったんです。その日の師匠の出番がトリで、16時半終演予定ぐらいやったんですけど、舞台に上がって「僕これから飲みに行くんやけど、店が17時からしか開いてない。ちょっと長めにやらせてもらってよろしいですか?」って言うんです。そしたら客席からぶわーって拍手が起こって。なんて素敵な感性やろうと思って、ええなあと思って、すごい印象に残ってます。
弟子入り志願に行った際、師匠はすんなり取ってくださったんですか?
うちの師匠ちょっと変わった人で、落語というものは何歳から始めても上手になる、でも落語家というけったいな生き物になるには若いうちから入ったほうがいいっていう考え方なんです。だから、20歳までしか入門を許しませんっていうルールがあって、今まで弟子入り志願に来た人も、20歳以上やったら断ってはったんですね。で、僕が頼みに行ったのが、19歳11か月。
ギリギリ!
そうなんです。履歴書を渡して、落語ぜんぜん知りませんけど弟子にしてください!って言うたら、大丈夫です、年齢が若いので私は断る理由はありませんとおっしゃったんです。僕そのころハードコアバンドやってたんで、髪型アフロやったんですけど、散髪してきたらいいよって。
アフロはダメなんですね(笑)。それで、入門を許してもらったと。
弟子にしてから、師匠は困ったと思いますけどね、行儀よく生きてこなかった人間なんで。それを、靴を揃えさせて正座させるところから教えてくれはって。師匠のところで人間にしていただいたと思います。
ちなみに、「九ノ一」の名前はどのタイミングで?
見習い弟子をしばらくしてから、あなたの名前はこれでいきますって師匠が色紙に書いてくれはったんです、桂九ノ一と。うちの師匠は前々から決めてたみたいです、一番弟子には、九雀の一番で九ノ一にしようと。
すごくいい名前だと思います。
名前って不思議なもんで、僕本名が前田 将輝(まえだ まさき)っていうんですけど、そっちのほうが慣れへんというか、九ノ一って呼ばれたほうがしっくりくる。それが、落語家という生き物になるってことなんでしょうけど。逆に病院とかで「前田さん」って呼ばれると、誰やってなりますね。
桂 九ノ一
1995年 11月7日生まれ。大阪府立箕面高校卒業後、2016年3月1日、桂九雀に入門。「上方落語若手噺家グランプリ」第6回・7回決勝進出。天満天神繁昌亭など寄席への出演のほか、自身のイベント「ラクゴ・ラモーン」を開催。