広く、浅くのお付き合い。日替わり店主のカフェバー『週間マガリ』の小西亮さんは、どのクラスタにも属せない<はざまの人>。
陽キャにも陰キャにもなれず、かと言ってぼっちにもなりきれない、そんな次元のはざまみたいな人間なんですよ。
ちなみに小西さんご自身は、どこの属性に近い感じですか?
僕は、どのクラスタにも入れてもらえなかった人ですね。ヒエラルキー上位の人たちの「俺ら最高!」みたいな仲間意識も苦手ですし、オタクはオタクで結束が強くて陰キャに誇りを持ってる感じもちょっと嫌で。結局僕は陽キャにも陰キャにもなれず、かと言ってぼっちにもなりきれない、そんな次元のはざまみたいな人間なんです。
どこの属性の人でもないから、ちょっと引いた感じで見られるのかもしれないですね。それって、昔からですか?
中学生までは中途半端な立ち位置ゆえに、肩身が狭かったんです。オタクともつるめないし、もちろんヤンキーにもスポーツマンにもなれない。でも高校生になったときに、なんかチャレンジしてみようと思って、同級生全員と喋るっていう企画を勝手にやったんです。学年全部で300人ぐらいいたんですけど、ポケモン図鑑みたいな感じで、ヤンキーから誰から全員と喋ろうと思ってやってみたら、意外といけたんですよ。それで、こういうの向いてるなと思って。
適度な距離感でいろいろな人と話すのは大丈夫だと。
そうですね、分散を覚えました。それまで我慢して媚びてどこかのグループに属そうとしてたんですけど、もう属すのをやめました。大学のサークルも一か所になじめないので掛け持ちして、全部で50個ぐらい所属しました。そのどこにも居場所はなかったんですけど、居場所のない人同士で仲良くなったりして。あと、大学生になってもまだ学年全員と喋ろうとしてましたね、名簿見て、「あ、●●くんだね!」みたいな。完全にこじらせてますね。
いろいろなお客さんを相手にされていて、すごくコミュニケーション能力の高い印象だったんですが、むしろ真逆だったんですね。
ぜんぜんコミュ力は高くないです。上辺の小賢しいコミュニケーションに長けているだけで。2人でお茶とかぜったい無理です。親友とかもいないですし。
じっくり付き合って仲を深めるのではなくて、点だけをつないでいくみたいな。
日替わり店長の店なんて、まさにそうですよね。一期一会がずっと続いているようなものなので。多分まともな人はできないと思うんです、普通は仲良くなりたいし、コミュニティ化したくなると思う。でも僕は、アバンチュールしかしないです(笑)
誰かと深く仲良くなりたいという願望はないですか?
ないですね。でも、人との距離感がわかってる人は居心地いいから好きです。楽しく喋って場を盛り上げてくれるけど、ふとした瞬間の顔が悲しいみたいな人(笑)。そういう人は常連ぶらないし、まわりの人と上手くやってくれるから店でも人気者になるんです。人気者ゆえに店外デートに誘われるんですけど、でもその人たちは絶対に行かない。そこも僕と気質が似てるなって。僕もお客さんとは外で絶対に飲まないので。
誰かと付き合うにしても、適度な距離感が大事なんですね。
そうですね。店外デートしたがる人とは仲良くなれないです。常連風を吹かせて店外デートをしたがる人から、出禁になっていきます。
出禁にするんですね!それはお客さんに直接言うんですか?
自動的にそうなっていく場合が多いですけど、言うこともありますね。自分だけの居場所と違うからって。
みんながほどよい距離感で過ごすための交通整理もされるんですね。でもそれって、メンタルが強くないとできなくないですか?
いや、僕メンタル豆腐ですよ。たまに、「客は神」みたいなことを言ってくる人がいるんですけど、僕はこの場を提供しているから、お客さんともお互い対等だと思ってるんです。だから、高圧的な態度で言ってくる人には言い返してしまいますね。本当だったら上手にあしらわないとだめなんでしょうけど、煽り耐性ゼロなので。だからGoogleレビューに悪口書かれるんです。
『マガリ』は仕事、事業というより、ライフワークみたいな感じだと思います。晩ごはん食べるのと同じような。
『週間マガリ』は今年で丸9年とのことですが、日替わり店長の店は大阪にもいくつかある中で、これだけ長く続いているのはすごいと思います。
この前専門学校生の女の子に、「小学生の頃、前を通るたびに何の店か気になってたんです」って言われてびっくりしました。9年って、子供が大人になる年月ですよね。この辺はけっこう店の入れ替わりが激しくて、この店をオープンしたときに「あんな店絶対続かんやろ」とかすごいバカにされたんですけど、でも当時まわりにあった店はほぼなくなりましたね。
もはや天神橋筋1丁目の古参ですね。小西さんはこの9年を振り返って、なぜこれだけ続いてきたと思われますか?
あんまり仕事的な感じでやってないからですかね。営業前にシャワー浴びるんですけど、風呂上りの晩酌ぐらいの感覚というか。仕事、事業というより、ライフワークみたいな感じだと思います。晩ごはん食べるのと同じような。
仕事というより生活の一部みたいな。
だから事業展開もしないし、従業員も雇わない。うちは日替わり店長の店ですけど、店長をする人と雇用契約を結ぶわけでもないし、一緒に事業をやるわけでもない。ちょっとややこしい人だったらそっとフェードアウトしますし。僕のワンオペの店なので、それで続いてるだけだと思いますね。
以前「ゆとり起業家」としてインタビューを受けておられるのも拝見しましたが、例えば多店舗展開とかを考えたりは?
ゆとり起業家、そんなことを言っていた時期もありましたね。20代は事業展開とか考えましたし、本屋を始めようと思って物件を借りて3日で手放したりしましたけど。でも、もういいかなって思います。
コロナ前に主催された「恋人イナイイナイバーEXPO」というイベントでは、通算の来場者が2000人とかなり盛り上がりましたよね。
あの時はちょっと意識高かったんでしょうね、インフルエンサーになりたいみたいな。ちょうと同じ頃、編集者の箕輪厚介さんの対談相手に指名されたんですよ。
あの、箕輪さんですよね。
そうですそうです。イベントの主催の人に声を掛けてもらって、箕輪さんのような意識高い系の代表がサブカルの殿堂みたいな味園ユニバースでイベントをやったら、異なる人たちが交じり合えるんじゃないかっていうコンセプトが面白かったので引き受けたんですけど、まあ死ぬほどすべりまして。
東の天才・箕輪さんに対して、「西の天才・小西亮」って紹介されているのをネットで見つけました。
あれはもう黒歴史ですね。デジタルタトゥーです(笑)
メディアではわりと「場づくりの人」みたいな感じで取り上げられていますが、そのあたりはいかがですか?
この前も久しぶりに新聞社さんが取材に来られて、記者の方がすごくいろいろ聞いてくださったんですけど、掲載された見出しには「人と人がつながる場」って書かれてました(笑)。上の人からのお達しだったみたいです。人と人をつないでコミュニティの場をつくるサードプレイスみたいな紹介をされてて、そうか……ってなりました。ありがたいんですけどね、そこの人たちにも来てもらいたいから。
小西さん的には、コミュニティスペースではないんですよね。
そうなんですよね。この店の業態が何に近いか考えたら、「相席屋」かもしれないですね。相席屋は面白くない男の人だと喋ってもらえないしおごらされて終わりですけど、うちは女性のお客さんが優しいから、話しかけられても無視しないしおごらせるとかもないんですよ。コンカフェみたいにプロの人じゃなくて、一般の女性が笑顔で喋ってくれるって、夢のようじゃないですか。だから、居場所を求めている人たちが来ちゃうんですよね。でも、そういう出会い厨みたいな人は出禁ですけど。
まさか、相席屋が出てくるとは思わなかったです(笑)。カウンターで夜ごと、いろんなドラマが繰り広げられてるんですね。
「あのお客さんに言い寄られてるねん」って女性のお客さんからラインのスクショ見せてもらうときが、いちばん店をやってておもしろい瞬間かもしれないですね(笑)
小西 亮
『週間マガリ』オーナー兼アルバイト。大阪府豊中市出身。甲南大学卒業。ゆらゆら帝国が大好きな文系サブカル男子でありながら、中高時代は水泳部に所属。2013年に24歳で、一日店長が日ごとに店を「間借り」するカフェバー『週間マガリ』を開業。
週間マガリ
「ヘンな出会いがきっとある」がコンセプト。1000職種の日替わりマスターが様々なテーマを持ち寄り、バーやカフェやイベントを開催。テーマに関係なく、通常の喫茶バーとしても楽しめる。
大阪市北区天神橋1丁目11−13 2階
水~金 19:00~24:00/土・日 17:00~24:00(月・火 定休)
入館料チャージ ¥500(茶菓子付き・本も読み放題)+別途ドリンク代
※フードのご用意はありません。