『MASH』のフドウミチコさん&『NOON』のYoheyさんのカルチャーな夫婦に聞く、好きなものへの愛と2人で深め続ける素敵な関係について。
関西にもさまざまなカルチャーシーンがあるけれど、1990年代から街にどっぷりと浸かってファッションや音楽、クラブの変遷を間近で感じ、いろんなことを発信してきたのが、今回登場するフドウミチコさんとYoheyさんのご夫婦。フドウさんは日本屈指のミリタリーショップ『MASH』のスタッフとして、Yoheyさんは関西のクラブシーンを牽引し続ける『NOON』のマネージャーとして活躍中なので、ご存知の人は多いんじゃないでしょうか。そんなお2人にファッションのことや手がけているブランド<poseur>のこと、大阪のカルチャーのこと、そしてちょっぴり甘酸っぱい馴れ初めなどなど、たっぷりと聞いてきました。ディープになったりほっこりしたり、お2人が歩んできたええ話がいっぱいです!
何着ても似合うねってよく言われるけど、そうじゃない。今まで無駄と失敗をどれだけ繰り返してきたか。
お2人のことをいろいろ伺っていきたいんですが、まずはフドウさんから。フドウさんと言えば、昔からファッション雑誌のストリートスナップの常連的な存在で、いつ見ても「自分のスタイルを持ってる人だな」と思ってたんですが、ファッションでこだわってることって何ですか?
フドウ:ファッションが元々好きだったんですけど、腕や足がすごく細くて、それがイヤだったんです。普通に服を着てても細いのがバレるから、隠すためにレイヤードしたり、アームウォーマーやレッグウォーマーを付けたり。パンツやシャツを裏返して着たり、スカートにスカートを重ねたりとかもね。今でこそレイヤードは普通かもしれないけど、昔はそんなになかったからいつの間にか自分のスタイルの一つになったのかも。
コンプレックスを隠す手段でもあったんですね。
フドウ: そう、コンプレックスを楽しみながら補ううちにって感じ。だから、人からどう見えるとかは全然意識してなくて、「こんな風に着たらここはバレへんな」って自分を納得させることで、自信を持って街に出れたんですよ。多分、高校生くらいの頃からかな。
ファッションも自己表現の一つだから、他人よりも自分を納得させることが先決というのはすごく分かります。それに、何でも着こなせてるように感じますし。
フドウ:何着ても似合うねってよく言われるけど、そうじゃないんですよ。今まで無駄と失敗をどれだけ繰り返してきたか…(笑)。自分に似合わん服を着てた時もありましたからね。でも、1つの服でも「この着方は似合わんけど、こう着たらイケる」みたいなことが分かってくるから、何でも似合うんじゃなくて、結果的に似合う着こなしをしてるだけなんですよね。
なるほど!でも、それこそが“フドウさんスタイル”として映るんですよね。長らく『チャオパニック』で働かれてましたけど、キッカケは?
フドウ:長ったですねー、20年以上はお世話になりましたから。キッカケは偶然なんですけど、天王寺をぷらぷら歩いてる時にバイト募集の張り紙を見たんです。それでショップを覗いてみたら、「ここ、めちゃおもろいやん!」と思って。昔の『チャオパニック』を知ってる人なら分かると思いますけど、カヌーとかキャンプ用品とか、当時のファッション業界ではライフスタイル要素をいち早く取り入れてたショップだったんです。
JR大阪駅にあったGARE(現エキマルシェ大阪)のショップもそんな感じでしたね!
フドウ:そうそう。普通のセレクトショップじゃない雰囲気に惹かれて、働き始めたんです。本当に居心地のいい会社でしたね。面接で「好きなブランドは?」って聞かれた時に、「ギャルソンとアンダーカバー!」と正直に答えてしまって、「何で『チャオパニック』やねん」と思われたかもしれませんけどね(笑)
ツッコミたくなりますね、それ。でも、店頭に立つ時はショップで扱う服を着てたんですよね?
フドウ:今だと絶対アカンけど、めっちゃ自由でしたね。全身が裏原スタイルの時もありましたし(笑)。別ブランドの服を着て、自社商品を売るとかあり得ませんよね…。
今じゃアウトですね。ただ、セレクトショップ自体が今よりも自由奔放な雰囲気はあったような気もします。
フドウ:1990年代後半から2000年代にかけては、いろんなセレクトショップが出てきた頃だし、おもしろい時代でもあり、変な時代でもあったなと。
どんどん成熟していくような過渡期だったのかもしれませんね。『チャオパニック』では20年以上働かれてましたが、現在の『MASH』に移るのは何か理由があったんですか?
フドウ:居心地が良すぎて長く働かせてもらってましたけど、不況とか震災とか世の中もどんどん変化していくじゃないですか。アパレル業界もやっぱり時代の流れに抗えない部分も出てきて、次第に自分の感覚と合わなくなってきたんです。良いものを作って販売し、残ったらSALEするという流れが、いつの間にかSALEやアウトレットありきで考える部分も出てきて。その流れに身を置くのが、ちょっと無理かなと思うようになったんです。
時代の流れとは言え、服がめちゃくちゃ好きだからこそ耐えられなかったんですね。それで『MASH』へ?
フドウ:そうですね。昔からミリタリーは好きだったし、私物を見返しても「このアイテムのこの部分って、ミリタリーをサンプリングしてるよね?」みたいなことも多くて、やっぱ服のルーツはミリタリーにあるなと。ダッフルコートやピーコートもそうだし、服好きならミリタリーをもっと深く知っておくべきだなと思ったんです。働きながら勉強もできるし、その方が絶対楽しいし!
『MASH』はミリタリーの超老舗ですし、品揃えもハンパないですもんね。それに、時代の流れがあったとしても、やっぱり変わらずカッコイイなと思います。
フドウ:ホントめちゃくちゃカッコイイんですよ。ベトナム戦争時代のものとかどんだけ揃えてんのって思うし、見てるだけでやっぱりワクワクしますね。
Yohey:気になってずっと見てたら、たまに奥からオリジナルのスゴイやつを見せてくれたりもするしね。「え、こんなんあるん?」ってビックリする。
フドウ:私はまだ少ししか見せてもらってないけど、社長の私物とかはとんでもないものがあるみたいですよ(笑)
ミリタリー好きにとったら聖地。見始めたらあっという間に時間が過ぎちゃいますね。
フドウ:お客さんは最低でも1時間くらいは滞在してますもん。私はまだまだ知識不足やからお客さんに教えてもらうことも多くて、ちょっと聞いたらスゴイ情報量が返ってくるんです。「これは前期で、こっちは後期でこの部分があーなってこーなって」と…。
Yohey:よくぞ聞いてくれましたって感じやね。マニアックな情報やからそこまで外に出す機会もないし、みんなしゃべりたくてたまらんはず。
フドウ:すごく丁寧で細かく教えてくれ過ぎて、余計にちんぷんかんぷんになっちゃう感じ。「すいません!もう大丈夫です!」って(笑)
Yohey:そんな毎日やから、どんどんミリタリーの深みにハメられてるもんな?
フドウ:どんどん沼にハマってます。お客さんもみんな沼の住人ですからね。でもね、めちゃくちゃおもしろいんですよ。ステンシルや持ってた人の落書きが入ってたり、パイロットの服とか見るとどんな人が着てたんかなとか。1着1着にストーリーがあるから、それを想像するだけでも楽しいんです。
Yohey:ほら、しっかり沼にハマってるでしょ(笑)。年代はもちろんあるけど、アイテムそれぞれの表情も違うから、この世界の沼は尽きないんやろね。
底なし沼ですね。それだけ奥深い沼がある『MASH』で働いてると、いろんな影響を受けそうですが、物事や価値観の捉え方が変わったりはしましたか?
フドウ:普段の暮らしの中での物事の見方、扱い方は変わったかも。何かを進める時も1つ1つが慎重になったし、今まで雑に扱ってたものもすごく丁寧に扱うようになりましたね。
Yohey:それと、一言多くなったね。物事を進める間に何かしらのアクションが入ってくる感じ。あー、慎重にやってるなと。
フドウ:『MASH』の社長がホントにものを大事にする方なんです。日々の作業で使ってるものを大事に扱うことは、「お客さんにベストな状態でアイテムを提供することに繋がる」と聞かされて、私自身もすごく慎重になりました。時代の流れに沿う働き方もあるけど、私には今の方が合ってるなと。「求めてた場所はここだ!」って、改めて思えますからね。
フドウミチコ&Yohey
フドウさんは日本屈指の老舗ミリタリーショップ『MASH』に勤務。Yoheyさんは大阪を代表するクラブ『NOON』のマネジャー。ファッションやカルチャーにどっぷりと浸かりつつも、お互いの好きなことを認め合って楽しみを共有する日々。手がける<poseur>は、音楽を中心にその時代背景まで深く知れる稀有ブランドだから、要チェック。