新しいカルチャーを確立したい。「泊まれる演劇」の発起人・花岡直弥さんに聞く、その魅力と楽しみ方、これからのこと。
文化史に刻まれるようなカルチャーを形成するのが夢。新しいエンタメの1つとして、「泊まれる演劇」を広めていきたい。
花岡さんが考える、「泊まれる演劇」のおすすめの楽しみ方を教えてください。
やっぱり演劇が好きで観に来ているお客さまが大半なので、しっかりキャストを追いかけてくださる方が多いんですが、僕は訪れたらまずお酒を飲んでほしくて。ラウンジは入場時も公演中もずっとお酒が飲めるんです。苦手な方はもちろん無理しなくて大丈夫ですが、ほろ酔い気分で何かを観るってすごく楽しいじゃないですか。もちろん泥酔されてしまうのはもったいないけど、お酒を飲んでふわふわした状態で館内を歩いてもらうと、本当に夢の中にいるみたいな気分になれると思うんです。照明も幻想的ですし、演劇の内容もすごくドラマチックで、その状態でお酒が入っているとかなりヤバい体験になると思うんです。演劇に集中して、謎を解き明かしてほしいという気持ちもありますが、それより感覚的に楽しんでほしい。お酒を飲んで少しハイになった状態で館内を回っていただけると、よりおもしろさが増すのかなと思います。
気持ちも大きくなって、キャストの方とも話しやすいかもしれないですね。
ラウンジで注文できるドリンクやフード、販売しているオリジナルグッズなど、泊まれる演劇のサービスには、すべて物語の世界観を投影しています。物語の世界に存在しているものとして提供しているので、カクテルを飲んだりホットドッグを食べたりすることも、物語を体験することに繋がるんです。注文するとキャラクターが近づいてきて、「おいしそうなの飲んでるじゃない、私にも奢ってよ」と言われることもあって、奢ってあげるお客さんもいるんですよ。そんな演劇ないだろ!って感じですけど、僕も実際そういう場面を何度か目撃していて(笑)。ただ観るだけじゃなく、そういうところも楽しんでもらえると嬉しいですね。予想外のことがたくさん起こり得るので、ぜひお酒を飲みながら楽しんでほしいです。
オリジナルグッズも可愛いですね。
どうせなら体験した物語が手元に残るようにしたくて、ルームキーを模したキーホルダーや架空のモーテルのアメニティ、ドアプレートなどを用意しました。お客さんがグッズをふと手に取った時に、「泊まれる演劇」の体験が思い起こされたらいいなと。キャストが映ったポスターやプロマイドなど“人”にフォーカスするのではなく、世界観が思い起こさせるようなグッズ作りを心がけています。
お客さまも同じ立ち位置や目線で物語に没入できるのが「泊まれる演劇」の魅力なんだなと感じました。
物語のキャラクターに「奢ってほしい」って言われるなんて、友達かよ!って感じですよね。「推しにホットドッグを奢ったことが一番の思い出」と言ってくださるお客さまもいて。お客さまも嬉しいし、キャストも嬉しいし、僕らも嬉しい(笑)。みんながハッピーになれる楽しみ方です。
今後、「泊まれる演劇」をどのように成長させたいと考えていますか?
ちょっとカッコいい話になっちゃうんですけど、「泊まれる演劇」っていうのは、まだ日本にも、世界にも定着していない新しいエンターテインメントの形なのかなと思っていて。歌舞伎やミュージカルは、2.5次元のカルチャーとして成立していますが、それと同じような文化として確立させたいという思いがあります。「HOTEL SHE,」のプロジェクトという枠に留まらず、1つのカルチャー、エンタメのジャンルとして確立させたいです。
今は1ヶ月のみの公演ですが、もっと長い期間続けることで、よりたくさんのお客さんに届けたいです。直近だと来年は数ヶ月ぶっ通しで公演するつもりですし、もっと先でいくと常設のホテルを建てようと考えています。今は「HOTEL SHE,」京都や大阪を期間限定で「泊まれる演劇」仕様にしているのですが、ずっと「泊まれる演劇」を上演しているホテルがあってもいいと思うんです。今は客室も一つひとつ同じ形ですし、エレベーターも至って普通ですが、もし演劇に使用するホテルという大前提があったとするなら、隠し扉とか地下室とか、実現できる演出がかなり増えるのかなと。長いスパンで考えると、きちんとした空間を作ってやりたいです。それが大阪なのか東京なのか、地方になるのかもわかりませんが、いずれは海外などにも広げていければ、カルチャーとして確立できる日もそう遠くはないんじゃないのかな。そんな風に、より多くの人に「泊まれる演劇」を届けていきたいです。
いつも新しいことに挑戦されている「HOTEL SHE,」さんなら実現できそうです。
この環境には本当に感謝しています。「泊まれる演劇」のために丸々一棟貸し切らせてくれるようなホテルは、きっと世界中探してもないと思うので。本当にありがたく思っています。
花岡さん自身の興味があることや目標は?
最近はあんまり仕事以外に興味がなくて。以前はほとんど観る機会のなかった舞台を観にいくようになりましたし、Netflixやドラマを観ていても、自分の次やる作品のコンセプトやストーリーラインにハマるかどうかという視点で観てしまったりとか。本を読む時やご飯を食べに行く時も、そのラインで考えてしまいます。自分の中心に「泊まれる演劇」があって、そこから興味が広がっている気がします。来年やる作品のテーマが花や植物なので、今は家が観葉植物だらけで(笑)。だけど観葉植物にハマっているのかと言われると、そういうわけではないんです。
常に「泊まれる演劇」のことを考えて生活されてるんですね。
やっぱり大好きで、夢中だから。
次回の公演のテーマやストーリーはもう決まっているんですか?
ざっくりとしたコンセプトは、4年くらい先まで決まっています。細かいストーリーや設定ははまだですが、タイトルや世界観はもう決めています。
大前提として、「HOTEL SHE, KYOTO」と「HOTEL SHE, OSAKA」の2つのホテルで上演するというのがあって。やっぱり自社のホテルがある強みというか、「『泊まれる演劇』がしたいから1年間貸してください」なんて、普通はありえないと思うんです。なので、それぞれの建物の空間の魅力、特徴を最大限に生かした演出ができるよう心がけています。あとは、初めてのお客さまにも楽しんでほしいので、続編などではなく毎回新作をやり続けていますね。公演ごとに場所や設定、登場人物、世界線もガラッと変わります。
花岡さん自身の夢はありますか?
僕自身の夢と言われると難しいですが、文化史に残るようなものを作りたいと思っています。そう考えると、「泊まれる演劇」はそれが実現できるかもしれないコンテンツなのかなと。「泊まれる演劇」を作る時、自分の好きな音楽やアートから一つひとつヒントをもらって、作品を形にしていったんです。その経験によって、文化ってすごく連続的なものなのかなと思うようになりました。「泊まれる演劇」も同様に観た人自身が「やりたい!」と思ってくれて、さらに新しいものが生まれていくかもしれないと考えると、すごく素敵な仕事ですよね。そういう仕事をしたいと日頃から思っていて、今は「泊まれる演劇」が一番それに近いところにある気はしています。
こんなカッコいいことを言ってしまって、なんだか恥ずかしいですね(笑)。クリエイティブな仕事をしている人って仕事に対する熱量って、すごく高いと思うんです。自分が心からおもしろいとかカッコいいって思えるものを生み出したいと思うし、それが自分がいなくなった後も残り続けるものを作りたいって、もの作りをしていると結構そう考える方は多いんじゃないのかなと。「泊まれる演劇」が長く愛される文化として根付いていけば、僕の人生はより価値のあるものになるんじゃないかなと思います。
「泊まれる演劇」が文化の1つに。私もお話を聞いて、無限の可能性を感じました。ちなみに、次回の公演はいつでしょうか?
ざっくりですが、来年2月頃を予定しています。場所は「HOTEL SHE, OSAKA」で、ホラーではないんですが、ダークファンタジーというか少し影のある作品です。ミステリー、ファンタジー、ホラー……、ジャンルを問わずいろいろ挑戦していきたいですね。
<花岡さんがお気に入りのお店>
東華菜館(京都市下京区四条)
ノスタルジックなムードが漂う、四条大橋近くの北京料理店。なんと日本最古のエレベーターがあり、実際に乗ることもできます。おいしいごはんと空間、どちらも楽しめるのが嬉しいですね。
ビストロ ベルヴィル/トルビアック(京都市中京区常盤木町)
同じビル内の201号室と202号室で、フランス料理とタイ料理が味わえるレストラン。料理はコースのみ、1日1組限定。ごはんもおいしいしお酒の種類も豊富で、朝から夜までやっています。洗練された空間と一緒に楽しんでほしいです。
へんこつ(京都市下京区木津屋橋通)
京都駅から歩いてすぐ、ドープ過ぎる牛すじ専門店。昼間から飲んでるおっちゃんたちがたくさんいて、よーく煮込んだ牛すじやおでんなど、提供しているメニューはすべて茶色。とってもおいしくて、ビールがすごく進みます。
花岡 直弥
1993年生まれ、奈良県出身。大学進学を機に上京し、学生時代はテーマパークのアルバイトや学園祭の実行委員に打ち込む。卒業後は広告関係の会社に勤め、2019年6月に「SUISEI,inc」に入社。現在は「泊まれる演劇」のクリエイティブディレクター、プランナーを務める。