できるだけわかりづらい本を。京都の出版社『さりげなく』の代表を務める稲垣佳乃子さんのめくるめく思考、これまでのこと。


次に作りたいのは“ご自愛”をテーマにした本。自分をもっと大切にできたら、いろんなことに優しくなれるはず。

取材時、花辺内のカフェ『花辺喫茶部』では平田基さんの新刊の出版を記念した展示が行われていました。

ちなみに直近で興味を持っていることは?

今は仏教ですかね。世の中に気になることが多すぎて、石とか地層のこととかゴリラと人間の違いとか、言い始めるとキリがないですね。最近、会社の経営のことを考えてたらすごく不安になって、いろいろ考えているうちに、不安って一体何の感情なんだろうとふと思ったんです。だって、喜怒哀楽の中に不安っていう言葉がないんですよ。だけど実際、不安という感情が経済のほとんどを回しているのでは?とか気になって。それなら一体どこから不安が生まれたんだと考えて。例えば、戦国時代や江戸よりもっと前に遡ると、人間は不安を感じるより先に死が身近だったんじゃないのかと思うんです。だから死後の世界まで想像が膨らんで、宗教が広まったんじゃないのかなと。今は医療が発達してそこまで死が身近なものじゃなくなったから、怖さや恐れがより日常に根ざしたものになったと考えると……。なんだかすごくおもしろくなってきちゃって。そこから仏教にも興味が湧きました。

人間にも感情の進化があるんですかね。死とはまた違う、底知れない不安が大きくなっているのかもしれません。

自分を見つめる手段として瞑想があったり、アプリや書籍がたくさん出ていたりするけど、それは解決策の一つとしてあるだけで、不安がなぜ醸成されているのかという根本的なところは疑問のままなのかも。そんな風に考えていると、次の本のテーマになったりするんですよね。答えのないことをずっと考えてしまうんです。考えすぎて煮詰まって、夢なのか考えているのかわかんなくなったりして。

これから作ってみたい本はありますか?

えー、ありすぎてわかんないなぁ。だけど今一番作ろうと思っているのは、ご自愛をテーマにした本です。字の如く自分を大事にする。自分を大事にしたら、自分にも、見えない人にも優しくできるんじゃないかなと。この世の中、自分に鞭を打って我慢をしている人が多すぎるんじゃないかと思うんです。それがダメっていうわけじゃなく、そういう時期だからしんどい思いをしているのかもしれないけど、できれば心地いい状態で生きていた方がいい。まだ漠然としていますが、それを本にできればなぁって。最近そういう本も多いけど、それを静かに伝える本を作りたいと思っています。あの星野源さんも、嫌なことからはすぐ逃げていいんだよ!って言っていますし。星野源さんが言うなら間違いないですよね(笑)

ご自愛の本、すごくいいですね。私も最近、心地いい生き方について考えることが多いです。

スピリチュアル的なことではないですが、例えば寝る時って布団や枕が自分を守ってくれているなと思ったら、安心して眠れますよね。自分はいろんなものに守られていると気付くことができれば、きっとご自愛しやすくなると思うんです。私は21年の11月から花辺に事務所を構えて、その気持ちが一層強くなりました。自分に優しくしてないと、作家さんと本なんか作れないというか。作家さんを煽り立てたり言葉もキツくなったりするのかなって。それまでは自宅で作業をしていて、もっともっとやらなきゃと日々自分を追い込んでしまうことが多かったんです。だけどここに来てから、その焦る気持ちも不思議となくなりました。きっと安心感に包まれた温かい場所だから、安心して本が作れるんだろうな。場所や人、空間に、それを教えてもらった気がします。ここを見つけられて本当に良かった。

自分に優しくすることって大切なんですね。私もご自愛の本、楽しみにしています。ありがとうございました!

花辺で過ごす日常のヒトコマ。ここにはゆったりとした温かい時間が流れています。
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Profile

稲垣 佳乃子

1993年生まれ。双子座。大学時代にフリーペーパーを制作したことをきっかけに企画・編集のおもしろさに魅了され、以来媒体を問わず常に何かを生み出し続ける。2019年に出版社「さりげなく」を創業し、2021年に株式会社化。今年10月に発売されたばかりの平田基による漫画本『雲煙模糊漫画集 居心地のわるい泡』も好評。

出版社 さりげなく WEBサイト / オンラインショップ

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